おきたさん曰く。 まぁ、実質私が紹介したようなものですが……。
沖田ちゃーん、と私を呼ぶ斎藤さんの声は弾んでいます。今日は月曜日の第二外国語の授業。斎藤さんがなぜ私を呼ぶのか、わかりすぎるほどわかります。
「まーた土方さんの話ですか」
「なんで分かるの 沖田ちゃん異能持ち?」
「毎週毎週聞かされてれば嫌でもわかりますよ」
「僕、そんなに土方さんの話してるかな」
どうやら本人には自覚がなかったようです。
私にとって土方さんは、『歳上の幼馴染み』です。
私の両親と土方さんのお兄さんの仲がよく、両親や姉が多忙な時、時折土方さんに預かってもらいました。愛され末っ子だった土方さんは、歳の離れた妹ができたみたいに感じていたようです。
五歳の頃には既に竹刀を握っていた私は、土方さんの高校の武道館に連れていかれてアホみたいにテンションが上がりました。高校生の皆さんがひどく大人に見えて、早く追いつき追い越したいと強く願いました。
当時の私に沢庵を餌づけさせようとした土方さんについては、いまだにどうかと思うんですけどね!
そんな私も、今では大学生になりました。
斎藤さんとは、第二外国語のクラスで知り合いました。土方さんと会う際に、一緒に食事をおごってもらおうと誘った斎藤さんが、見事に土方さんへ一目惚れしたのが、今年の四月になります。
斎藤さんが聞かせてくれた限りでは、最初はお試しで交際を始めたようですが、やがて土方さんも絆されて、本交際に至ったとのこと。あの人、懐に入れた相手には甘くなるからなぁ……。
それから斎藤さんは、私に会うと幸いに土方さんの長所や可愛いところを嬉しそうに語ります。
いや、兄にも近い人の『可愛さ』を聞かされても困るんですけど……と言ったことは一度ではないのですが、斎藤さんは私の言うことなんて気にしません。
この間も、久々に三人で会いました。前回は私の隣に座った斎藤さんは、今回当たり前のように土方さんの隣に陣取り、小皿や割り箸、醤油びんなどを甲斐甲斐しく渡しています。
これで斎藤さんが『抱く側』というのだから、不思議ですよね。私には土方さんが『抱かれる側』に回るのをどうしても想像できませんが……。
斎藤さんかお手洗いに立った隙に、私は土方さんに聞いてみました。
「本気なんです?」
「遊びであんなのとつき合いたくはねぇな」
赤い目には、お酒の影響をのけてもふざけたところはなく、土方さんの気持ちがうかがえます。
「斎藤さん、『土方さんと結婚する』って言ってますけど、許してますか?」
「あいつが何思おうが自由だ、俺には止めることも縛ることもできねぇ」
土方さんはうっすら笑いました。
「あいつの様子はどうだ、俺のせいで道間違っちゃいねぇか」
「つき合いが悪くなったところはありますけど、『歳上のカノジョができた』って言ったら納得してもらってますね。勉強は、むしろよく頑張るようになったくらいです」
「ならよかった」
土方さんは嬉しそうな顔でグラスに唇をつけました。
『可愛い』『エロい』『最高』という、斎藤さんの土方さんへの評価には、いまだに受け止めかねるところもあります。ですが、これまで一人の人を決めずふらふらしていた土方さんが、相手はともかく落ち着いたことで、私も安心です。
斎藤さんが戻ってきました。
「沖田ちゃん、土方さんのこと取ろうとしてた?」
口調は冗談めかしていますが、表情では本気を隠しきれていません。
「やだなぁ斎藤さん、束縛する男は嫌われますよ」
「俺がモテるからって沖田に冤罪をかぶせるな」
この、自分の容姿とモテに関する異様なまでの自信はどこから来ているんでしょうかね。
そんなわけで、今日も私は斎藤さんののろけを聞き流しています。
そのうち、こののろけっぱなしの斎藤さんが『身内』になるであろうことには思うところもないでもないのですが、土方さんが幸せそうなので、私は許します。
「それでね……って沖田ちゃん聞いてる」
「聞いてますよ、土方さんが可愛いんですよね?」
「そうそう!」
ぶっちゃけチョロい斎藤さんを見て、私も恋をしたらこういう風になるのかと思うと、なかなか絶望的なものがあります。私はもう少し理性的に恋したいものです。