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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    一応レトユリ。TSレト先生。ギャグにもエロにもならなかった。210902

    最初の異変に気付いたのは、ユーリスだった。
    「あんた……ちょっと、痩せたか?」
     がし、と掴んだ大司教猊下の裸の腰は、以前よりほっそりとしているように思えた。ついでにそのまま脇腹へ撫で上げて、胸元へと手を進める。以前は硬く引き締まっていた胸筋は、少々緩んで柔らかいような気がする。むに、と揉まれて、ベレトは
    「痩せてはいないと思うが……最近は体を動かすことが減ってしまったから、筋肉が衰えたのかもしれない」
     と少し悲しそうな顔をした。腕のあたりは変わっていないようだが、確かに剣よりもペンを持つことの方が多くなり、戦場を駆けまわることもなくなった今では筋肉の量が減っても不思議ではない。
    「今度、お忍びで孤児院の子どもたちに剣術でも教えに行こうぜ」
    「ああ、いいな」
     ベッドに横たわり、ユーリスはベレトを慰めながら隣へ誘った。婚儀を挙げて数年が経つが、二人の仲の良さは変わらない。最近は戦争が終わった直後の忙しさが嘘だったかのように穏やかな日々が続いている。ベレトはセテスの助力を受けながらうまく教会の仕事を割り振ることに成功したし、ディミトリの治世が安定しているおかげで貴族同士の小競り合いも滅多に起こらない。
     平民たちは争いごとにビクビク怯える必要がなくなり、自分たちの生業に専念することができるようになった。明日の食べ物に困るような人々を減らすことができたのは、ユーリスの助言あってのものだ。次は文字を読んだり書いたり、ちょっとした計算ができる人たちが増えればもっと良い、と彼は言う。
    「子供たちの教育か……」
    「最近はどこへ行っても赤ん坊の泣き声が聞こえてくるよな。ベレトも名前をつけてやるのに飽きてきただろ」
    「なかなかいい名前が浮かばないと、困ってしまうんだ」
     生まれたばかりの赤ん坊を渡されて、どうかこの子に名前を授けてくださいと請われることが確かに増えた。先日も街の一角で赤子を抱かされ、ユーリスと一緒に名前を考えてやったばかりだ。胸に温かな若い命を抱くと、その重さがずっしりと腕に圧し掛かる。無垢な瞳を覗き込むベレトの横顔は少々緊張しているようにも、慈愛に満ち溢れているようにも見えた。
    ユーリスも子供は好きだ。ベレトが抱いている横からちょっかいを出し、小さな手に指先を握られて、思わず笑い声をあげた。その笑顔が、何故だかベレトの目にはとても眩しく映った。
    (子供か……)
     ベレトはユーリスの頬に口付けを落とし、抱き寄せる。民も大切だが、この体温と命が一番愛おしい。はっきりとそう感じながらユーリスの柔らかい髪に頬を擦りつけると、可愛らしい笑い声が上がった。

    「……これって、この前より膨らんでる……よな?」
    「……俺も、そう思う」
     数日後、再び寝所で服を脱ぎ、ベレトは途方に暮れた様子で自分の体を見下ろした。胸が、はっきり膨らんできているのである。十代の乙女程度には。
     この前ユーリスに指摘された時は、てっきり鍛錬不足だと思っていた。自分を鍛え直すべく、朝早く起きてユーリスと訓練所で手合わせをしたり、見回りがてらガルグ=マクの中を歩き回る時間を増やしたりしたのだが……その甲斐なく、服がどんどんぶかぶかになっていく。
    「おいおい、こっちは縮んでるんじゃねえか……!?」
    「ウッ……やはり、そうだろうか……」
     下の方を確認して悲鳴を上げたのはユーリスの方だった。胸が膨らみ、腰が細くなり、男のシンボルの方は小ぶりになって来てしまっているのだ。日々手洗いに立つたび己の手ごたえが軽くなっていく恐怖は筆舌しがたいものがある。食欲は衰えないのに、体は軽くなっていく……
     つまりは、徐々に女の体に変化して行っている……!?
     ベレトとユーリスは共通の考えに至ったが、それよりも何かの病気や魔術の類かもしれない、明日一番にマヌエラ先生に相談しよう、ということで決まった。
    「なんか、変な感じだな……身長も縮んだか?」
     ユーリスは、自分の腕の中に納まってしまいそうなベレトにしっかり寄り添って、燭台の火を魔法で吹き消した。不安そうな顔でユーリスを見つめる目は変わらないのに、体は変化している。
    「自分が変わってしまったら、どうしたらいいんだ」
    「あんた、五年前にも変わっちまったことがあるじゃねえか。案外、これもその時と同じことかも」
    「同じ……」
     自分に流れる血が、普通と違っていることは知っている。ベレトは天蓋をじっと睨み、自分の胸に触れてみる。ふわっとした肉の手ごたえは、知らない体のものだ。
    「もし、俺の体が……」
    「ん?」
    「以前と姿が変わってしまったら、……」
    「……バ~カ、あんたはあんただろ」
     新緑色の髪に口付けて、ユーリスはベレトに抱き着いた。しっかり抱きしめ返して、ベレトはその温もりに安堵する。吐き出した息は妙に熱く、眼を閉じても瞼の裏はチカチカ光って、なかなか寝付けない。
    『やれやれ、ほんっとうに世話の焼ける……』
     夢の中で、懐かしい声が聴こえた気がした。

