🦦の母親にふたりで挨拶に行くことになった🌸🦦「桜井さん、────今度、わたしの母親に会って、挨拶してくれませんか...?」
やたらとこちらの様子を盗み見て(バレバレだが)挙動不審でいた彼女に我慢ならず、何なんだよ、と切り出してみれば。
こちらの機嫌がどれだけ悪くなっているかを声のトーンと眉間の皺の深さで察したらしい彼女は、恐る恐るそう切り出した。
「......あぁ?」
「す、すみません!!違うんです!!あの、うちのお母さんったら、誰か良い人いないの?って、ずっとわたしのこと心配してて......ついにこの間、お見合いしないかって写真持ってこられて...日取りまで決められちゃいそうになってですね...!!」
思い掛けないその言葉にじっと彼女を見つめ返せば、彼女は眉尻を下げて俯いた。
「...わたしは行きたくない、行けないって、何度も言ったんですけど、お母さんも譲らなくて......もうどうしようもなくて、会社の先輩と付き合ってるから無理って言ったら、じゃあ一度家に連れて来なさい、と......」
溜め息を吐く。
「......わかった。」
「.........え...?」
「...わかったから、行ってやるっつってんだよ。...ただし、ちゃんと設定作って練習してからだからな?この仕事のことバレるわけにはいかねぇんだから。」
「わ...わかりました!!...ありがとうございます...!」
カナコの実家に到着。挨拶したり、お茶菓子渡したり。
「カナコったら、今まで料理なんて全然やる気もなかったのに、急にいろいろ頑張り出して、ねぇ?」
「ちょっ...お母さん!!本当やめてそういうの!」
彼女が母親似であることは既に、以前こいつが帰省する間の警護をすることになった時に写真を見せられていた為に知ってはいた。が、いざこうして面と向かって会話している様子を見ると、ちょっとした仕草や話すトーンまでもが似ている事を思い知らされて、あぁ、血が繋がってるってこういう事なんだよな、と思う。
「あの〜、わたし、ちょっとトイレ行ってきますけど...お母さん、変なこと桜井さんに話さないでよね?!」
「はいはい、いいから、早くいってらっしゃい?」
にぎやかな彼女が席を外して、急に訪れた静かな間に、なんとなくきまりが悪くなって、とりあえず黙って目の前に出されたお茶に口をつける。その温かさに、ふと、店でも自宅でもない場所で他人が煎れたお茶など飲むのはこれが初めてかもしれないと気付いた。
彼女の母親からの視線を感じて、不自然にならないようにとこちらも顔を向ければ、彼女の母親は嬉しそうに目を細めた。
「...今日は本当にごめんなさいね、お仕事忙しいところに無理を言っちゃって、ここまで来て頂いて。」
「......いえ。いつか来たいと思っていたので。...こちらこそ、ご挨拶が遅くなってしまってすみません。」
そう言ったのは、こう言われたらこう返すと事前に考えていた言葉のひとつだった。声の調子などは違和感無くいけただろうが、どうしても言い慣れないその内容に視線をさりげなく伏せれば、目の前の彼女の母親はそっと微笑んだ。
「...あの子、わたしにはずっと隠していたつもりだったかもしれないけど、何となくそういうお相手が居るのかしら?ってずっと思ってたのよ?...単純に恥ずかしかったのか、わたしに反対されると思ったのか知らないけど......わたしがそんな、カナコが自分で決めたことを邪魔したりするはずないのにねぇ?」
「あの子、今の会社で働き始めてから、本当に生き生きしてるの。それだけ今の仕事が好きで、あの子に合っているんだなって思ってたけど......それだけじゃなくて、あなたと出会ったからだったのね。」
「あの子の幸せが、わたしの何よりの幸せなの。だから...本当に、ありがとうね。カナコの事を好きになってくれて、いつも側に居てくれて。」
「...もしこれからあなたに何かあった時も、わたしの事を親のように思って、頼ってくれてもいいからね!...って言っても、大した事は何も出来ないかも知れないけれど...!」
「......そんな事ないです。ありがとうございます。」
戻ってくるカナコ。眉間にぐっと皺を寄せたその表情が子どものようで、思わず見入ってしまう。
「...ちょっとお母さん!桜井さんに何も余計なこと話してないよね?!」
「あら失礼ね、そんな何もしてないわよ、ねぇ桜井さん?...あっ、お茶もっと飲むかしら?ちょっと淹れてくるわね〜」
彼女の母親はカナコのそれを意にも介さずのんびりとそう言って、台所へと立ちに行った。
あぁ、最悪だ。
彼女をこの世に産み落とした人。彼女の唯一の肉親。
こちらが一方的に知っているだけの、どこか遠い存在だったものが、一気にリアルになって。相手の視界に、思考に入って、はっきりと自分のことを認識されてしまった。
万が一のことがあった時に悲しませたくないと思う人間が、この世にまたひとり、増えてしまった。
嘘をついている罪悪感が胸をぐっと締め付けるけれど、でも、この殺し屋生活が彼女にとっての幸せであるんだと、殺し屋として生きてきた俺が彼女の隣にいることを、許されてしまった。
彼女が、これから何十年か生きていったら。例えば、いま目の前に居る彼女の母親と、同じくらいの年齢になったら。彼女は一体、どんな人になっているのだろうか。今以上に母親に似た顔立ちで、今と変わらず、ころころ表情を変えつつ、のん気に笑っていたりするのだろうか。────それを、生きて、彼女の隣で確かめたいと。まだ見ぬ先の彼女へと、ふたりが共に在る未来へと、思いを馳せてしまった。
それは、自分にとっては途方も無い夢物語のように思えて、考えないようにしてきた事だったのに。
ふと彼女を見れば、ぼんやりとそんな考え事をしていた自分以上に、真剣で深刻な顔で、心配そうにこちらを見ていた。
「...桜井さん、大丈夫ですか?疲れちゃいましたよね?そろそろ帰りましょうか!」
「...いや。...お前、母親と会うの久しぶりだろ?頻繁には帰って来れないんだから、別にそんな急がなくても、お前の好きなようにしろよ。」
カナコは驚いたように目を丸くして、そして嬉しそうに、幸せそうにふわりと笑った。
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明らかに交際してる相手がいる感じなのに隠そうとし続けるカナコに焦れて、お見合いの話を出してカマをかけてカナコに認めさせるついでに、そのお相手に顔を見せに来てもらうとこまで押したカナコ母。血の繋がりに触れ、更にはそこに“普通に”温かく迎え入れられた事に、思わずいろいろと考えさせらてしまう桜井さん。と、物思いにふける桜井さんの様子に、桜井さんを疲れさせていないか、桜井さん自身は親の顔を知らないのに悲しませていないか、とにかく心配になっちゃうカナコ。ポルノグラフィティさんの楽曲ラビュー・ラビューの2番サビが書きたくて始めたはずなのに、それ以外の部分でボリューム出過ぎてしまった。あと話の締め方がわからずじまい。