だいぶ前に書いたリンゼル前提の何か(未完供養) 自分がどう生きるかとか、そういったことを考えたことは無かった。自分がニンゲンである以前に、国に奉公する一剣士であるという自覚こそ人生の道だったからだ。自分も他とそう変わらない普通のニンゲンだと思いながらも、剣の道から抜け出すことのできない運命に生きる、どこか特殊な存在であるいうことも理解していた、と思う。
俺は100年の間眠り、とうとう記憶の殆どを失っていたが、色々(では語り尽くせないが)を経た今では全て蘇っている。ただ、頭では記憶していても実感がないというのか… 自分の内面のことにはどうにも現実味を感じられずにいた。かつて余程に笑わない性分だったから、姫は未だに今の俺を信じられないと仰る。無責任な話だが、100年も経っているとなれば、連続した記憶として捉えられずとも仕方が無いなと納得している部分がある。
…だからこそ間違いなく、あの時俺は一度死んだのだ。魂が死んで肉体が朽ちるその間に、姫が俺を生かして下さった。それは恐らく他の…仲間達とは逆だったのだろう。
「リンク、今日はラネールの方へ向かうのでしたね」
「…はい。賊の討伐が主ですから、姫は此処に留まっていて下さい」
「ええ、こればかりは仕方がありません… でもリンクなら心配はいりませんね」
この日は、昨今またハイラル各地に出没しているイーガ団の残党を狩りに行くことになった。いつもは姫と2人で各地を廻っているのだが、本件は危険が伴うためインパ宅にご滞在して頂けるよう頼んである。
本拠地は壊滅の上に厄災が鎮まったというのに、彼らの野望は潰えていないらしい。忍びとは、下味を整え幾百年先かもしれぬ次の機を待つものだというのがインパ談である。…俺は100年経ってその機を得たが、敵も同様ということか。
ただ討伐自体は直々に届いた依頼により行うものだ。依頼の主はゾーラのドレファン王である。ここのところ里の者が近辺で身ぐるみを剥がされる被害が多発しており、討伐を手伝って欲しいとのこと。彼らゾーラ族は衣服を着る習わしは無いのだが、何やら貴石らしい装飾品を身につけている者が多い印象で、なるほど手が伸びるわけだと納得した。仮にも忍びを名乗っている彼らが、白昼堂々わかりやすい蛮行に走るとは落ちぶれたものだ。
…ここだけの話、王直々の依頼だからある程度の報酬も期待できる。何も自分の懐を潤そうという話じゃない、決して。
「あっ、そうだリンク!今日はインパにお料理を習うんです。ですから、早めに帰ってきて下さいね」
「…御意」
「…意外ですか?そう言いたげな顔をしていますよ」
「も、申し訳ありません。いつもの姫を見ていますから、その…何と言うか。」
「まあ、聞き捨てなりませんね。絶対に貴方をギャフンと言わせるような逸品を創り上げてみせます。覚悟していて下さいっ」
少しむすっ、とした姫は何処からか取り出したオタマを握りしめていた。こういったものに火がついた姫は納得するまで絶対にお止めにならない性分だ。俺も俺で、何故か姫を前にすると表情が堅くなってしまう。この時ばかりは以前の俺のままなのだ。
…にしても覚悟か。カエルの丸焼きだとか…いや、あまり深く考えないでおこう。
ラネールへの道中、既に残党に数人も出くわした。シーカーストーンで移動する方が簡単だが、出てきた羽虫は1匹でも多く叩いておいた方が後々に楽だろうと自力で移動した。幸い魔物の類とはもう遭うことがないため、そこは気楽だった。人通りも以前よりずっと増えていた。
ゾーラの里には厄災鎮圧後に姫と共に一度訪れたが、この賊騒ぎにより一般民衆は里に留まり、兵士達は討伐への準備と訓練を行っていたので忙しない感じがした。ドレファン王は俺をゾーラ兵をまとめる隊長としての役割を担って欲しいようである。
「情けない話…どうにも今回の件にはヒレが立たないんだゾよ。厄災も鎮まったというのに、そなたに二度もこのようなことを頼むのは心苦しいゾラが、手助け頂けないだろうか」
「…畏まりました。俺は里の兵を率いればよいわけですね。」
「そうゾラ。なんでもヤツらには雷電を持つ部隊があっての。」
「部隊?わざわざゾーラを狙ってそこまで…」
「我はヤツらを甘く見ていたんだゾよ。これでは里に討ち入りに来る日も近かろう。」
「それは…穏やかではないですね…」…
「リンク!!!!もう来ていたのか!!!!」
「うお、ビックリした」
謁見を終え下階に移動していたところ、明瞭(すぎる)な声に振り返れば巨大な人…魚影が立っていた。
「…事の次第は父上から聞いているゾ!また君に助けられることになるなんてね」
「俺に出来ることなら何でもするよ。それにタダってわけじゃな…」
「?」
「あ、えー…シド」
「ああ!君に逢える時を今か今かと待っていたんだゾ!しかしそれがこんな時だとは、あまり喜べた事態ではないのだが…とにかく君が居るのは本当に心強いよ。」
「…ありがとう」
シドはいつも大袈裟なくらいに俺を歓迎してくれる。…かなり驚くけれどこれ以上ない安心感がある。心強いのは俺の方だよとは照れくさくて言えないのだった。
続きを書いていない(アホ)