Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Medianox_moon

    @Medianox_moon

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    Medianox_moon

    ☆quiet follow

    ワタクシが猫で、アナタがネコで 14話です。
    最終話の始まりです。

    ##ワタネコ
    ##ユントマ

    4話 ワタクシは猫で、アナタは  昨日から降り続く雨は止む気配も無い。雲のせいでまだ昼間なのに暗い空を見つめていると、テレビから天気予報が聞こえる。今夜から明日にかけて断続的に雨が降り続けるでしょう。それに今日は新月らしい。暗い夜になりそうだな、とトウマはぼんやり考えた。
     今日は妙にユンユンが甘えてくる。移動する先にまでついて足にすり寄るものだから、歩きにくくて仕方ない。どうしたんだよ、と撫でてやっても、ゴロゴロ喉を鳴らしたり、ナァンと鳴くばかりで答えてはくれなかった。
     今日はいっぱい甘やかしてすごすか、と猫じゃらしなどで遊んでやってすごしていると、トウマの携帯端末に連絡が入る。ソウジからだ。ちょっとお茶をしに行かないか、なんて珍しい。生活に余裕ができたんだなあ、とトウマは感心しながら、了承した。
    「ユンユン、ちょっと出かけてくるからお留守番頼むな」
     にゃ! と驚いたような声を出して、ユンユンはにゃあにゃあと足に絡みついてくる。行かせたくない様子だったから、トウマは困った顔をしてしゃがみこみ、ユンユンの頭を撫でた。
    「大丈夫、ソウジとちょっと食事しに行くだけだよ。夕方……そうだな、4時までには帰るって」
     みゃああ、と寂しそうに鳴くのは、少しかわいそうな気がして、トウマはひとしきりユンユンを撫でてやってから、「帰ったら『にゅ~る』あげるから」と約束した。するとユンユンは嬉しそうにいい子で留守番の構えに入ってくれたので、トウマは安心して部屋を出た。


