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    すばる

    ヒッジとなぎこさんが好きです。

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    すばる

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    ようやく書けたなぎかおです(このアカ名なのに!)弊作品は斎土と同じ生産ラインで製造しております。香子さんがなぎデレしてるので、界隈の方の解釈違いが怖いです:( ›´ω`‹):

    #なぎかお
    longFace

    ロマンティック添付資料「かおるっちー! たのもー!」
     なぎこさんが、草の庵に等しい我が家へといらっしゃいました。ドアチャイムが要らないほどの、張りのあるお声です。
     私が玄関のドアを開けると、相変わらず若々しいファッションのなぎこさんはケーキの箱を私へと示しました。
    「お土産だぜ」
     私が助けを乞う立場だと言うのに、なぎこさんのお心遣いには感謝のしようもございません。
     そもそも、なぎこさんは専業作家になりたての私などよりはるかにお忙しい方なのです。
     ブームの時ほどではないものの、今でも二誌へエッセイを寄稿なさっている上、本業の研究や学生の育成への労力を考えれば、休日は休養を取った方がよいというもの。
     それを、私のためにこのようなボロ屋へ足をお運びくださるなど……。
     沸かしていたお湯で、ドライフラワーがふんだんに入ったハーブティーを淹れ、ケーキをお皿に盛って二人がけの小さなテーブルに供します。
     なぎこさんは季節のフルーツが存分に挟まれたミルフィーユ、私のはマッシュして丸めた紫いもが表面に飾られたスイートポテトタルト。
     なぎこさんがお持ちになったスイーツに、ハズレはありません。おいくつになっても好奇心のアンテナを錆びさせることなく、日々の彩りを求めて生きていらっしゃるゆえでしょう。
     なぎこさんは、私にタブレットの画面を見せました。
    「今日の主役はこの二人だぜ」
     そこにはなぎこさんが作成した『資料』がまとめられておりました。
     なぎこさんは、毎年入れ替わり立ち代わり入ってくるゼミ学生の生態を聞き出し、まとめ、私の許へお持ちになるのです。
     私は主に恋愛小説を書いて糊口をしのいでおり、夫に先立たれて独りで暮らす身には、取材と言っても限度があります。
     なぎこさんは、もったいないながらも私の小説を好きと言ってくださり、兼業時代に私が取材の難しさを話したら、生徒の生態を提供してくださるようになったのです。
     個人情報の問題があるので、個人名は明かされませんが、それがかえってたくましく妄想を刺激します。
     今日紹介されたのは、歳の差のあるカップル。
     少年と青年の間に立つ若者は、いとおモテになられ、かつては遊びも激しかった歳上のひとに一目惚れします。若者は、想い人にふさわしい自分になれるよう努力しますが、当然のことながらすぐには成長できません。
     未熟なままではいつ別れを告げられるか――と若者ははなはだ不安になり、時に暴走するのですが、案外歳上のひとも自分のために背伸びをする若者を憎からず想うようになっています。
     よくいたわられ、甘やかされる自分をよしとしない若者と、若者が可愛くてつい甘やかしてしまう歳上のひと。
     いつか二人が対等の立場に立つことを、二人とも待ち望んでいる――。
    「まぁ、まぁ……なんてロマンティック!」
    「そうだろうそうだろう」
     なぎこさんは、嬉しそうに手を揉み合わせます。
    「今年のあたしちゃんの学生の中でも、ずいぶんな当たりくじなんだよ。これはぜひかおるっちに話して、小説に活かしてもらわなきゃって思ってさ」
     一瞬思いついたのは、『雑草という花はない』というフレーズでした。
     動物から踏まれても負けず、時に四つ葉を生やし、ささやかな花を咲かせるシロツメクサ。若者の気概は、その花に似ています。
     芍薬のように咲き誇る歳上のひとは、美しさを振りまきつつも、愛しい若者の成長を待っています。
     いつか若者が成長して、芍薬の花を手折れるようになるまで。
     そんな二人のビジョンが浮かび、私は無意識のうちにネタ帳を引き寄せて言葉のスケッチを始めました。
     イメージが飛んで行かないようにと必死で心の内を書き飛ばす私をよそに、なぎこさんはハーブティーとケーキで和んでいます。
     やがて、言葉のスケッチがひと段落ついて顔を上げたら、小一時間ほど経っていました。
     まぁ大変! お客様をお待たせするなど……!
     けれどもなぎこさんは、私を慰めるように言いました。
    「傑作が生まれる瞬間に立ち会えたんだ、イライラなんてしないよ。ところで、この二人を活かした話はいつ頃できそうかい」
     私は手許のスケジュール帳を繰って締切を確認します。
    「そうですね、早くて年末かまたは来年――今年は源氏の君の本を二冊上梓する予定なので……」
     なぎこさんは、げ、とうめきました。
    「源氏の話が……二冊かー……」
     私の著作の中でも比較的人気のある『源氏の君シリーズ』の主役・源氏の君を、なぎこさんはあまりお好みになりません。すまし顔をして『ただしイケメンに限る』という言葉で許しを乞おうとする所業を繰り返す辺りが気に食わない、とのことです。
     源氏の君が最低最悪の所業を繰り返すのには、きちんと理由とテーマがある、とはお伝えしておりません。
     それが明かされた暁に、なぎこさんがどのような感想を抱くのか……楽しみなような不安なような。
    「かおるっち、もうミステリは書かないの? 『鳴鳳荘』の話、あたしちゃん好きだったよ」
     それは……お恥ずかしい……。
    「プロ作家は依頼がなければ書けませんから……」
     嘘ではございません。アマチュアと違い、私たちは商品になりえる作品を発表しなければなりません。依頼のない作品を書いても、出版社から目をかけられなければただ働きと化してしまいます。
     ただ、実は私の書いた『惑う鳴鳳荘の考察』は、ミステリ文壇の一部には好感触をもって迎えられ、一人の編集者様から『またミステリを書かないか』と持ちかけられています。
     ただ、『鳴鳳荘』の話をなぎこさんから振られると、私は困ってしまいます。
     なぜなら、登場人物の一人に、知り合う前のなぎこさんを投影しているからです。
     私には『売れっ子エッセイスト』としてのなぎこさんは、教養を鼻にかけ、知識をひけらかす嫌な女だとしか思えませんでした。
     私の想像力の限界でした。
     なぎこさんは、私に見せていたタブレットを操作して、別のプレゼン資料を開きました。
    「あたしちゃんの推し学生ちゃんはまだまだいるよー!」
    「それは楽しみです」
     頭脳労働の後は甘いもの。私は紫いものスイートポテトタルトにフォークを入れ、一口頬張ります。脳に糖分が運ばれる様を実感できます。
     こうしてなぎこさんの話を聞いていると、『愛する』ことの尊さとすばらしさを強く感じられます。
     恋愛感情だけではございません。未熟な学生の行く末を案じ、その幸福をともに喜ぶ姿勢は、なぎこさんの情の深さを感じさせます。
     私はこの時間が好きです。
     時折なぎこさんとの価値観の相違を見ることもありますが、やはりどんな形であれ創作と取り組んでおられる方との会話は刺激になります。
     私は、脳内に拡がる世界の豊潤さに酔いしれるのです。
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