ある「元」光の戦士の6.01その3フェオは激怒した。
必ず、『かわいい若木』の心を覗かねばならぬと決意した。
フェオには人間の心がわからぬ。
フェオはイル・メグのピクシーである。
魔法を操り、人間と遊んで暮らしてきた。
けれども『かわいい若木』の気まぐれには人一倍に鈍感であった。
今日未明フィーネはクリスタリウムを出発し、世界を越え山越え、十里はなれたここモードゥナの市にやって来た。
――探さないでください――
そんなありきたりの書き置きを残して。
それがどれほど『美しい枝』の機嫌を損ね厄介なことになるかとも知らずに。
「モードゥナって食べ物売ってないの?」
市に並ぶのは採集を行う者、製作を行う者向けの品ばかりだが、道具や装備に限っていて、料理の素材になりそうなものは何ひとつない。
「せっかく、ひとつきぶりにクリスタリウムを出たのに」
極力クリスタリウム近辺で過ごしていたフィーネだが、一時間ほど移動をすればモードゥナにたどり着けることに突然気づいて思い立ち、食材を求めて足を伸ばしたのだった。
「おかしいな。石の家ではおいしいごはんがたくさん食べられたのに。あれは一体どこで買ったんだろう」
首をかしげるフィーネの足元から、不敵な笑い声がした。
「ふっふっふ……ようやく私の努力に気づいてくれたのでっすね」
フィーネが振り返ると、誰もいなかった。
「このあたりにもピクシーがいるのかもしれないな。さて、帰ろう」
歩き出す右足に赤い帽子が近づいたと思いきや、高速低空タックルを決められフィーネは吹き飛んだ。
「アムレンが遅れたっ…」
「甘いのでっす全盛期のフィーネさんなら3mジャストでロウブロウからの迅速スリプルアクアオーラだったはずでっす」
「アクアオーラはもう幻術士ギルドでは教えないらしいよ」
「え……?」
間。
突然高速で後ろに飛び退いたフィーネの動きに、赤い帽子は完全に追随する。
「イルーシブジャンプも縮地もアン・アヴァンも完璧な散開を予習済みでっす」
「だれだそんな無駄な攻略情報を流したのは」
「グ・ラハさんの手帳にぎっしり癖が記録されていまっした」
「プライバシーの侵害だーーー」
しばしの小競り合いの後、暁の血盟の受付、兼金庫番であるタタル=タルは見事フィーネ=リゾルートを拘束することに成功した。