初々しい天江戸の話「ねえ、水心子は上と下どっちやりたい?」
「上と下とは?」
「男役と女役。」
親友から返された言葉に水心子は大きくため息をつく。恋仲なのだからそういうのもあるのだろうと思ったがこんなに早く来るとは。ちなみに付き合ってまだ半年である。その間に二振りがしたことと言えば恋人繋ぎとお休みの口付けくらいである。現世ではあったその日に体を繋ぐものもいると言う。別にそれはそれで構わないがもう少しこう何とかならなかったものだろうか。
「水心子が望むなら僕はどちらでも構わないよ」
「清麿…私たちが付き合って何年目だ?」
「半年だね」
「半年だね、じゃない!一応この体は若い肉体ではあるが私にも心の準備というものがな」
「心の準備?それはいつになったらできるのかな」
ニコニコ微笑む清麿に水心子はまたしても大きなため息をつく。先に進みたがってるのは何となく気づいていたが時間は嫌という程あるし急すぎてもなと言うのが水心子の意見だ。恋人として彼を大事にしたいという気持ちもあるが。
「大丈夫。水心子の心の準備ができるまでいつまでも待つよ。だって恋人だから。」
発言の端々にいくばくかの圧を感じるのは気のせいだろうか。今日は清麿は主と共に政府に行って帰ってきてからは特に普通だったし、変わったこともなかったはずだ。なのに彼の機嫌は今底辺だ。どうにかこうにかあげねばと思った矢先清麿が水心子を抱き込んで言う。
「政府時代、僕に内緒で上の人間に抱かれていたって話、本当?」
なぜその話を清麿が知っているのだろうか。あれはもう何年も前の話でとっくの昔に切れた関係なのに。何も言わない水心子に清麿が追い打ちをかける。
「今日ね、君の教育担当だった人に会ったんだ。君の近況を聞かれて答えたらこれをくれたんだ。昔よく着てたんだってね、僕にも見せて欲しいなあ」
そうして紙袋から取り出された衣装は遊郭の遊女が着るもので所々に鈴が付いていて。脳裏に蘇るのは顕現されたばかりの記憶。あの頃は霊力が落ち着かなくて自我もままならなくて。それで房中術ならばどうにかなるのではないかということで。清麿には知られたくなかった水心子の過去。突き飛ばし逃げようとすればさらに抱き込まれそして耳に囁かれる。
「大丈夫。汚れてても愛してあげる。君は僕の親友で恋人だから。」