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    sakura111624

    @sakura111624 主に原神のBL小説を書きます。空受け多め

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    sakura111624

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    トマ空 付き合う前日譚

    #トマ空
    #原神BL
    genshinBL

    俺が守るよ「俺はモンドの出身なんだ」そう言うトーマの横顔は、懐かしさや寂しさが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
    「なるほどね……」俺は相槌を打ちながら、自分の右手の指先を左手で握る。「帰りたいって考えたことはある?」空が訊くと、トーマは首を横に振った。
    「ないな。あそこは故郷だが、もう帰るところじゃない。それに……」彼はそこで言葉を止めて、少しの間黙り込んだ。それから口を開く。「……俺にはここでやるべきことがあるからね」
    彼の瞳の中に揺らめく強い意志を見て、俺は思わず息を飲む。そして、ふっと短く笑う。「それならいいんだ」
    トーマが不思議そうな顔をするので、「なんでもないよ」と付け加えた。
    俺たちはしばらく無言のまま甘金島の祭りの出店前を歩き続けた。街灯に照らされた夜道はもう行き交う人の数も少なくなっていた。今日はトーマが稲妻の祭り会場に案内してくれると、2人で訪れたのだった。
    やがて島の先端にある桜の樹の下まで辿り着く。ここは稲妻城が見える絶景スポットだ。
    「あれが稲妻城の天守閣だよ」遠くに見える城を指差してトーマは言った。
    「ああ、本当だ。ここからだとよく見えるね」空も同意する。
    桜の樹の下にはベンチが置かれていたため、そこに腰掛けた。
    「昔はよくここに来ていたんだけど、最近は忙しくてなかなか来れていなかったんだよね。でも今日は君が誘ってくれたおかげで久しぶりにここに来ることが出来たよ」トーマは嬉しそうに微笑む。
    「それは良かったよ」空の言葉に、トーマはうんと大きく一度首肯した。
    それから彼は視線を上げ、天守閣を見上げる。その横顔にはどこか悲しげな雰囲気があった。
    「あの城はさ、本当に素晴らしい城だと思うんだよ。今の時代にこんな立派な天守閣を持つ城を建てることが出来るなんて奇跡みたいなものだろう? それなのにこの国の人々はまるで興味がないみたいに振る舞っている……。それが俺は悲しいんだ」
    確かにトーマの言う通りかもしれない。この島では稲妻城の話題が出ることはほとんどないのだ。皆、他の話題に夢中で、そんな話など忘れてしまったかのように楽し気に日々を過ごしている。
    「この国はさ、みんな自分のことで精一杯だから他人のことになんか構っている暇がないのさ。だけど俺は……いや、俺たちはこの国の民のために何かしたいと思っている。そのために今は色々と動いているところなんだ」
    そう言ってトーマはこちらを向いて笑みを浮かべる。
    「そうだね。俺もこの国が好きだから出来る限りのことに協力したいと心の底から思っているよ」俺が答えると、トーマは優しく微笑んだ。それからしばらくの間、2人は何も言わずに並んでぼんやりと夜の街を見下ろし続けていた。……気が付くと辺りはかなり暗くなり始めていた。そろそろ帰らないとまずいなと思い始めた頃になって、突然トーマが立ち上がって声を上げた。
    「あっ! しまった!」
    「どうしたの?」驚いて俺が尋ねると、トーマは慌てて時計を見る。「花火の時間過ぎちゃったじゃないか! せっかく一緒に見ようと思っていたのに……」彼は残念そうに肩を落とした。
    「ごめんね。すっかり遅くなっちゃったね。宿まで送るよ」申し訳なさを感じながらも、空を安心させるように笑顔を浮かべて申し出ると、彼も仕方ないとばかりに苦笑いをした。
    「ありがとう」
    トーマが先導し、2人で来た道をゆっくりと戻って行く。祭りの喧騒はすでに消え失せていて、昼間とは打って変わって静かな空気に包まれていた。後ろをついて行く空はふと足をとめる。

    「ねえ、トーマ」彼が立ち止まったことに気づいたのか、前を行っていたトーマが振り返って返事をする。
    「何だい?」
    「俺たち、友達になれたかな?」
    トーマは少し驚いたような顔をしたがすぐに柔らかく笑って答えてくれた。
    「もちろんだよ。君は大切な友人だ」……違うんだ。俺が聞きたいことはそういうことじゃないんだ。俺が知りたいのは何なのか自分でもよく分からないけれど……。ただ漠然と思ったんだ。これから先ずっと彼の隣に居られたらどんなに幸せだろうかって……。
    ――ああ、これはきっと恋だ。俺はまだ彼に何も告げていないというのに、何故か胸の奥から熱いものが込み上げてきて止まらなかった。
    「俺……俺!なんの力にもなれないかもしれないけど……だけどっ!トーマの……トーマの傍にずっと……!」そこまで勢いで言ってしまい、急に恥ずかしさで顔が火照りトーマの顔を見れずに俯いてしまう。しかしトーマはすぐに明るい声で返してくれた。
    「ああ、頼りにしているよ」……違う、違わないけど違うんだ。だってこれじゃあ全然伝わっていなくて……。俺は耐えきれなくなってその場を走り去った。「ちょっ……!?旅人!??」慌てて空の後を追いかける。やっと追いつき、空の手を引いてこちらを向かせると、彼は目を潤ませて肩で息をしていた。
    「大丈夫かい? 一体どうしたっていうんだよ」心配して声をかけると空は泣きそうな顔をしながら呟いた。
    「俺……トーマの事……友達なんて思ってない!だって……だって俺トーマが……好きなんだよ!!」……え?今なんて言った?好き?誰が誰のことを??頭が混乱して思考が全くまとまらない。空の言葉の意味を理解しようとするのだが、なかなか理解できずにいた。ようやく言葉を飲み込んで頭の中で整理がついた頃には全身の力が抜けてその場にへたり込んでいた。
    「……はぁ。なんだよ……。俺はてっきり嫌われたのかと思った」「そんなわけっ!……んっ!」トーマは空を抱き寄せ言葉をキスで遮った。一瞬の出来事に反応出来ずにいる空を優しく見つめ、「俺も好きだよ。……はぁ〜ほんとは俺から言いたかったのになぁ…」ポリポリと頭をかき、コホンと咳払いをした後「改めて、言わせて欲しい。俺も空の事が好きだ。俺はこれからも神里家の家司として、若やお嬢に仕え稲妻を守って行く。だけど、1番に守りたいのは、空……君なんだよ。俺が、君を守るよ。」そう言ってトーマは優しく微笑んでくれた。その笑みを見た瞬間、再び目尻から涙が溢れてくる。「うん……! 」空は少し背伸びをしてトーマの首に腕を回し、今度は自分からトーマに口付けた。……月明かりが2人を照らしていた。
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