     すっかり春になった街並みは温かくて、季節の移り変わりを感じる。あれからもトウマは時折ユンユンからとんでもないプレイをさせられたりしたけれど、その生活を別に嫌だと思ったことはない。勿論、翌日は信じられないくらい全身が痛むし、恥ずかしくてたまらないし、気持ち良くてどうにかなってしまいそうだけれど。
     ユンユンとの生活は幸福に満ちていたのだ。猫又だろうが、誰かと一緒に暮らすのは心地いい。それが愛する猫なら尚のこと。人になった時の奔放さにはドキドキさせられっぱなしだけれど、だからといって彼が苦手というわけでもない。むしろ、とても優しくしてくれるし、よくよく考えれば只者ではないような気がして。トウマはユンユンの全てを知らないけれど、彼を好きだと感じていた。
     今日は甘えん坊だったもんな、帰りに何か買ってあげよう。トウマはそんなことを考えながら、ソウジと待ち合わせの喫茶店まで歩いて行った。
     彼はこれまでしてもらってきた食事のお礼をしたいと言って、料金は持つから好きなだけ頼んでくれと張り切っていた。ソウジがそんな風に言えるようになるなんて、と内心感動をしつつも、トウマはいつもの量の注文をするだけに留めた。遠慮しなくても、とは言われたけれど、トウマはこうしたできごとが起こっただけで十分だったのだ。
     問題が起こったのは、店から出た後のことだ。降り続く雨が大きな水たまりを作っていたのだけれど、通りかかった車がその上を通過すると、盛大に水が跳ね上がって二人に襲い掛かった。うわーっ、と叫び声を上げて避けようとしたものの間に合わず、二人してびしょ濡れになってしまったのだ。
    「うわーっ、トウマ、うちに来いよ! ここからならうちのほうが近いから、シャワー浴びてけ!」
    「いや、でも」
    「いいからほら、そのまま家に帰ってたら風邪引いちまうからな」
     そうやって気を遣って来るのも彼にしては珍しい話で、トウマは始終感動しながら、ソウジの好意に甘えることにした。
     ソウジのアパートに向かい、ありがたくシャワーを使わせてもらう。その間に洗濯をしてくれていたようで、服を借りた。「もう今日はうちに泊まっても」とまで言い出したソウジに、トウマは慌てて首を振った。
    「いや、そういうわけにはいかない。ユンユンが待ってるからな」
    「あー……そっか。大変だな、猫ちゃんと一緒に暮らすのも」
     自由が奪われるよなあ。ソウジの言い方に、トウマは「うーん」と唸った。自由を、奪われているだろうか? まったくそうではないとも言い難いけれど、それ以上にユンユンとの時間はかけがえの無いものだ。
    「まあ、楽だとも言えないけど、大変なだけでも無いな。ユンユンと一緒にいると、満ち足りた気持ちになるんだ。撫でてやってるだけで心が癒されるし、そこにいてくれるだけでいい……っていうのかな? もうユンユン無しの生活なんて考えられないぐらい……」
    「お前~、そんなんじゃ彼女できないぞ」
    「ソウジだって居ないだろうが」
     軽口を叩き、笑い合って。それからソウジは「でもさ」と苦笑した。
    「なんかお互い変わったよな~。それこそ、トウマが猫ちゃん飼い始めたぐらいから」
    「……ああ、そうかも、な」
     そう頷いてから、ふいにソウジの部屋の時計を見る。もう4時が近い。ああ、4時までに帰るって約束したんだった。トウマは慌てて、「すまん、今日のところは服を借りて帰ってもいいか?」と尋ねた。あまり着ないパーカーとジャージで帰るのは少し落ち着かないが、背に腹は代えられない。ユンユンは携帯端末などを持っていないから、帰るのが遅れると連絡する手段が無いのだ。
    「あー、いいぜ。ついでにこの服も乾いたら持って行くからさ。猫ちゃんによろしくな~!」
     ソウジは快諾して見送ってくれた。とはいえ、靴だけはどうしようもなくて、ビシャビシャのまま履いて帰路に着く。足早に歩くその空は、まだ4時だというのに雨のせいで随分うす暗く思えた。
    (あれ、なんか……)
     この光景、見覚えがあるような。何か落ち着かない気持ちになって、少し息が上がるほどに歩く速度を上げる。ややして、カナタのペットショップに辿り着いた。
     店に入るとカナタは妙に入口に立っていて、トウマは「あれ」と思わず声を出した。するとカナタが「ああ、トウマ君」と困ったような顔をする。
    「さっき、君の友達がきて」
    「俺の、友達?」
    「ほら、白黒で、すごく背が高い外国人の子だよ。君を探しているようだったんだけど、よくみたらこんな雨なのに傘もさしてないし、裸足だし、一体何が有ったんだろうって心配してたところなんだ」
    「ユ、……アイツが⁈」
     ユンユンの名を出しそうになって、慌てて言葉を呑み込んだ。ペットショップの時計を見ても、まだ4時10分だ。そんな、探しに出るほど遅くなっているようには思えないのだけれど。いつも、少し遅れたぐらいなら普通に留守番をしていた。なのにどうして今日は。
     そういえば。今日は朝から妙に甘えていた。今日、だからなのか。トウマはわけがわからないまま、「カナタさん、そいつはどっちに行きました⁉」と尋ねる。カナタは「あっちのほうだよ」と街ではなく、小高い山の見えるほうを指差した。
    「わかりました、すいません、見つけたらまた連絡します!」
    「気を付けてなあ、今日は暗くなったら灯り無しじゃなんにも見えなくなるぞ、早く合流できたらいいんだが」
     トウマはカナタに頭を下げて、その道を駆けて行った。
     何故だろう。その道を知っている気がする。いつか、子猫を抱いて駆け抜けたような。いつのことだったか、いや、ユンユンを抱いて走った道ではない。だとしたら、いったいいつ――。
     橋を渡ると街並みは古めかしい物に変わる。ところどころに木々や空き家が現れ始め、ひなびた神社や寺、墓地も現れる。道行く人は雨のせいか殆どいなくて、薄暗い道はどんどん前が見えにくくなる。
     車道を過ぎる車の灯りが雨にチラつく。走っているせいで、ソウジに借りた服はあっという間に濡れてしまった。それでも、息が上がって熱いほどだ。心臓が爆発しそうなほどに走って、日頃運動不足の脚が悲鳴を上げる。ユンユン、と名を呼びながら、トウマはひたすら彼を探した。
     胸がザワザワする。何かを思い出しそうになって、その度にその記憶がかき消えて行く。ただ、曲がり角に来るたびに、確かな感覚がこちらだと告げているような気がした。トウマはどんどん街から離れて、山のほうへと向かっていく。その麓をぐるりと周る道に差し掛かって、トウマは足を止めた。ハァハァと呼吸を繰り返しながら、小高い山を見上げる。鳥居と長い石の階段が見えるから、きっと上には神社が有るのだろうが、こっちではないような気がした。きょろきょろと周りを見渡して、彼の名を呼ぶ。雨の音にかき消されて、それは誰にも届かない。
    「……?」
     理由はわからない。何が聞こえたというわけでもない。ただ、トウマは誘われるように歩みを進めた。道路から隠れるように草の生い茂る空地が並び、細い道が微かに存在しているのを見て、トウマは一瞬躊躇したけれど、その確かな感覚に踏み出す。
     高い草を掻き分けて奥へ進むと、1mほど草の刈られた円形の場所に出る。そこに、ユンユンが蹲っていた。なにやら20cmほどの小さな岩を抱えているようで、トウマはわけがわからず「ユンユン」と声をかけた。
    「……ッ!」
     彼はバッと振り返り、トウマを揺れる瞳で見上げている。信じられないものを見るような、泣き出しそうなような、何とも言い難い表情を浮かべていて、トウマはなんと言っていいかわからなかったけれど、少なくともそうせねばならないと思って、「ごめん、遅くなって」としゃがみこむと、ユンユンも入れるように傘を動かした。もう、二人共ずぶ濡れだったのだけれど。
    「約束、守れなくてごめんな、心配もかけて……。ユンユン、帰ろう?」
     そう言ってもユンユンはしばらく無反応だった。と、思ったのだけれど。トウマはふいに気付いた。雨のようにポロポロと、ユンユンの頬を伝っているのは、涙であると。
    「ユンユン、」
    「ご、しゅじん、さまぁあぁああ……ッ!」
     泣いているのだと気付いた次の瞬間、ユンユンは顔をクシャクシャに歪めて、トウマの胸に飛びついてきた。それで尻もちをついて、いよいよグシャグシャに濡れてしまったのだけれど、それどころではない。ユンユンはトウマに縋りついて、ワンワン咽び泣いている。
    「ユンユン、ユンユン……」
    「ごしゅじんさまああ、もう、わたくしをおいていかないでぇえ……」
     ひとりにしないで。慟哭を受け止めて、ぎゅっと抱きしめてやる。ごめん、大丈夫、ここにいるよ、ずっと一緒だよと言い聞かせても、ユンユンは泣くばかりで声が届いている気もしなかった。どうしてやれば、と背中を撫でていて、トウマは気付いた。
     ユンユンが先程抱いていた岩。それには微かに模様が彫ってあるのが見える。もう朽ちてそれは読めないが、恐らく文字だ。そして、そのぐらいの大きさの岩が昔何に使われていたか。トウマはなんとなく見当がついた。
     これは、墓だ。ユンユンは、誰かの墓を――いや。
     恐らく、岩も朽ちるほど昔に死んだ、本当の飼い主の墓を抱いていたのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    Medianox_moon

