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    hinoki_a3_tdr

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    玲浩前提
    野々宮と浩太
    2人だけの送別会

    「ホントに行っちまうんだな」
    酒で赤らんだ頬をローテーブルに擦り付けて、野々宮はぽつりと零すように言った。それに浩太は苦笑いで返すしか出来ない。
    「あ〜あ! せっかくのキャリアを棒に振るなんて!勿体ね〜!!」
    「ははっ! まあ、そうだよな」
    「笑ってる場合かよ。ったく……」
    缶に残ったビールを煽り、野々宮は管を巻く。浩太の送別会、二次会を経て、二人きりの宅飲みへと場を移してからと言うもの、野々宮の小言が止まることはなかった。
    退職を決めた浩太を真っ先に引き止めたのは同期の彼だった。馬鹿なことをするな、何を考えているんだと、散々な言われようだったが、それが心配から来るものだ分かっていた。
    表向きは、海外留学だと話してある。学生時代からの夢で目標額が溜まったからと。しかし、彼だけには本当の理由を告げていた。
    「ただの不審者のために人生投げ出すなんて馬鹿げてる 」
    「まだ言うのか」
    「言うよ。言ったって聞きやしねえんだから、言わせろよ。お前は馬鹿だよ。どこにいるかもわかんねえ野郎を追いかけて、何がしたいって言うんだ」
    「……」
    「まだ恋人だとか、そういう理由があるなら素直に応援してやれるさ。でもそうじゃないんだろ?」
    「俺にはこれが恋とは思えない」
    「なのに追いかけるのか」
    「ああ」
    「……やっぱりお前は馬鹿だよ」
    空になった缶を煽って、中身がないこに気づく。勝手知ったるとばかりに、野々宮は流し台で水を汲んだ。
    「連絡よこせよ」
    「メールでいいか?」
    「バッカ。 そこは絵葉書だろ」
    「金がかかる」
    「それくらい出せよ。親友様だぞ」
    「高い親友代だな」
    「それで待っててやるんだ、むしろお得だろ」
    学生のような、中身のないやり取りを交わす。こんな会話、しばらくは交わせないだろう。そう思うと、不意に泣きそうになった。
    自分で決めたことに後悔はない。絶対に見つけ出す、そう決めた。だが、不安がないわけでは無いのだ。
    玲於を見つけ出せるだろうか、とか。見つけてどうするのだろうか、とか。考え出せばキリがない。それはだいたい良くない妄想で終わり、自分を気落ちさせるだけだ。
    べしっ、と頭に衝撃が走る。一瞬後に、鈍い痛みが追いかけてきた。いつ間に戻ってきたのか、目の前には野々宮が立っていた。
    「お前は大バカだけど、良い奴だよ」
    「なんだ、いきなり」
    「最初で最後の餞別だ。お前はさ、俺の人生の中で三本指に入るくらいには良い奴だよ。だから心配でもあった。いつか騙されるんじゃないかってな」
    「……」
    「その予感は的中したよ。よりによって一番タチの悪いの引っかかりやがった」
    「玲於はそんなんじゃ……!」
    「最後まで聞け。でもさ、やっぱりお前は良い奴なんだよ。騙したやつが後悔して心を入れ替えるくらいには。お前がそこまでして追いかけるってことは、そいつも底なしの良い奴になっちまったってことだ」
    「野々宮……」
    「早いとこ捕まえて、俺の前に連れこい。そしたら酒でも奢ってやるさ」
    最後にもう一度、べしりと頭を叩かれた。けれどそれ全く痛くなくて。なのに目からは、ボロボロと涙が溢れた。
    「ののみや」
    「おう」
    「絶対、つれてくるよ」
    「おう」
    にかりと笑った赤ら顔を、俺は一生忘れないだろう。
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