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    julius_r_sub

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    julius_r_sub

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    大幅改訂したからまだR-18入れてない進捗ぅ……

     オレは──いや、私はそれを成し遂げなければならない。森の民と、町の民の諍いを無くさなくてはならない。だというのに──!

     ある将校が目を覚ますとそこは知らない部屋の中だった。見覚えのない本棚に机、椅子。机の上には怪しげな瓶がズラリと並んでいる。
     どこだここは、と立ち上がろうとすれば両腕が強い力で引かれて叶わない。そもそも、両腕が前に来ない。一体どういうことなのだろうかと後ろを見遣ると両腕は縄で縛られており、別の縄で柱のような物に繋がれていた。

    「おや?お目覚めですか?」
    「!!」

     ふと、部屋の奥から声が聞こえてきた。それは、聞き馴染みのある声で──

    「お前は……!!」
    「おはようございます、将校殿。」

     それは、この町に大臣から派遣された参謀役であり、自分をここへ捕らえた張本人の彼だった。

     意識を失う直前のことはよく覚えている。険悪な仲である町と森の間に建てられたこの館へ派遣された将校、司は双方の宝を用いて和平条約を結ぼうとしていた。その約束を交わしてから今日まで特に問題もなく話は進み、司はとうとう双方の宝を預かることに成功する。しかし、いざその宝を交換しようとしたその時、参謀役であったはずの男が邪魔をしてきたのだ。なんでも彼の直属の上司である大臣は森の宝である“黒い油”を欲しているらしくその為に司は目障りな存在であったようだ。
     司はどうにか縄を解けないか奮闘するがいくら足掻こうとも縄が解けることなく手首の痛みが増すばかりだ。すると「手首が血だらけになりますよ」と一言、上から声がかかる。

    「いい加減大人しくされたらどうです?」
    「…………私を解放しろ。」
    「お断りします。」

     司の参謀役であり大臣の部下であるこの男──類は、薄い笑みを浮かべながら司を見下ろしていた。司をこの部屋に軟禁して、その上宝まで奪った類という男は酷く狡猾だ。つい昨日までは司の参謀役として動いていたというのに。

    「随分と大臣を慕っているようだな?」
    「ええ。」
    「私は王からこの館に派遣された。その理由は分かるな?森の民から町を守る為だ。」
    「そうですね。」
    「…………っ!」

     冷たい、端的に発された返事は司をイラつかせる。しかし感情に任せて声を荒らげることは極力したくなかった為、司は罵倒の言葉を飲み込んで類をキッと睨みつけ、務めて冷静に言葉を紡いだ。

    「いいか、今回の和平交渉を無事に終えることが出来れば町の民と森の民はもう争うことは無い。お前たちは王の命令を遂行しようとしている私を……」
    「ふふふ、回りくどい。つまり私と大臣──我が主は王の意向に背いていると言いたいのですね?なんら問題ありませんよ。」

     類の発言に司は目を剥いた。なんということだろうか、どうやらこの男は王に逆らうことをなんとも思っていないらしい。不敬にも程がある。

    「お、お前……」
    「近いうちに我が主がこの国の王になりますから。それに、私たちは王の意向には背いてはいません。これから森の民は森ごと焼き払われます。彼らが居なくなれば町の民には平穏が訪れる。」
    「こ……っの、ひとでなし共!!!」
    「なんとでもどうぞ。どうせあなたは死ぬのです。」

     悔しい、今すぐにでも斬り殺してやりたいというのに動けない。それどころか今、司は命を握られている状態だ。
     どうしよう、何か打開する策は無いだろうか。必死に頭の中で考えを巡らせるが司には何も思いつかない。縄は解けそうに無いし縄を切る道具も見当たらない、部下に助けを求められるような物すら見つけられない。

    「そもそも、何故私を生かしているんだ。」
    「今殺すより、混乱に乗じて葬った方が都合が良いと思いまして。」

     司は小さく舌打ちをする。参謀役と大臣は、相当計算高い。きっと自分を、森の民をこの状況に追い込む為に様々な準備をしてきたのだろう。ならばここから突破口を見出すのは難しい。

    「…………取り引きをしないか?」
    「……なんです、急に。」

     さて、司は、人を率いることは得意だった。兵士たちの心を掴み、導く。王にもそれを評価されこの館に派遣されたほどだ。しかし今この場において、この状況で、類相手にその特技は役立たないだろう。そう判断した司は自力の脱出を諦めて男へ取り引きを求めた。

    「取り引き、なんてあなたにも出来たのですね。」
    「ははっ!私を敵を制圧するしか能がない男だとでも思っていたか?」
    「いいえ?今回交渉という方法をとったのは他でもないあなたなのですから……いやそれ以前にそんなに低い評価は下していませんよ。こちら側も少々手を焼きましたし。」

