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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
    恋愛解釈は一切していません。

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    お箸で摘む程度

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    ビームス兄弟 ワンライ
    お題「花冠」お借りしました。記憶の話。兄は出てきませんが元同室が喋っています。

    ##ビームス兄弟

    アナカプリ 丘の頂上に腰を下ろして、呑気な青空を見上げた。暖かくて気持ちのいい、昼寝にうってつけの午後。寝っ転がって目を閉じたいけれど、そうすれば駆け回る子どもたちの下敷きになってしまいそうだ。眠い目を擦ってあくびをする。甲高い声が耳に障った。

     ヒーローは市民との交流も仕事だからと、とてもじゃないけど納得できそうもない理由で、州立エレメンタリーの児童たちのお守りをさせられている。こんなことでレポートを書かされる俺たちは可哀想だし、まだヒーローになってもいないアカデミー生と遊ばされる児童も可哀想だ。
     だだっ広い公園は春の陽気に緑も元気よく、あちらこちらに鮮やかな花が見て取れた。花壇に並んだチューリップ、群生になったスイセン、木の下に集うクリスマスローズ。低学年の子供に合わせて中腰のまま走り回る同級生たちは滑稽だ。

    「はい」

     突然背後から声がして、驚いて振り返る。お下げ髪の少女が、シロツメクサの花束を俺に差し出していた。

    「……くれるの?」
    「うん」
    「……ありがとう」

     丘は一面クローバーが覆って、そろそろ白い花も蕾を開く季節になっている。匍匐茎のびよびよと伸び放題な花束を受け取ると、少女は何故か俺の隣に腰を下ろした。遊びに行かないのと尋ねても、何も答えない。だからといって遊んであげようという気にもならない。内心で途方に暮れる。

     俺は膝に置いた花束の、特に茎が長く伸びている一輪を取った。別の一輪をすぐ下に添え、長い方の茎に一回転させて結びつける。その花の下にも同じように。少女の目がこちらを向いている。花束は、俺の手元で長い一本に撚られていった。

    「はい、どうぞ」

     最後の一本で先頭と末尾を結い合わせ、輪の形を作る。少し小さいけれど冠になったそれを、少女の頭の上に乗せた。ダークブラウンの髪によく似合っている。きょとんとした顔を微笑ましく見て、いつかの記憶が頭の中を横切った。
     少女は花冠を手に取って眺めると、また頭の上に乗せ、そのまま走っていってしまった。子供の行動はよくわからない。けれど、自分の行動はいっそうよくわからなくて、俺は今度こそ目を閉じ、丘の上に寝転がった。





     自分の記憶力にはさしたる自信もないけれど、ふとした瞬間に遠い昔の思い出が蘇ることはしばしばある。目の前で草花が編まれていくのを見ていたら、突然、アカデミー時代のそんな記憶がフラッシュバックした。

     大勢の市民へのお返しに追われて、エリオスのスタッフにバレンタインのお礼をするのをすっかり忘却していた。そのことに気が付き、思い立ってウィルの実家に足を運んだ。
     今手が離せないからちょっと待っててと、店を手伝っているらしいウィルの手元では、切り花にもできずブーケからもあぶれてしまった花たちが手際よく一本に纏められていく。確かにこれは、一度にやらなければ解けてしまうのだ。効率よく作業を進め、解けないよう綺麗にまとめる方法を、俺に教えてくれたのは。

    「フェイスくんもやってみたら? ここにある花、使っていいよ」
    「ええ、俺には無理だよ」
    「何で? フェイスくん、花冠作るの得意だろ?」

     ウィルは顔を上げてそう言った。……あれ、どうしてそのことを? 確かにアカデミー時代は同室だったけれど、あの日帰った後にでも、花冠の話をしたんだろうか。記憶がフラッシュバックすることはあれど、記憶力には自信がない。呑み込めない顔をする俺を余所に、ウィルはまた自分の手元に目を落としていた。花と花の間に葉を差し込んで、そのアクセントが綺麗だ。隙間があれば緑を入れるといいと、頭の中で声がする。

    「ブラッドさんが、むかし弟とよく花冠を作ったって言ってたんだ」

     アカデミー時代からさらに飛んで、幼少期の思い出も簡単に蘇る。春の陽気と草いきれの匂い、頭に花冠を乗せられる感覚と、こちらを微笑んで見る、兄の顔。
     こんな立派な花じゃない。俺の記憶は瞼の裏に、丘の緑と白を映した。



