ある「元」光の戦士の6.01その10「ピクシー 仲直りの方法 おすすめ」
「どうしたんです、急に」
博物陳列館の螺旋階段のその先で、ベーク=ラグと議論していたモーレンがぽかんとした顔で聞き返す。
「ガーロンド社のデータベース検索システムは単語を並べると情報を出してくれたから……」
「ガーロ?よくわかりませんが、ピクシー族について知りたいということですね」
ガーロンドの名は通じなかったか。ミーン工芸館で実録システムが稼働していたし、こっちではアラグの方が知られているかもしれない。
「その通りです」
「とはいえ、ピクシー族に関しての資料は少ないんですよ。気まぐれでいたずらが好きというくらいかな」
そのくらいならフィーネも知っている。ただその気まぐれがよくわからないので聞きに来たのだが。
「うーん、イル・メグまで行って他のピクシーの話も聞いてみるべきかなあ。彼女は今のわたしの数少ない理解者、だと思ってたんだけど。どうしても言動がわからないことがあってね」
「狂い咲きのフェオ=ウルですか。水晶公から優れたピクシーだと聞いています。私も会ったことはありますが、ほかのピクシー族よりも落ち着いているし、いたずらされたなんて話も聞かないですよ」
ベーク=ラグも口を挟んでくる。
「落ち着いているかはわからんが、他のピクシーのほうがよほど気ままには感じるな」
「え?彼女はどんなピクシーよりもいたずら好きで、気ままで、わがままだよ」
フィーネは眉をゆがませる。自分の持つフェオの印象が彼らの持つそれとだいぶ違う。
「フェオさんはフィーネさんに対してだけ、いたずらが多いように思います」
軽い足音ともに、階段の下から栗色の髪の少女が現れる。
「リーン!あれ、少し背が伸びたんじゃない?」
ずい、とフィーネが近寄ってカーフスキン・ライダースキャップを脱ぐ。
「わ、なんですか」
急に頭に手を乗せられて、リーンはおどろき後ずさる。
「よしよし。まだまだ追い抜かれるまで余裕があるね」
フィーネが自分の頭にも手を乗せ高さを比べて、リーンの成長を確かめる。
「おぬし、さては身長にコンプレックスがあるな?」
「チッ……」
「おい、舌打ちしたぞこの英雄……」
「ま、まあまあ、おふたりともそのあたりで……子どもも見ていますし」
「子ども……もしかしてですけど、わたしのことですか」
にらみ合いをはじめたふたりを仲裁しようとしたモーレンに、踊るようにヘイトが跳ねる。
「あ、いや……その、そうだ、フィーネさんいったい何があったんでしょうか、詳しく話を聞いてみればわかることもあるかもしれないでしょう」
確かに、と全員の視線が交錯し、モーレンは難を逃れフィーネが事の顛末を話し始める。
話を聞き終えたリーンが、片手で頬をぽんぽんと叩く。ヤ・シュトラがよくする仕草だ。癖がうつったのだろうか。
「あの、もしかしてなんですけどフェオさんはつれていって欲しかっただけなんじゃないでしょうか?」
「え?」
フィーネは首をかしげる。
「だからその、原初世界でもフィーネさんが行くところにはついていきたいのでは?」
「疲れるだけなのに」
「そういうことじゃないんですよ……」
リーンが苦笑する。少女を困らせてしまったし気をつかわせてしまった気がする。よくない気がする。特に大人としての立場がまずい気がする。
「フェオさんはフィーネさんともっと一緒にいたいんじゃないかってことなんです。わたしから見ると、フィーネさんのことが大好きなのに置いていかれたからすねちゃっているんじゃないかなって」
大好き……あのフェオが。
「彼女がそんなにわたしを慕っているのかな。そんなことある」
「えーと」
リーンは腕組みをする。
「例えばなんですけど、サンクレッドはわたしのことをすごく大切にしてくれていたみたいなんです」
「それはわかるよ」
「みなさんそういうんですけど、わたしからするとよくわからないっていうか。会ったときからサンクレッドはサンクレッドなので」
「少し前まで、女性にだらしない優男って感じだったからね」
モーレンがそうなんですか?とおどろいた目で訴えてくる。フィーネはやれやれと頭を振りながら、そうなんですよと目で返す。
「うーん、でもわたしが知っているサンクレッドはしょっちゅう眉間にしわが寄っていて、気難しそうな顔をしていて。みなさんと旅をするようになってからようやく柔らかい顔になってくれたっていうか」
今度はモーレンが同調したようにうなずいている。ベーク=ラグは興味深そうにモーレンとリーンの顔を交互に見た。
「リーンのことを考えていて、不器用だからそうなっちゃっただけだと思うなあ」
フィーネはリーンの頭をぽんぽんした。やわらかくさらさらの髪が心地良い。
「だ、だから、フィーネさんとフェオさんも同じなのかなって。まわりの人から見るとわかりやすいのに、お互いの気持ちがかみ合っていないっていうか」
また子ども扱いされたと思ったのか、逃げるように頭を手で覆いながらリーンが距離をとる。
「あーフェオちゃん不器用だからね」
「どっちかっていうとあなたの方だと思いますよ……」
え、という形でフィーネの顔がこわばる。
「ひ、人付き合い苦手な自覚はあったんだけど、不器用に思われてた……」
「はい」
「いつから」
「ユールモアを脱出したあたりでしょうか」
最初からってことではモーレンとベーク=ラグの方に視線をやると、二人とも苦笑していた。
「だから、フィーネさんもフェオさんにもっとわかりやすく好いていることを伝えるべきなんですっ」
「フェオちゃんにもっと大好きアピールを……」
「そのとおりですっ」
力強くリーンが言い放つ。両手の拳も握っている。
「リーンはいつもかわいいね」
「話をそらしてはダメですっそういうことするから伝わりづらいんですよっ」
「うっ」
少女の的確な指摘を受けて狼狽する「元」光の戦士、兼、闇の戦士を目の当たりにして、モーレンとベーク=ラグはまたも苦笑した。