     ぽつりと呟かれた言葉に対して司は訝しげに眉を顰めた。馬鹿にしたかと思えば次の瞬間上げるようなことを言う、一体何を考えているのかさっぱり分からない。

    「それで?取り引きとは?」
    「あ、あぁ!」

     分からない──が、一応こちらの話は聞いてくれるらしい。とりあえずは解放してもらえる程度の条件を出さなければ。

    「“黒い油”は……森の中から湧いてくる液体なんだ。」
    「……ほう、そうなんですね。」
    「お前たちが奪ったのは森の民の守っていた宝のほんの一部に過ぎない。私は“黒い油”がどこから、どう湧き出るのか、そしてそれをどう手に入れるのかを教えて貰っている。」
    「……………………」
    「お前たちが言うように森を焼き払ってしまえば“黒い油”は二度と手に入らん。油に引火して永遠に燃え続けてしまうだろう?それに……森の民と町の民が衝突すれば必ず火薬が使用されるだろう。そうなればうっかり弾みで森が、いや、油が、燃えてしまうかもしれない。」
    「まぁ、そう、ですね。」
    「私なら民たちを説得し、暴動を止め、安全に“黒い油”を回収出来る。……どうだ、私を解放した方がお前たちの得になると思うが?」

     部屋に沈黙が訪れる。類は表情を変えないまま静かに司を見下ろし、司はそれに対抗するように毅然として目を逸らさなかった。
     さぁ、どうなる?
     実は、司の言うことはほとんどハッタリだ。“黒い油”の出処なんて知らない。あるらしいとあの少女は言っていたが司は知らないのだ。もしかしたら無いのかもしれない。この嘘は大臣たちが森のことを調べ尽くしていればこんな話はデタラメだと言い張るだろう。しかし類を含む大臣の部下たちは森の民に司ほど深く接触してはいないはずだ、すなわち司のハッタリを見抜くほどの判断材料を持っていないはず。ここから解放されることはなくとも銃撃戦を行うことくらいは避けてくれるだろう、司はそれを期待していた。

    「…………なるほど、それが本当ならば、少なくとも森付近での銃火器の使用は禁じなければなりませんね。」
    「ああ、辞めておいた方がいいぞ?」

     考え込む類に悟られぬように司はホッと息を吐く。ひとまず銃撃戦の音を聞く羽目になることはなさそうだ。しかし森の民から危機が去った訳では無い、ここからが勝負。おそらく類は司のハッタリに半信半疑だ。

    「私を解放すれば半永久的に森から“黒い油”をお前たちに提供出来るが。」

     ダメ押しというようにもう一度。あくまで相手側に利益があるように。自分を解放した方が良いと、思わせなければ。しかし、類は何も言わないままゆっくりと口の端を上げる。

    「なかなかに良い条件ですが──私たちはひとまず“黒い油”さえ手に入れられればそれで良いのですよ?それに、そんな出処なんて知ってどうするんですか?森の民が“黒い油”の採取をそう簡単に認めてくれましょうか、きっと答えは否です。」
    「っ…………」

     しまった、そこまで考えてはいなかった。確かに大臣にとって重要なのは“黒い油”そのものだ、その前提を司は忘れていた。こんなことならば類に捕まったとき油を地面にぶちまけてしまえば良かった、なんて今更な後悔、形勢逆転だ。
     そんな司の焦った表情に類は人の悪い笑みを浮かべる。このままではダメだ、どうにかしなければ。

    「わ、私ならば森の民に信用されている。いつも私の部屋へ来ていた娘は族長の一人娘……故に今回の和平交渉もすんなりと話が進んだのだ。」
    「ふふふ、確証の無い取り引きに応じる得がこちらにはありませんね。」
    「…………!!」

     チェックメイト、と言われたような気がした。類は勝利を確信したような笑顔で司を見下ろしていて、思わず舌打ちをしたくなる。

    「取り引き、は終わりましたか?」
    「い、いやっ……」
    「安心してください、あなたは悪人として殺す予定ですけれどちゃんと後に名誉回復をして差し上げます。」
    「なっ…………、そういう問題では無い!オレはっ、なんの罪も無い森の民に死んで欲しくないんだ!!」

     ギシリ、と両腕に繋がれた縄が鳴った。いくら力を入れようとも解けないし引きちぎることも出来ない。自分の無力さを思い知らされているようだ。瞳で人を殺せる能力が欲しいと思ったことは生きていて初めてだった。

    「お優しいですね。」
    「お前たちが、非道なだけだろう……!!」

     憎しみをありったけ込めて睨みつけようと類は涼しい顔をして笑うのみで、更に司を苛立たせる。しかし、苛立つ以上に焦りの感情が出てきた。このままでは森を、森の民を守れない。ここから打開するには…………!!

