「あ〜! つづるんそれ!!!」
「うるさっ」
庇うように耳を覆って、音源の方へ振り向くと思っていた通りの人物が抜かりなくスマートフォンを掲げていた。
「高校時代のジャージじゃん! まだ持ってたんだ〜」
「まだ卒業して三年すから」
三好さんにとってもまだ記憶に新しいだろう学校指定のジャージを俺は未だに愛用していた。何せこいつ、俺ですらダサいと思うデザインのくせに結構いい値段がするのだ。そう思うとなかなか捨てられず、こうしてパジャマ代わりに着ているわけである。
「懐かしいー! オレもまだ持ってるよ」
「え、まだ持ってるんすか? 意外っす……」
「絵描くと結構汚れるからさ〜。それ用に置いてんの」
「なるほど……」
勝手に納得していると、三好さんの表情が変わった。こう、閃いた! みたいな顔。俺からすれば不吉の象徴だ。
「つづるん、ちょーっとここで待っててくんない?」
「嫌っす」
「ちょっぱやで行ってくっから!」
「嫌っす」
「じゃ!」
「嫌だっつってんだろ!?」
こちらの返事も聞かずバタバタと走り出した背中を見送ること数秒。いい逃げされただけなのだから無視して立ち去ればいいと思う自分と、それでも待ってしまうお人好しの自分が闘っているうちに、その人は戻ってきてしまった。……懐かしい格好をして。
「見てみて、オソロ〜」
「いや、何してんすか」
「せっかくだしツーショしたいなって」
「そんなこったろうと思ったけど……」
手のひらで額を覆って、深く息を吐く。やっぱり立ち去れば良かった。
こうなってしまっては手遅れだ。写真を撮るまでこの人は付きまとってくるに違いない。人間、諦めることも大切だ。
「1枚だけ、やり直しは聞きません」
「りょ!!」
調子よく敬礼ポーズを取る先輩に苛立ちを隠そうともせず俺は棒立ち、三好さんは慣れたようにその横でカメラに笑顔を向けている。こちらも俺の態度に関しては既に諦めているようだ。
「……っし! つづるんベリサン!」
「ハイハイ」
「これインステあげていい?」
「ダメって言ってもやるでしょ。いいっすよ別に。ただし、幸とか古市さんから苦情入っても俺は知らないんで」
「オッケー! じゃあ着替えてくんねー!」
やりたい放題して自室に帰っていく先輩を見送って、ようやく自分がなんのため出てきたのか思い出す。
「……顔も洗ってねえや」
紛うことなき寝起きの姿を世界に発信されたのだった。