    MOURNING田中と宇津土とスキスギ君 っていうタイトルの、全くBLでもなんでもないコメディを書こうとしたものです。
    0 サラリーマンゾンビと神ベースとうっすい名刺 終わった。終わっちまった、何もかも。
     全てを失った……と言っても過言じゃない。俺はそう……一言で言って絶望に打ちひしがれ、孤独なサラリーマンゾンビのようにフラフラと歩いていたわけさ。
     街はすっかり日が暮れて、暗闇を街灯や店の照明が華やかに彩っている。道行く人は足早に駅へと向かう者と、逆にこれから夜を楽む者とでごった返していた。止まらない車の列は台風の日の河みたいに吸い込まれそう。そんな表通りは、サラリーマンゾンビと化した身には酷だ。
     そんなわけで、俺はその波から逃れるように、路地を曲がった。
     道が一本違うだけで随分静かになるもんだ。とはいっても、まだまだ繁華街の端。それなりに人は歩いていたし、暗い顔をして佇んでいる人影や、都会を生き抜く野良猫の姿も有る。通り一本挟んだ大通りの、人混みや車列がたてる音ははっきりと聞こえた。騒音だ。今の俺には、まごうことなき騒音。やけに大きく聞こえるから耳を塞ぎたくなったその時、俺の耳にボォン、と音が聞こえた。
    4734

    recommended works