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    teasぱんだ

    @nice1923joker

    紅茶とパンダが好き。
    好きなものを好きな時に好きなだけ。
    原ネ申アルカヴェ沼に落ちました。
    APH非公式二次創作アカウント。
    この世に存在する全てのものと関係ありません。
    䊔 固定ハピエン厨
    小説・イラスト初心者です。

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    teasぱんだ

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    10/13🌱🏛️ワンドロ「一番好きなところ」

    #アルカヴェ
    haikaveh

    ワンドロ【一番好きなところ】 ここ最近の生活は、随分と落ち着いているように思える。
     嗅ぎ慣れたスパイスを振りかけて、馴染ませている間に夕食の準備をする。今日はマサラチーズボールがメインだ。火の通った肉の塊を想像して、カーヴェは食器棚を開けた。
     この家に来たばかりの頃は、水を飲むだけでもどのグラスを借りればいいのかとか、いつ風呂に入るのが正解なのかとか。同居人の様子を伺いながら生活していた。
     そんな日々はとっくに姿を消し、カーヴェは慣れた手つきでキッチンの行き来し夕食作りをこなしていく。
     スパイスのかかった生肉にハーブと調味料を浸し、保存食を準備する。先週も同じように下ごしらえをしたから休前日の夜はそっちの干し肉を焼いて食べよう。そう思ったところで、玄関から同居人の帰宅を知らせる音がした。
     迷いもなく部屋の奥へ向かってくる足音を聞く。硬い靴の裏が床を蹴って、すぐに背の高い影がカーヴェのいるキッチンへ姿を現した。
    「今日もいつも通りの帰宅だな。教令院では風邪が流行って病欠している学生も官員も多いと聞いたけど?」
     昼間にプロジェクトについての書類を持ってきた官員との世間話を思い出して投げかける。今日一日何があったかを報告し合うようになったのはいつの頃からだったか。
    「季節の変わり目だからと言い訳を重ねているが、日々の体調に留意していれば不調を患うこともない」
     可愛げのない言葉に振り返る。
    「はは。君は昔から病気とは無縁だったからな。おかえり、アルハイゼン」
    「ああ、ただいま。本は読んだのか?」
     挨拶もそこそこに告げられた問いに、カーヴェは片眉をあげた。
    「神の碁盤地域における言語の独自性について、だろう。目は通したよ。ナタとの交流も文化形成の要因になりそうだと思ってね。情報が足りないから君の書斎からいくつか本を借りるつもりさ」
    「構わない。その本も、週末にはリビングに置いておいてくれ」
     グラスに注がれた水をあおって、今日の夕食をチラリと横目で見てからアルハイゼンはリビングへ戻って行った。
     今晩のカレーは彼の空腹を刺激したらしい。どことなく機嫌良さげに去っていく姿を横目で見送って、カーヴェは二人分の食事を盛りつけた。

     約束というものを口にするようになったのはいつの頃からだろう。学生の頃は気軽に言っていた言葉も、ある時から口にすることを躊躇うようになった。
     またね、また明日、今度行こう。その全てが互いに努力を怠らないことでしか成し得ない縁であり、そしてその細い糸は突然簡単に切れてしまうものだと大人になるにつれて学んだ。
     そんなカーヴェに、気まぐれのように差し出される約束がある。
    『今週末は、この本について議論をしたい』
     最初はいつのことだっただろう。同居をして随分経ったある日、アルハイゼンが手渡してきた本。ちょうど仕事の目処がついて切羽詰まった状況から脱していたし、その議論の会には酒がつくと聞いたカーヴェは二つ返事で本を受け取った。
     それから何度か、カーヴェの仕事がひと段落つくタイミングを見計らって、アルハイゼンは休前日の議論時間を約束してくるようになった。
     数日前に告げられる約束。何回目かを過ぎた頃に、アルハイゼンがその時間を楽しみにしているらしいと気づいた。いつも以上に積極的に酒を購入して、つまみを下準備し、参考文献の他に資料や論文を熱心に読み込んでいる。その姿を初めて知った時の感情を、まだカーヴェは言語化できないままでいた。
     アルハイゼンとカーヴェは、僅かな情報で互いの意見を議論しあえる頭脳を互いに有していた。
     初めて話した時のアルハイゼンの驚いたような顔を覚えている。あれから長い間、雛鳥が後ろをついてまわるかのように追いかけ回されたのは、もう十年以上も昔のことだ。
     知識も技術も世界も流行りも何もかも日々変化し進化し続けている。
     自ら情報を集めない限り他分野に関しての情報が欠落しがちな社会人という立場の中で、教令院の書記官との議論はカーヴェに新しいインスピレーションや刺激を与えてくれた。先日も新しく証明された紋様とその意味について話したおかげで良いデザインが思いついたし、クライアントとの会話の幅も広がった。
     双方にとって悪くないこの約束は、三日後の今週末にも予定されていた。