    アナカプリ Fin


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    お箸で摘む程度

    MOURNING元同室 生徒会選挙の別Ver.
    .昼休みのカフェテリア、注文口まで続く長い列はのろのろとしてちっとも進まない。ヘッドフォンから流れる音楽が、ああこの曲は今朝も聴いた、プレイリストを一周してしまったらしい。アルバムを切り替えることすら面倒くさくて、今朝遅刻寸前でノートをリュックサックに詰めながら聴いていたブリティッシュロックをまた聴いた。朝の嫌な心地まで蘇ってくる。それは耳に流れるベタベタした英語のせいでもあり、目の前で爽やかに微笑む同室の男の顔のせいでもあった。
    普段はクラブの勧誘チラシなんかが乱雑に張り付けられているカフェテリアの壁には、今、生徒会選挙のポスターがところ狭しと並べられている。公約とキャッチフレーズ、でかでかと引き伸ばされた写真に名前。ちょうど今俺の右側の壁には、相部屋で俺の右側の机に座る、ウィルのポスターがこちらを向いている。青空と花の中で微笑んだ、今朝はこんな顔じゃなかった。すっかり支度を整えて、俺のブランケットを乱暴に剥ぎ取りながら、困ったような呆れたような、それでいてどこか安心したような顔をしていた。すぐ起きてくれて良かった、とか何とか言ってくるから、俺は腹が立つのと惨めなのとですぐにヘッドフォンをして、その時流れたのがこの曲だった。慌ただしい身支度の間にウィルは俺の教科書を勝手に引っ張り出して、それを鞄に詰め込んだら、俺たちは二人で寮を飛び出した。結果的には予鈴が鳴るくらいのタイミングで教室に着くことができて、俺は居たたまれない心地ですぐに端っこの席に逃げたんだけれど。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGオスカーとアッシュ ⚠️死ネタ

    レスキューと海賊のパロディ
    沈没する船と運命を共にすることを望んだ船長アッシュと、手を伸ばせば届くアッシュを救えなかったレスキュー隊のオスカーの話。
    海はあたたかいか 雲ひとつない晴天の中で風ばかりが強い。まるでお前の人間のようだ。
     日の照り返しと白波が刺繍された海面を臨んで、重りを付けた花を手向ける。白い花弁のその名を俺は知らない。お前は知っているだろうか。花束を受け取ることの日常茶飯事だったお前のことだ。聞くまでもなく知っているかもしれないし、知らなかったところで知らないまま、鷹揚に受け取る手段を持っている。生花に囲まれたお前の遺影は、青空と海をバックにどうにも馴染んでやるせない。掌に握り込んだ爪を立てる。このごく自然な景色にどうか、どうか違和感を持っていたい。

     ディノさんが髪を手で押さえながら歩いてきた。黒一色のスーツ姿はこの人に酷く不似合いだが、きっと俺の何倍もの回数この格好をしてきたのだろう。硬い表情はそれでも、この場に於ける感情の置き所を知っている。青い瞳に悲しみと気遣わし気を過不足なく湛えて見上げる、八重歯の光るエナメル質が目を引いた。つまりはディノさんが口を開いているのであるが、発されたであろう声は俺の鼓膜に届く前に、吹き荒れる風が奪ってしまった。暴風の中に無音めいた空間が俺を一人閉じ込めている。その中にディノさんを招き入れようとして、彼の口元に耳を近づけたけれど、頬に柔らかい花弁がそれを制して微笑んだ。後にしよう、口の動きだけでそう伝えたディノさんはそのまま献花台に向かって、手の中の白を今度はお前の頬に掲げた。風の音が俺を閉じ込める。ディノさんの瞳や口が発するものは、俺のもとへは決して届かず、俺は参列者の方に目を向けた。膨大な数の黒だった。知っている者、知らない者。俺を知る者、知らない者。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGグレイとジェット
    グレイとジェットが右腕を交換する話。川端康成「片腕」に着想を得ています。
    お誕生日おめでとう。
    交感する螺旋「片腕を一日貸してやる」とジェットは言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って僕の膝においた。
    「ありがとう」と僕は膝を見た。ジェットの右腕のあたたかさが膝に伝わった。

     僕とジェットは向かい合って、それぞれの柔らかい椅子に座っていた。ジェットの片腕を両腕に抱える。あたたかいが、脈打って、緊張しているようにも感じられる。
     僕は自分の右腕をはずして、それを傍の小机においた。そこには紅茶がふたつと、ナイフと、ウイスキーの瓶があった。僕の腕は丸い天板の端をつかんで、ソーサーとソーサーの間にじっとした。

    「付け替えてもいい?」と僕は尋ねる。
    「勝手にしろ」とジェットは答える。

     ジェットの右腕を左手でつかんで、僕はそれを目の前に掲げた。肘よりもすこし上を握れば、肩の円みが光をたたえて淡く発光するようだ。その光をあてがうようにして、僕は僕の肩にジェットの腕をつけかえた。僕の肩には痙攣が伝わって、じわりとあたたかい交感がおきて、ジェットはほんのすこし眉間にしわを寄せる。右腕が不随意にふるえて空を掴んだ。
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