ワンドロ没案「ほお、綺麗な並木道だな。」
「でしょ?見つけたとき真っ先に君に見せたいと思ったんだ。」
そう類はいつもの聞き分けの良い執事の顔をして主である司に言う。天馬司。傍から見れば普通の青年だが彼は日本の未来を背負う重要人物だ。この日本にはいくつかの財閥が存在しておりその中でも天馬の家は特殊な家の一つだ。なのでこうやって外に出ることも本来はままならないのだが時折こうして息抜きと称して類は司を連れ出している。今日はこないだ外に出かけた時に見つけた大通りの並木道に彼を連れてきた。季節は秋に差し掛かり紅葉も黄色から赤に変わりつつある。もうしばらくすればここも多くの人で賑わうだろう。司も立場がなければここでショーをしていただろうに。
類は司の所有物だ。司が幼い頃父親が買ってきたのだ。それ以来類は司のものになった。どこに行くにも一緒、彼が望むことはなんでも叶えてきた。類は司の笑顔を見るのが好きだった。ただ大きくになるにつれ司は変わった。
「父はお前はオレのものだからすきにしろと言ったがオレはお前を物だと思ったことは無い。お前はお前のやりたいようにしろ」
その言葉を言われた時類の目の前は真っ暗になった。それもそのはず司のやりたいことは類のやりたいことだったから。その時の類は目に見えて荒れていた。好きな発明もそれを見て喜ぶ司が好きだったから作っていたのに。気がつけば学校から足は遠のき宛てがわれていた部屋に引きこもる日々になっていた。そんな日々に終わりを告げたのも司だった。与えられる食事は食べていたものの発明に集中すると類は寝食を忘れてしまう。気がついたらふかふかのベッドの上で腕には点滴がされていてそして目の前にしがみつくように寝ている司の姿。それを見た類の気持ちは言葉では表わすことの出来ないものだった。この事を境に二人は距離を縮めた。
並木道を歩きながら司を見る。いつもはラフな格好なのだが今日は役目の日だからか白い衣装に身を包んでいる。月に数回ほど行われるこの役目を類は快く思っていない。ただの2人でいられたら良かったのに。何度ととなく類は思った。
「司くん」
「なんだ?」
「僕のお願い聞いてくれる?」
「オレができることなら」
司のその言葉に類は満足そうに笑うと願いを口にした。彼には沢山役がある。自分の前では役から降りて欲しかった。司はこのお役目の前は必ず辛そうに笑うから。それが類には心苦しくて。自分が司の立場を危うくするわけにはいかないのだ。類は司に苦しんで欲しくない。笑っていて欲しいと思う。そっと彼の長い髪を手に取りくちづけ類は言う
『僕のものになって』