ある「元」光の戦士の6.02その11「やっぱり左右にも飛びまわるのだわ」
空から眺めていたフェオが茶化す。
「必死に避けただけだよ。びっくりした」
「ごめんって」
謝るウィメは、フィーネの修理で元通りになった槍を手にさっそく鍛錬を始めている。型の練習だろうか。
「私もソイルがジャムったガンブレードでゼノスと戦った時は死ぬかと思ったよ」
思い出した記憶を払うようにフィーネが首を振る。
「そうだ、ガンブレードあのヘンテコな剣どうしたんだ銀髪のにーちゃんとおそろいだったろ」
別におそろいだったわけではない。同時期にガンブレイカーの鍛錬を始めただけだ。第一世界で出会った時、お互いの得物を見て驚いたものである。
「最近は使ってないね」
「飽きちゃったのか」
うーん、とフィーネがあごに指を当てる。
「いまはいらないだけ。必要になったらまたがんばるよ」
やや困った顔で、しかし笑いながら答える。
「もったいないなー槍持ってるのも見たことあるけどへっぽこだったろガンブレードの方が絶対強いって」
「だれがへっぽこ引きこもりニート竜騎士だ‼︎」
「そこまで言ってない」
被害妄想をして憤慨するフィーネにウィメが否定した。
「半分当たりなのだわ」
そう言うフェオはいつのまにやらハニークロワッサンを食べている。
「フェオがいじめる」
「激励よ」
「もっとやさしくして」
クロワッサンの油がついた手で、フェオがフィーネの頭をなで始める。
「それ私も欲しい」
やさしくされて元気になったフィーネがクロワッサンに手を伸ばすと、フェオは食べていたクロワッサンを半分ちぎって差し出す。
「仲良くていいな〜。私たち姉妹も仲良しだけど、フィーネとフェオは相棒って感じが良いよな」
ウィメの言い方には屈託というものがない。裏表のない性格なのだろう。
「ところでこのクロワッサン誰の」
もぐもぐ食べながらフィーネが尋ねると、ウィメが「あっ」と小さな声をもらす。
「たぶん……ねーちゃんの……」
ウィメが困ったように眉をひそめる。
「……」
「……」
若木と枝の視線が交錯する。
(里の長のおやつ勝手に食べるのは良くないよ)
(あなただって共犯なのだわ)
(出禁になったらどうしよっか)
(里の長がそんなにケチなはずないのだわ)
顔を寄せてひそひそもぐもぐしながら相談する二人をよそに、ウィメが思案する。
「仕事をして返してくれれば良いんじゃないかな」
「その仕事がなくて困ってるんだ」
フィーネが口の中のクロワッサンを飲み込みながらしゃべる。
「大丈夫」
自分の槍を軽く持ち上げて見せると、ウィメが声を張り上げた。
「なーみんな腕の良い職人がいるんだ修理して欲しい武器とかないかー」
「ん」
フェオはまだクロワッサンを食べている。
「装備の修理だって立派な仕事だろそれにミーン工芸館を通せば今回の依頼は成功ってことになるんじゃないか」
「あー」
「なるほどなのだわ」
ウィメのまわりには早くも自分の得物を手に、修理を望む者が集まっている。
「ほら、職人さんはやくはやく」
急かされてフィーネが立ち上がる。
「初仕事ねおめでとう『かわいい若木』」
「ありがとう」
戸惑いながらも修理の相談を受ける彼女のまわりを、相棒たる『美しい枝』が飛び回っていた。
〜おまけ〜
ハニークロワッサン
秘伝書:第8巻のレシピ。ラケティカで採集できるオオミツバチの巣を使う。
フィーネに殴り倒されたヴィース族の男性
のちほどアルメとウィメに「お前が悪い」と叱られました。