地獄を泳ぐ1 飲んだくれて、帰ってくる父親のことは嫌いではなかったと思う。酔いが顔に出やすい血統なのだと、真っ赤な顔をしながら気に入った映画のことを自分や合歓を抱きしめ、頬擦りしながら話をする姿はむしろ好きだった。自分も大人になって酔っ払ったらこうなってしまうのか、と、どこかもどかしい気持ちにもなった。それから、母に対して、今度はこんな脚本がいいなあとねだる父はものすごく母のことを愛しているように見えた。
そんな父に、「私、ミステリーなんて書けないわ」なんて言いながら三ヶ月後には俺も合歓も父も世間も縮み上がる結末を書き上げ、父はその本を撮ると息巻いていた どんなジャンルでも母は自分のものにしていった。
だからだ。
3794