ある「元」光の戦士の6.02その10「美味しかった……」
いっぱいになったおなかをさするフィーネの口から、ふぁ、とひとつあくびが出る。
となりにいたフェオもふわぁ、とあくびする。
「お、移った」
「移っていないのだわ」
ウィメがからかうように言い、フェオが返す。
「フェオ=ウルってフィーネ以外に冷たいよな」
「そんなことはないのだわ」
そんな二人を横目に、フィーネが立ち上がる。
「じゃあ、ごはんもいただいたところで」
「うん?」
相槌を打つウィメは槍を磨いている。
「帰るね」
「まてまて」
あわてて槍から手を放し、ウィメの手がフィーネの肩をつかんだ。
「食い逃げで指名手配するぞ」
「御無体な」
笑顔でウィメの手をはがそうとする。
(握力つっよ)
(笑顔でめちゃくちゃ抵抗するなコイツ)
しばらく均衡状態が続き、ウィメが切り札を使う。
「ミーン工芸館に通報するぞ」
その瞬間、フィーネが神速で正座する。
「一宿一飯の恩義。返させていただきます」
「なにそれ」
ウィメはぽかん、とした顔で聞き返す。
「若木がたまにするその座り方、痛くないのかしら」
フェオも不思議そうな様子だ。
「これは正座といって、礼儀正しい座り方だよ。ほら私礼儀正しいじゃない」
「弱みをつかまれているだけなのだわ」
正座したままフィーネは話を続ける。何か困っていることはないか、欲しいものはないか……。つまりは新しい仕事(とごはんのための報酬)が欲しい。
スルーされたフェオはフィーネの髪の毛を勝手に編みはじめる。
「ゴリラ退治とかどうかな」
「あーそれはお高いですね。人数も必要です」
Aモブである。ハントすれば確かに報酬は良いだろうが。
「大丈夫、うちの里から人数は出せる。あとは指揮を執る人が欲しかったんだよ」
「アルメじゃだめなのかい」
「ねーちゃんクリスタリウムやユールモアに手紙書いたり、行き来もしててさ。ガイコウってやつ」
確かに先ほどからアルメの姿がない。彼女は本来、武人向きのように感じるが、政務もこなすとは多彩なものだ。
「才能があると苦労するね」
「なんだよそれー」
「若木が嫌味を言ったのだわ……」
フェオはすっかりフィーネの髪を三つ編みに仕上げていた。
フィーネは「んぇ」とあいまいな返事をして、手入れを終えたらしいウィメの槍に手を伸ばす。
「あー嫌味だったのか」
「んーん」
ウィメが槍を手に取りフィーネに柄の方を向けて差し出した。
「フィーネも多彩で苦労してるもんなあ」
「私に才能なんてないよ」
「才能ないやつが闇の戦士なんて呼ばれるかよ」
フィーネは槍の穂先をつかんでゆする。
「私にあったのは運と、エーテルが変質しなくなる変な加護と、自分が美味しく食べられるごはんを作る才能だけさ」
「戦いの才能もあるだろ……おい、私の槍」
フィーネが柄を両手で持って強く揺さぶっている。
ガチャン。
ウィメの槍の大きな穂先が鈍い音をあげる。鎖で柄とつながっているそれは地面に落ちはしなかったものの、明らかに外れている。
「やっぱり、破損しているね」
「今朝、狩りをした時はなんともなかったぞ」
ウィメの目は壊したな、と言いたげである。
「柄が割れてる。割れ目がまだ新しいから、今朝割れたんじゃないかな。点検はしたの」
フィーネは槍を地面に置き、分解して穂先を外して見せる。中から現れた柄は、彼女の言うとおり割れてしまっていた。
「特に変わったところはなかったし、よく見なかったな……」
「戦いが終わったなら、安全な場所に移動して点検した方が良いよ。武器が壊れていたら命取りだ」
さらに槍全体を調べながら、淡々と述べていく。
「他は大丈夫そうかな。でも点検は使うたびにしてね」
「わかった……疑って悪かったよ。これ、直るかなあ」
「木材ある」
ウィメが愛槍を心配している間にフィーネがノコギリとクローハンマーを取り出していた。他にも素材をいくつか並べている。修理する気らしい。
「ホワイトアッシュの原木なら、あったはず」
言うとウィメは走っていく。
「相変わらず足が速い」
「若木もかなり速いと思うわよ」
肩にあごを乗せたフェオがぷにぷにとフィーネのほおをつっついている。
「私はあんなに走れないよ。瞬発力なら負けないけど」
「前後左右に飛びまわるものね」
「戦っていれば、どうしてもね。でも左右はあまり飛んだことないと思うけど」
フェオのほおをつつき返す。口をとんがらせて彼女は空に舞い上がる。
「フィーネーこれで良いかー」
戻ってきたウィメが担いでいるのは、原木というより丸太である。その状態で全力疾走で向かってくる。
「あ」
急停止しようとした彼女だが、勢いを殺しきれずに滑り込んできた。
突っ込んできた丸太を見て、フィーネは思いっきり横に飛びのいた。
~おまけ~
ウィメの槍
キタンナ・ガーディアンスピア。75IDの槍。
ホワイトアッシュ原木
ラケティカ大森林で採集できる。