     朝日に照らされた室内を守る木製の扉が、外からノックされる。昨日の夜から部屋にこもっていることを不審に思ったのだろう。それくらい、今夜の議論をアルハイゼンが心待ちにしているという証拠だった。
    「カーヴェ。俺はもう出る」
     廊下からくぐもって聞こえる言葉に、叫ぶように返事をする。
    「ちょっと仕事が立て込んでるんだ。気にしないでくれ」
     口を閉じてからドアをじっと見つめる。数秒してからぎしっと床を踏む音がして、その音はゆっくりと遠ざかっていった。最後に玄関から錠が落ちる音が聞こえ、静寂に包まれる。
    「……行ったか」
     つぶやいた声は、先ほど気合を入れた声とは打って変わって掠れていた。
     喉の痛みを自覚したのは昨晩のことだ。
     アルハイゼンが教令院で風邪が流行っていると言っていたことを思い出し、治そうとあれこれ試してみたが効果は得られなかった。
     しかし、議論は今夜なのだ。アルハイゼンが帰ってくるまでに干し肉を焼いて、買ってあった酒を出して、果物もあったから切るとしよう。それから、アルハイゼンの持ってきた本に書かれていた……。閉じた瞼の裏側で巡る思考がゆっくりと途切れた。
     落ちていく意識の中で、目が覚めたら治っていますようにと祈るように願っていたのは無意識のことだった。


     扉が苦手だ、なんて言うと笑われるに決まっている。
     開ける人、帰る人があってこその扉だ。閉じたままのそれは、一人きりの世界では出入り口以外の役目を負うことはない。
     薄暗い室内に、一筋の線が入り込んでいる。夢現の状態で視界に映っていたそれがゆっくりと面積を増やし、真ん中に黒い影を落とした。
     そこまできてようやく、自分が朝ベッドに入ったまま夕方まで寝過ごしたことと、アルハイゼンが自室にやってきたのだという事実に気がついた。
    「あるはいぜん……」
     出した声は小さく掠れている。こちらからかけた声を聞いて、影が顎をあげたのが見てとれた。コツコツと床を鳴らしてアルハイゼンがベッドのそばに寄る。そして躊躇いもせずカーヴェへ手を伸ばしてきた。
     頬に触れた手は皮が厚く、ゴツゴツしている。剣を握る男の手なのだから、当たり前か。いつもは自分の体格に似合わない小さな本でも丁寧に一枚ずつ紙をめくっているから、アルハイゼンの指先がこんなに硬くて冷たいことを知っているのは自分だけなのだろうか。
     触れていたアルハイゼンの指先が、目尻を撫でて額を包む。冷たくて心地が良くて、カーヴェはほぅ、と息を吐いた。
    「熱があるな。昨晩から体調が悪かったのか」
     問いかけのように聞こえて、ただ事実確認をしているだけだろう。
     カーヴェからの返事は不要のようで、「もう少し寝るといい」だけ呟いたアルハイゼンはこちらに背を向けて部屋から出ていく。
     約束を反故してしまったと、もやのかかった意識の中で罪悪感が顔を出す。呼び止める声も出ず、高い熱に身体は動かなかった。薄く開いた視界の中で部屋を出ていく姿を見送り、光が差し込んでいた扉が閉められる。その風景に息を吐いて瞼を閉じると、目尻に熱を感じた。
     君が楽しみにしていることを知っていると、このために干し肉を準備してあるんだと言えたらどんなにいいか。息が詰まるような感覚は、朦朧とした思考回路は悩みの沼へ自身の思考回路を突き落とす。
     これまでも体調を崩したことはあった。しかし他人に気づかれるわけにはいかないと、草食獣のように傷を隠し穴倉に逃げ込んで籠城を決め込むのがいつもの流れだった。
     閉じ切った扉と、いつ戻るかわからない同居人。一人きりの部屋の中で、約束を果たせなかった感情とままならない身体に喉が締め上げられる。
     息苦しいのに、息の仕方を忘れたようだった。
     扉から目を背けるように瞳を閉じると、またゆらりと眠りの穴に誘われる。
     うつらうつらと夢の狭間を行き来していたら、廊下から足音が聞こえてきた。耳をすますなんてことをするよりも早く、閉まっていた扉が開かれる。
     視界に映った光に目を細め、部屋に入ってくるアルハイゼンを見上げる。
    「ザイトゥン桃を柔らかく煮付けたものだ。蜂蜜は平気だったな。温かいうちに食べるといい」
     カーヴェが呆けた表情を浮かべているのを気に留めることもなく、アルハイゼンは盆にのせてあった食器をサイドテーブルに並べていく。
     鼻腔をくすぐる甘く溶けた蜂蜜の香りと、柔らかい桃の匂い。置かれたホットミルクはまだ湯気を立ちのぼらせている。
    「き、み……っ。けほっ。ゲホッ」
     上半身を起こしただけで息を詰まらせて、咳を吐き出す。すると、不意に背中を撫でられた。アルハイゼンの掌が触れた皮膚が熱を持って、魔法にかけられたように息が吸いやすくなる。
    「白湯もあるからこれを飲むといい」
     渡されたお湯を両手で受け取って、ゆっくりと喉に流し込んでいく。冷えていないおかげで喉の痛みを感じることもなかった。
     カーヴェが息を整えている間にアルハイゼンは適当な椅子をベッド脇に引き寄せて、間接照明を灯す。
     温かい暖色の光が二人を照らした。光に背中を押されるように、カーヴェは心のうちを言葉にした。
    「今夜は、本当は議論をする予定だっただろう」
    「ああ。構わない。別の日に行えばいいだけのことだ」
    「…………」
     アルハイゼンの言葉に目を丸くするカーヴェを見て、アルハイゼンは少しだけ目を見開き、わずかに首をかしげた。
    「どうした」
    「いや、そうか」
     約束は、また約束すればいいだけのことなのか。
     思えばアルハイゼンが自分との約束を反故にすることはほとんどなかったように思う。自分から提案した以上は、目的が達成されるか実行が不可能な場合を除いて、必ず行う男だ。
     じわりと心に浮かんだ感情は、強固で柔らかいものだった。不服で認めることはできないと思うのに、それ以外の名前を見つけることがカーヴェはできなかった。自分がこの男に対して自分が抱いているそれは、世間一般では信頼感と名称づけられているのだろう。
     それを自覚すると同時に、アルハイゼンが椅子に座ったまま本を開いたことに気づいた。
    「きみ……ここで何をしているんだ?」
    「何を? 見ての通り、読書に興じている」
    「いやいや、何もここで読まなくてもいいだろう」
    「今夜聞くはずだった議論がお預けになったんだ。君の体調が治るまでに知識を増やすことでより密度の高い討論ができるのならば、それに越したことはないだろう」
    「君ばかり知識を増やそうとしたってそうはいかない」
    「カーヴェ。君自身の知識を増やす必要はないといつも言っているが? こちらが提示した情報と考察についての君の所感を述べてもらえれば俺は十分だ」
    「所感を述べるにしろ、ある程度の基礎知識は必要だろう。今回だって……」
    「喉が痛いのだろう。これ以上話すのはやめるべきだ」
     パタン、とアルハイゼンが開いていた本を閉じる。その動作だけで、部屋から出ていくのだと直感的に察した。と同時にカーヴェは口を閉じる。
     アルハイゼンはカーヴェの方を一瞥することもなく、サイドテーブルに置かれたザイトゥン桃の入った食器を持ち上げると、切り分けられた実にフォークを刺した。
    「食育の実技を所望なら、一肌脱ごう」
     言いながら差し出された桃の刺さったフォークにカーヴェは目を見開いて、「必要ない!」と断った。あっさりと食器の中に戻されたフォークごと食器を受け取ると、ベッドに座ったまま刺さった桃を口に放り込む。
     その様子を見てアルハイゼンは足を組み、もう一度本をめくり始めた。
     本当にここにいるつもりなのか聞きたくても聞けず、甘いザイトゥン桃がその言葉をカーヴェの喉奥に流し込む。すっかり平らげてホットミルクも飲んでから布団の中に戻る。アルハイゼンは一度だけこちらをチラリと見て、また本に視線を落とした。
     ベッドの上から、本で顔が隠れたアルハイゼンを見つめる。さっき一人で暗闇で眠っていた時よりも周りはぼんやりと明るく、目に眩しくすら感じるのに、先ほどよりもずっと息がしやすくなっていた。
     その理由も見つけられないまま、温まった身体は睡眠を欲して眠りに誘われる。
     誰かがそばにいることで息がしやすくなる感覚を、一人きりで生きていたカーヴェはすっかり忘れていた。


