シロツメクサの約束南ティンバーレイン森道、湖のガゼボで顔を真っ赤にした子羊に迫られていた。
旅に出た当時、この辺りで拾ったメモの走り書きがふいに頭を掠め、妙に引っかかっていた。子羊Jrの面倒を見るついでに何か探れないかと、湖の中央くんだりまで漕ぎ出したのだ。
しかし、この展開は予想しておらずのらりくらりとかわすも彼の瞳はまっすぐだ。しばらく見つめあった後、観念して視線の合う位置まで屈んでみる。
すると花が咲いたように微笑んで、少しはにかむ。
『テメノスさん、ぼく、あなたがすきなんです。うそでも、おせじでもないんです』
頬は林檎色、息は興奮で荒くて、幼さが勝ってしまう容姿。彼なりの真実を知らぬ間に無下にしてしまわないように、慎重に答えを探す。如何にして返事をしようかと迷っていれば、少しずつ距離を詰められて小さなガゼボの面積では殆ど逃げ場がなくなる。ゆるやかに尻もちをつくと、跪いた彼がいつの間にか握っていた花を目の前に突き出してきた。
『はじめてあったときから、あなたはきれいで。ずっとずっと…みていました。おとこのひとでもいいんです。すきでいさせて……』
祈るようにかたく瞑られた瞼はいっそ愛おしく、気づけば【祝福】をその薄い皮膜に贈っていた。
はっと唇を離すと自らの銀天蓋のなかで、彼が鮮やかに染まる。もうとっくに彼に堕ちていたことを自覚した。
その心のままに、言葉を紡いでみる。
『フフ、いいですよ。…いつか、私を惚れさせてくださいね』
吹く風が、あとから囁いた言葉をさらっていく。
えっ、と驚いた顔で二度三度、花と己とを交互に見遣る。ぱちくりと瞬きをした後、嬉しそうに小さく『やったぁ』と呟いていた。
彼の耳には届いている。とたんに胸がくすぐったく、あたたかくなり。指先までも血のめぐりを感じた。
彼はすぐに向き直り、恭しく左手を取られる。純白の小さな花の茎を器用に結び、あっという間に自身の薬指を飾った。
『ぜったい、ぜったい…ほれさせてみせますから。これからも、いっしょにいてくださいね』
飾られた花に口付けると、眩しいほどにきらきらと笑ってみせた。
END