    「わ……分かった!“黒い油”は持って行ってくれて構わん!それを大臣に献上でもなんでもするがいい!ただ私を解放してくれ、それか、町の民と森の民の争いを防いでくれ!!」
    「……!」

     それは、ほとんどやけくそで放った言葉だった。そんな司の言葉を聞いた男は予想外だとでも言うように目を丸くする。当たり前だ、取り引きなんて言えるようなものじゃない。
     司の狙いは和平交渉の要である“黒い油”を譲渡して解放してもらい、そこからせめて森の民と町の民の争いを止めること。宝を失っておいて争いを止められるかは分からない──が、きっとあの少女なら、心優しい森の民ならば、話せば分かってくれるはずだ。大臣達は“黒い油”さえ手に入れられれば良い。ならば本来は民たちを争わせる必要なんて無いはずだ。いや、もしかしたら必要があるのかもしれないが、大臣たちにとっての目下の目標は“黒い油”を回収することには違いない。
     しかし、この取り引きは致命的な欠陥を抱えている。今“黒い油”は司が持っている訳ではなく類たちが奪っている。それを譲るも何もないのだ。

    「ふふ、相変わらず将校殿はお優しくあられる。取り引きというには強引過ぎますが──そうですね、宝を自由にしていいと言うなら解放くらいはして差しあげてもよろしいですよ。」
    「何?!本当か?!」
    「えぇ、その代わり“黒い油”の件は見逃して下さるということでよろしいですか?」
    「あ、あぁ!」

     なんだ、意外と話が分かるじゃないか!司からは思わず笑顔がこぼれ落ちる。
     ひょっとして類は自分を殺すつもりが最初から無かったのではないだろうか?宝を失ってしまえば男がこれ以上手を加えずとも司の信用は地に落ちるはずなのだから。

    「とは言ったものの、それだけでは物足りませんね。」
    「え……」
    「私の方からあと1つ条件を追加させていただきましょう。」
    「……む……い、良いだろう。」

     どうやら相手にとっては条件不足だったらしい。まぁ仕方ない、解放してもらえるだけ有難いと思わなければ──なんて、司はすっかり気を抜いていた。どうせ要求されるのはここでの地位や金銭だとばかり思い込んでいたのだ。

    「解放する代わりに私の相手になってもらいましょうか。」

     だから、こんな台詞は予想外だった。
     相手……?相手とは、何かの実験とかだろうか。この参謀役は、怪しい人体実験を自分の部屋で行っているという噂が流れたこともある。死なない程度で済めばいいが。

    「相手……とは?」
    「えぇ、相手、です。」
    「いや、だから、人体実験、とか?」
    「いいえ?性行為の……と言ったら分かりますかね?」
    「せっ……?!」
    「あなたのココに、私のモノを収めて頂こうと思いまして。」

     とんでもない、おぞましい言葉と共に、ゆっくり、司は臀部を指でなぞられた。今、なんと言った?一度に多くの情報を詰め込まれて頭が混乱してしまう。性行為?性行為とは、アレか。でも、それは、一般的には男女で行われるもので、好き好んで男同士でやるものでは無いが。困惑を抱いたまま恐る恐る類の顔を見上げると愉快そうに笑っていた。

    「良いですね、その表情。いつも自信に満ち、すました態度のあなただからこそ得られる高揚感があるというものです。」
    「ま……、て。ココ、て、っ、……」
    「男同士でも出来ること、まさか将校殿が存じていないはずがありませんよね?」
    「………………っ。」
    「解放されたくば私に抱かれて下さい。」
    「いや、あのっ……」
    「どうされますか?」

     男同士でも性行為が出来るというのは、知っている。前線に居れば高揚感を抑えるために同じ戦場にいた男を慰め者にしていたのはよくある話だ。けれどそれを今ここで要求されるなんて誰が思うだろうか。
     返事が出来ない司に類は一言、「あなたが大人しく抱かれればこの部屋から解放して差し上げますしそうなれば争いは止められますよ。」と耳元で呟く。馬鹿な話だ。男に大人しく抱かれる男なんて居ない。

    「一体何が不満なのですか?私はあなたの潔さに感服し、取り引きに応じているのですよ?」
    「か、かんぷく?」
    「今後の火種になりかねないあなたはここで処分するべきです──が、あまりの必死さに心を動かされたということですよ。」
    「ぅ…………」

     どうすれば良い?考えようによってはコイツに抱かれさえすれば森の民との紛争を避けられるかもしれない、けれどその約束を守ってくれるかも分からない。
     すぐに決断を下すことなんて出来る筈がないだろう。

    「どうしますか?司将校?」
    「…………!!」

     どちらにせよ、抱かれなければ進まない話には変わりない。ここで受け入れなければ、司と森の民の先に見えるのは“死”という一文字。司は脱力したように息を吐く。結局、選択肢なんてあってないようなものなのだ。
     覚悟を決めるしかない。

    「大人しく、抱かれてやれば、解放してくれるんだな……?」
    「ええ、この部屋から解放して差し上げますよ。」
    「わ、かっ、た……好きにしろ!」







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