    「…………」
     聞こえるのは、微かな寝息と時折聞こえるページが擦れる小さな音だけだった。
     アルハイゼンは視線の高さにおいていた本をそっとずらして、カーヴェの顔を盗み見る。すっかり寝落ちたらしく、先ほどよりは幾分かマシな表情で眠っていた。
     早く治るといい、そう思う。自分はずっと静かな夜を好んでいると思っていた。今夜はまさに絶好の静かな夜であろう。それなのに心のどこかが落ち着かない。
     すっかり変えられてしまった日常に息を吐いて、もう一度本に視線を落とす。
    「君が静かな日は、夜が長い」
     自分とは真逆の世界から物事を指し図る、彼の虹のような世界観と思考回路。強烈なほどの光を放つ、手を伸ばしても届かない星と称される二歳年上の先輩。彼のその思考回路が自分は好ましいのだと思っていた。
     しかし、大人になるにつれてカーヴェへの感情はそれだけではなくなったらしい。
     規則的な寝息を立てて、越してきたばかりの頃は借りられてきた猫のように落ち着きなく警戒を露わにしていた男が、自分のそばで眠ることを許している事実。
     じわりと浮かぶ言葉にしがたい感情に、指先へ力を入れる。そうでもしなければ、彼の寝顔を欲のままに見続けてしまいそうだった。
     カーヴェが次に目を覚ますまでに立ち去るべきか、このままいるべきか。本の内容に全く関係のない思考はアルハイゼンの頭の中を巡り続け、結局目を覚ましたカーヴェが「まだいたのか」と言うまで正解を見つけ出すことはできなかった。


    一番好きなところ
    お互いがいる安堵感


    End
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