ある「元」光の戦士の6.01その4「まさかタタルさんにホルムギャングの素養があったなんて」
「暴れるヤクを生捕りにするのに便利なのでっす」
「オーバースペックだよ」
「放射状なのが当てづらいのでっす」
「それはオーバーパワーだよ」
タタル、戦士にでもなるのだろうか。
「フィーネさん元気がありませんねえ」
「タタルさんのせいだよ」
縛り上げて石の家まで連行されてきた。その直後に元気が出るものか。
やれやれ、と肩を落とすフィーネの全身を、タタルの視線が上から下まで何度も往復する。
「少し痩せまっしたか……?それに、なぜ弓を持っているのでっす?」
「不健康なわけじゃないよ。今はのんびりしているし、冒険していた頃より食べる量が減ったかな」
タタルの指摘はもっともで、フィーネは暁の血盟と行動を共にしていた頃から痩せている。とはいえ、あの頃は毎日野を駆け、魔物と戦い、帝国と戦い、蛮神を討滅し、夜には疲れたと叫びながら大量の食事を摂って風呂に入りすぐに熟睡していた。
生活の変化を考えれば、身体の方も当然の変化だろう。
「そうなのでっすね……」
タタルの視線は弓に注がれている。
フィーネの得物は元々はガンブレードか槍、他にも使ったことはあるが大半が近接武器だった。
タタルの目にはなぜいまさら弓なのか、と疑問に映っているのだろう。
「弓なら、狩りにも使えるからね」
「魔物を倒すんでっすか……?」
「今は自給自足の生活をしているんだよ。だから、肉が食べられる動物を狩れると良かったんだけど……。でも、銀泪湖にはそんな動物いなかったし、植物に至ってはほどんど見当たらなかったし」
ため息をつきつつ、言葉を続ける。
「釣りはあちこちでやってみたんだけど、魚を釣っても食べられるものがなかなかいないんだよね」
にやり、とタタルの口角が上がる。
「魚は食べられないわけではないのでっすが、特殊な処理が必要なことも多いのでっす。私の得意分野でっすよ」
「え、ほんと?」
「はい!だいたいの魚は食べられるようにはしてみせまっす!まあ、どうやっても美味しくない魚もいまっすし、毒があるものはやめた方が良いと思いまっすが」
「そんなのいるんだ?」
「美味しくない魚はけっこういまっすよ。毒のあるものも少なからずいるはずでっす」
「そういうこと。食べられそうな魚もみんなやめとけ、って言うし安くしか売れないんだ。よくわからないものが多いんだね……」
長年の小さな疑問が解けた。
今度から大量に釣れた魚は専門家にでも見せてみようか……。
「このあたりだと、銀泪湖はおすすめしないでっす」
「どうして?」
「毒性のある魚がいるでっすよ。あと、美味しい魚もいないでっす。そもそもこのあたりでは食料調達に向かない土地なのでっすよ」
「そっか……」
本当にアテが外れた。せっかくクリスタリウムから直行できる(直行できるのはフィーネだけであるが)土地だったのだが。
「湿原の方にでも行ってみようかなあ」
フィーネは持ってきていたハチェットを取り出し、何気なく刃を光に当てて確認する。
「迷霧湿原でっすか?なにもないでっすよ……ライトニングシャードが掘れるくらいのはずでっす」
「ライトニングシャードかあ……」
当然食べられないし、調理をするのにも不要な触媒だ。
ダラガブの破片が刺さっている土地は結晶に覆われていることが多く、それはエーテルが凝固したものだと聞く。迷霧湿原には雷のエーテルが凝固しているのかもしれない。
「グリダニアに向かってはどうでっすか?」
「えーっと、今日中にはクリスタリウムに帰るつもりなんだよね」
「チョコボに乗れば、ここからグリダニアまでは一時間くらいのはずでっす。このあたりよりも、黒衣森に行ったほうが食べられるものは多いはずでっす」
「そうか、そういえば」
クリスタリウムからモードゥナまで一時間。モードゥナからグリダニアまでも一時間。すなわち第一世界からグリダニアまでが片道二時間とは盲点だった。
「タタルさんありがとう!希望の灯火が見えてきた」
「大げさすぎでは?」
「今の私には大問題なのさ」
フィーネは手早く荷物をまとめて立ち上がる。
「行くのは良いでっすけど、月に一回くらいは顔を見せるなり連絡してくださっいね!」
「なんだよータタルさんわたしのママかよー」
「あなたたちは気づいたら野垂れ死んでいそうで不安なのでっす」
”たち”って誰とくくられたんだろう。アルフィノ、アリゼーではなさそうだ。彼ら、けっこうマメだし。クルルさんもマメだし、娘がいるサンクレッドも違うだろう。他、研究に没頭しすぎてうっかり死にそうな人たち。あとは……いるな、気づいたら野垂れ死んでいそうな無職……今のわたしも無職だ……。
「大丈夫、死なないよ。彼と一緒にされたくないから」
「だれとは言っていないのでっすが」
あたりってことじゃない?
「大丈夫、大丈夫。グリダニアは慣れているし、私が冒険者を始めたころに住んでいたからね。また、こっちに来たときには必ず寄るよ」
「約束でっすよ」
石の家のドアを開ける。モードゥナはよく晴れていた。
「これならチョコボも、気持ちよく走ってくれそうだ」
ひらり、と待っていたチョコボに飛び乗って。
「じゃあね、タタルさん。元気でね!」
「はい、フィーネさんこそ本当にお身体に気をつけるでっすよ!」
チョコボの腹を軽く蹴り、心地よい揺れとともに風を切って走り出す。
「フィーネさんなら、もっと簡単にごはんを食べる方法がありそうでっすけど……」
疑問を感じながら、タタルは小さくなっていくチョコボの上の背中を見送った。