ある「元」光の戦士の6.01その11「どうもー調理師のフィーネです」
「えっとじょ、助手のリーンです」
二人の目が合い、そのまま同時に頭をさげる。
「よろしくおねがいしまーす」
「よっよろしくおねがいします」
フィーネの拍手につられてリーンも拍手する。
「我が『美しい枝』みてるー今日もかわいいね愛してるぜ」
明後日の方角に決め顔でウィンクを飛ばす。リーンは黙っていれば美人なのになと思った。
「そしてーーーミーン工芸館のみんなみてるぅ」
なぞのテンションでゴリ押すフィーネにつられて歓声があがる。闇の戦士の肩書は絶大である。
「わ、わぁーっ」
「や、闇の戦士さま~」
「ふ、ふぅーーー」
前言撤回、闇の戦士の肩書をもっても、全然そろっていない。
「えっと。なんですかこれ」
ぽかーんと口をあけて見ていたリーンが耐えきれずに聞いてしまった。
「うん。まあ、しかたないよね」
「なにがですか」
「リーンはつっこみの才能があるね」
「話そらさないでください」
本日二度目のお叱りである。
「ちゃんとしてる……」
「フィーネさんもちゃんとしてください」
「はい」
彼女に叱られるのはさまざまな意味でこたえる。
「フィーネ。これはミーン工芸館からの試験でもあるんだよ。あんまりふざけてるとリーヴ発注しないからね」
「ご無体な……」
「真面目にやりましょう」
ミーン工芸館のカットリスとリーンに挟まれて、フィーネは頭をうだなれる。
数時間前、博物陳列館でモーレンとベーク=ラグからひととおりピクシーの話を聞き終えたあとだ。
「まあ、だいたいわかったけど……フェオはどうしたら仲直りしてくれるのかな。ピクシーの情報は役に立ちそうだけど、今怒らせちゃったのをなんとか許してもらわないと」
「手紙でもかいてみたらどうだ?」
「どうやって届けるのよ」
「……妖精王宛で、ピクシーに渡すとか」
「いたずらの格好の餌食」
「まあ、そうだな」
ベーク=ラグの意見を一蹴して、フィーネはふと思い当たる。
「イル・メグってりんご、あるよね」
「あります、ピクシーアップルアップルパイにするととても美味しいんですよ。ウリエンジェが作ってくれました」
「ウリエンジェが。アップルパイを」
意外な組み合わせだ。いやでも、プディングも作っていたらしいからな。
「イル・メグにりんごがあるのなら、ピクシーはりんごが好きだったりしないかなあ。ちょうどむこうから持ってきたりんごがあるんだ」
黒衣森で採れたてのフェアリーアップルだ。
「ピクシーの食事は花の蜜が主と聞いていますが」
モーレンがあごに手を当てる。
「ウリエンジェが、気づくとアップルパイが減っていることがあるそうなのでピクシーが食べているんじゃないかと言っていましたよ」
リーンがモーレンに説明する。
「試してみる価値はあるかもしれぬな。良いではないか、おぬし、料理できたであろ」
ベーク=ラグに促され、フィーネもやってみようという気が湧いてきた。
「まあね」
リムサ・ロミンサの調理師ギルドで修行を積んでいるし、ナナモ陛下に料理を振る舞ったこともある。フェオに振る舞うのも望むところだ。
その後、アップルパイを焼くための道具を借りようと、ミーン工芸館で相談してみた。すると闇の戦士がクリスタリウムで引きこもり……もとい、休暇中ということがバレ、それなら人手が欲しいという話になり。逃げようとしたらフィーネが食料調達に苦労していることがバレて捕まった。(バラしたのはベーク=ラグである)
今回の料理が上手くできたならそのまま料理関連のリーヴを回してもらえる手筈になっていて、試験とはそういうことである。
フィーネとしても収入が入るのはありがたい話だったのでそのまま引き受けることにした。余った料理ももらえたりしないだろうか。
そして現在。
「じゃあ作ろうか。アップルタルト」
気を取り直してフィーネは作業に取りかかる。
「アップルパイじゃなかったんですか?」
リーンが首をかしげた。
「カットリスさんがいうには、水分量の違いでアップルタルトの方が良さそうって言われたんだよ。小麦粉はわたしが買ってきたものを使うから、その相性もあるみたいだね」
グリダニアで手に入れたとっておきの食材で、保存もきくし用途も幅広い。まさに文明開化、技術的特異点。それが小麦粉なのである
「そうなんですね。そういえばウリエンジェが使っていたのはアップランド小麦粉でした」
「アップルパイもそのうち作りたいよね」
じゅるり、とよだれが湧いて出る。何を隠そうフィーネは甘党である。
「そうですね。まずは……アップルタルトですっ」
リーンは気合を入れるように握りこぶしを作る。そしてフィーネはりんごをまな板に置き包丁を構えた。
「よーし。がんばろう」
ちなみにだが、フィーネの就職活動に巻き込まれたことにリーンは気づいていない。
~おまけ~
フェアリーアップル
黒衣森の東部森林で採取できる。ところが説明にはクルザス原産と書いてある。
黒衣森はクルザスじゃないですよねよしださん
余談1:ピクシーアップルとフェアリーアップル。どちらも妖精のりんごであるが、グリダニアで妖精といったらシルフ。世界が分割された際にピクシーとシルフに分かたれていたりしないだろうか。
余談2:ピクシーで思い出したけどポークシーはポークの妖精だからポークシーなのだろうか。
小麦粉
リムサ・ロミンサで買うか、ラノシアで小麦を採取して作るしかないかと思われた、幅広い用途を持ったみんなの夢を叶える完全に合法の白い粉。
第一世界でもグリダニアでも手に入らないじゃんと嘆いていたらフレンドがグリダニアで買えると教えてくれた。
どこで買えるかってミィケット近くにある粉屋……。(存在を忘れていた。誰が知ってんねん)
ライ麦粉も売っているが第一世界のレシピと相性は悪く買うのは諦めた。