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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    魔法界の世界線。ねやねが紅茶をのむはなし。誤字はあとで直します。

    「うぅッ…… 寒ぃー!」
     ほらよ、と三毛縞が渡すマグを受け取りながら、黒柳は雪に濡れたコートを暖炉の前に翳した。骨の芯まで冷え切る様な異国の冬ももう五年目になるというのに、同じ島国ながら山奥にそびえる城内で過ごすこの鋭い寒さは未だ慣れそうにない。パチ、パチと木を割り燃える暖炉の前で丸く鳴った黒柳を、三毛縞は思わず一歩下がった場所で見つめることしかできなかった。湿った黒髪が炎の赤に照らされ艶めいている。いつもかっちりと着こまれたコートは今、三毛縞の後ろにあるチェアにかけられ黒柳の細身な体格を隠すこともできずにいる。シャツ越しにもわかる細い肩と、ベルトの中へ滑り落ちるような細い腰。珍しく丸められた背中は、黒柳をいつもよりずっと頼りなげに見せていた。その後ろ姿はなんだか見てはいけないもののようで。三毛縞はソファにかけてあった誰のものかもわからないブランケットを拝借し、ばさりと黒柳の上へ被せる様に落とした。
    「おい、紅茶に入るだろう。馬鹿め」
    「使っとけ、お前見てるとこっちまで寒くなる」
     どういう意味だ、とにらみ上げてくる黒柳の瞳が今、赤い火に照らされたせいだろうか。まるで三毛縞の黄色に似たはちみつ色に染まっている。もはや三毛縞の手に余る大問題だ。咄嗟に目を逸らしたこと、そも黒柳相手にここまでギクシャクと普段通りに振舞えない事。まるで恋でもしているような胸の早鳴りに、まさか本当にそんなことがと自分自身さえ騙されそうになる。
    「ぅ熱っ……!」
     自らの内側に生まれた邪まな感情を振り払うように口をつけた紅茶はまだ熱い。同室の三好が持ち込んだ茶葉だが、この部屋に黒柳の満足させられそうなものはそれくらいしかない。グリフィンドールらしからぬマイペースな男のことだ、一杯や二杯くらい勝手に飲んだところでいちいち腹は立てまい。むしろそれくらい豪胆な性格で無ければ、三毛縞との寮生活は無理だろう。実際、他寮生である黒柳を部屋に連れ込んでいる地点でバレれば両寮大きな減点になることは間違いない。それを〝また三毛縞の気まぐれだ〟と見て見ぬふりをできるあたり、三好と三毛縞の生活はうまくいっていた。
    「――黒柳?」
     三毛縞がなんとか早鳴る心臓を落ち着けたにもかかわらず、黒柳は未だ暖炉の前から動くことも、三毛縞に対して文句や嫌味を言うことさえしない。呼びかけても振り返らないどころか、返事さえしない。
    「黒柳さあん……?」
     恐る恐る、三毛縞が黒柳の方へと足を進める。そっと背後から顔を覗き込んでもなお黒柳は言い返さない。無理もなかった。静かな寝息が三毛縞の耳に密かに聞こえてくる。その横顔から、しばらく目が離せなかった。火の側にいるからかいつもより黒柳の血色がいい。それでもなお色白な頬はするりと滑らかで。伏せたまつ毛が目元に影を落としたせいで、より一層中性的な顔立ちを強調しているような気がした。女のような甘ったるい匂いがしないせいか、ハーブのような香りが今はなんだか心地よくさえ感じる。三毛縞は、自分の中に今生まれた感情にただ戸惑った。それは三毛縞の内側にある暗闇の中でじっと息を潜めている。まだ正体を見せようとしないくせに、鋭い鉤爪を闇の中でギラリと光らせ、三毛縞の理性をずたぼろにする機会をうかがっているのだ。思わず飲んだつばの音が、黒柳の寝息をかき消すほど大きく響いた気がして。三毛縞は静かに黒柳を抱え上げると暖炉に一番近いソファに寝かせ――ひとつ、離れた席にじっと座り込んだ。ただ混乱と、動揺にめちゃくちゃに揉みくちゃにされながら、ぐにゃりとソファに丸くなった猫へと姿を変え、血の昇った顔の赤みを必死で隠した。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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