    「……昨晩あんたはあんただって、言ったばっかだけどよ……本当に、あんたなんだよな?」
    「……そうだ」
     翌朝。ユーリスは自分の隣に眠っていた美女を発見し、おっかなびっくり揺さぶり起こした。眠そうに眼をこすり、ずるりと肩から夜着を落としながら「おはよう、    」と呼ばれた名は自分のもので、その瞬間確信した。
     新緑色の長い髪。昨日とは比べ物にならないほどたわわに膨らんだ胸。細いがしっかりと筋肉の乗った四肢、むっちりとした太もも……姿かたちは変わってしまっているが、彼いや彼女は確かに自分の伴侶なのだ、と。
    「ベレト、おま……完璧に、女になっちまってるぞ……」
    「そのようだな……」
     むにい、と自分の胸を両手で鷲掴み、ベレトはその重さに「ちょっと大きすぎないか?」と不安になる。確かにデカいな、と返しつつ、ユーリスは眼のやり場に困るやら困っている自分がなんだかおかしい気がするやらで忙しい。ベレトはベレトで股間に手をやり、眼を丸くしている。
    「何もない……!」
    「うっ……やっぱりなくなってんのか……?」
     昨日までそこについていたはずのものが消え失せ、ふわっとした下生えの奥には割れ目があるばかりだ。初めての場所に触れるのが恐ろしいのか、そっと手を引いたベレトを見て、ユーリスはちょっとばかり興味が湧く。いやしかしそんな場合ではない。
    「すぐマヌエラ先生に……」
    「うーん……いや、なんとなくだが、大丈夫な気がする」
    「はあ?」
     ベレトは「実は夢で……」と説明をしたが、ユーリスは半分理解したような、まるで納得できないような顔で、あんぐりと口を開けている。
    「つまり、女神様の力で……ってことか?」
    「多分、そうだと思う……」
     すっかり女の体になってしまった伴侶を上から下まで眺め、ユーリスは溜息を吐いた。空間を切り裂いて闇から抜け出し、髪の色が抜けてしまった姿を見た時も度肝を抜かれたが、今度は女神の力で性別が変わってしまうとは。そんなのありか、と言ってしまえばそれまでだが、五年前にも納得して結婚までした仲だ。信じるしかない。そもそも、女神の力を受け継いだ男性、というところが既に矛盾していたのだ。女神として女になったとすれば、真の姿になったということなのかもしれない……
     しばらく二人してうんうん唸りながら討論を交わしたが、いい加減侍女を追い払い、セテスからの使いを待たせるのも限界だ。とにかく人払いをして、今日一日休む旨を伝えたが、いつまでも隠し通せることではあるまい。
    「恐らくだが、もとに戻る方法には心当たりがある」
    「マジかよ。先に言え」
    「いや、不確かだし、それに時間がかかりそうで」
    「時間がかかる? どれくらいだ?」
    「一年……いや、もっとか?」
    「駄目じゃねえか」
     でもまあ言えよ、と促され、ベレトは数秒の沈黙の後、口を開いた。
    「この間、赤ん坊の相手をしているきみを見て、とても良いなと思った」
    「ふうん?」
    「それで……多分、子どもが欲しいような、気がした」
    「へえ?」
    「……だから、女になってしまったのかも」
    「……子どもをつくるために?」
    「そう」
     遠い目をして天を仰いでしまったユーリスに、ベレトは「やはり言わなければ良かった」とちょっと後悔する。しかし、他に思い当らなかったのだ。
     あの時、自分たちに子どもがいたらどんなだろうと想像した。抱いているのがユーリスと自分の子だったら、ユーリスはやっぱりあんな顔で笑うのだろうか。それとも、もっともっと幸せそうな顔で、見たことがないくらい眩しい笑顔で自分のことを見るのだろうか。二人で名前を考えて、自分たちとその子の未来のためにもっと頑張らないとな、なんて話をして。
     そんなありふれた幸せを、彼に与えてやりたい。彼と一緒に経験したい。あの日、そんな考えが頭を過ぎったのは、確かだった。
    「それで体が女になるとは予想外だったが、これで子作りはできる」
    「子っ……そりゃそうだが……」
     ユーリスは改めてベレトの体を見て、思わず唾を飲み込んだ。透き通るような肌に、申し分ないプロポーション。顔はまあ、俺様の方が美しいかもしれないが、それでもミス・ファーガス間違いなしだろう。不安そうな表情で見上げられると、男としてクるものはある。
    「あーしかし、なんだ? その……」
    「……」
     無言で見つめないでほしい。無口な方だとは知ってはいるが、今は卑怯だ。
     片手で頭を抱え、ユーリスは意を決してベレトを抱き寄せた。普段とは違う、柔らかな体。細くなってしまった肩。心なしか長くなっていた髪から、甘い香りがした。
    「あんたは、あんただ……俺は、あんたが男だって承知して結婚した……子どもなんて、」
    「……」
    「子どもなんていなくったっていいんだ。俺は、ベレトが好きだから……あんたを愛してるから、ずっと一緒にいたいって思ったんだぜ」
    「……ありがとう、    」
     ベレトは大きな背を抱き返し、そっと目を閉じる。
    「そのうち、もとに戻るような気がするよ」
    「そうか」
    「でもそれはそれとして、してはみるだろ?」
    「まあな?」
     せっかくもぎ取った休日だ。知的好奇心を満たすのに使っても、女神は罰を当てやしないだろう。二人は再びベッドに潜り込み、変わってしまったベレトの体を熱心に探り始めた。


    暫くの間、大司教の代理を務める美女の噂がガルグ=マク中に広まったが、謁見することが叶ったのはほんの一握りの人間だけだった。そしてその隣には大司教の留守を任された、伴侶であるユーリスがしっかりと付き従い、職務をサポートしていたという。
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