ある「元」光の戦士の6.01その12 斬撃、殴打、旋回し、そして炎。すさまじく動くフィーネの動きに、リーンは合わせようと必死に立ち回るが及ばない。
「フィーネさん、なんだか戦っているかのようですね」
「食べることは生きるということ。食べ物を作る調理場は、戦場だよ」
「わからなくもないんですけど、無駄な動きが多いと思います」
リーンは最近遠慮がなくなった、一体誰に似たんだろう。と、寂しさを感じつつもリーンの成長を喜ぶフィーネは頬に流れる汗をぬぐうと一息入れる。
「みんなの分も作ったから焼けたら食べてね」
調理開始後、一度はカットリスに「仕事に戻れ」と言われ散り散りになっていた職人たちだが、闇の戦士でもあるフィーネがのアクロバティックな調理に人が集まっていた。
☆アクロバットは調理に必要ありません。良識ある皆様はフィーネの悪ふざけを真似ることはおやめください。普通に危ないです☆
おお、と声が上がるとともに、「焼けるまでに仕事しろ」とカットリスの激が飛ぶ。
そしてふたたび、人は散らばっていった。
「あとはオーブンで焼きあがるのを待つだけだから、片づけしようか」
フィーネとリーンが並んで立ち、調理器具の洗い物を始める。
「そういえばフィーネさんにお願いがあるんです」
「ほほう」
ボウルについた生地の残りを洗い流しながら、リーンの話に角を貸す。
「最近ガンブレードの扱いを練習をしているんです。その、サンクレッドみたいにみんなを護りながら戦えたらなあって。だから、わたしにガンブレイカーの戦い方を教えてください」
リーンの目は真剣だ。そしてガンブレードはフィーネが最も多く使ってきた得物でもある。想いに応えてあげられれば良いのだけど。
「ちょっと難しいかなあ。サンクレッドと流派違うし」
「フィーネさんの師匠とサンクレッドの師匠は同門だと聞いていますよ」
知っていたか。
「え、えーとちょっと違うから。ほら、ソイルの魔力の込め方とか」
「サンクレッドは自分で魔力を込められないから、わたしの魔力を使っていました」
まーそーだけどそーだけど。
「んーーーまだリーンには早いかな」
「一緒に戦ったのに……」
そんな目で見ないで欲しい。
「実はいま、前のようには戦えないんだよ」
観念して、フィーネは少しだけ本音を漏らす。
「えっどこかけがでもしているんですか」
「んー、まあ、そのような、違うような」
まあ一応、静養しにクリスタリウムに来たところはある。ような。
リーンがフィーネの身体を頭の先から爪先まで何度も眺める。光の巫女の力でなにかわかるのだろうか。
「変わったところはなさそうに見えます……」
「そうなのか」
「あ、あれ、もしかして不調かどうかはまだわからないんでしょうか」
「うーん……そうだな、しばらくそっとしておいてほしいかな」
フィーネは頬をかく。
「ごめんなさい」
ぴしゃっという水音とともにリーンの鼻の頭に泡が飛ぶ。
「あ。ごめんね」
フィーネは慌てて手をふくと、リーンの顔をぬぐっていく。
「い、いえ、大丈夫」
「あんまり気にしないでね。ガンブレードは難しいけれど、弓とか、あまり得意じゃないけど魔法なら教えられるかも」
「魔法ウリエンジェみたいな占星術、教えてほしいです」
「えー、無理かな……」
「や、やっぱりどこか悪いんですか」
「いや」
「占星術は使わないんでしたっけ」
「学んだことはあるけれど」
「けれど」
「苦手なんだよなあ~」
天を仰ぎながらぼやくフィーネの気の抜けた横顔を見て、戸惑いの顔を見せていたリーンがくすりと笑った。
~おまけ~
アウラの角 = 聴覚の器官なので「角を貸す」は「耳を貸す」と同義です。