思えば同じ楽屋に集まってこうも穏やかな時間を過ごせるようになったのは、再び会ってからだろう。当時は若さゆえの傲慢さと、多忙による疲労からくる衝突、そして生活のすべてを監視されるという異常な環境によって引き起こされる、神経をとがらせることを半ば強制させられるような生活が、俺たちの〝何か〟をただひたすらに圧迫していた。何度となく衝突したし、三毛縞の性格から黒柳の神経を逆撫でするようなことも多く特に争いが絶えなかった。お互いに譲れぬものがあったからこそだが、それでもどこかでお互いを尊敬しあっていたし、相手に会って自分にないものを強請ってばかりいた。烏丸はそんな二人の仲を、世界で唯一保てる男として半ば犠牲にささげられたようなものだ、と三毛縞は思う。無論、三人で成し得た成果は烏丸の努力もあってのものではある。烏丸はこの三人で過酷で多忙な時間を過ごした中で、ユニットを組む相手を間違えたと思ったことは一度もないという。それでも、衝突を引き起こす原因でもある三毛縞自身、大変な役目を押し付けてしまったなと今でも反省するばかりだ。
「今日、業も出るんだろ?」
三毛縞は楽屋にあったポットで、二人分の茶を淹れる。昔では考えられない、穏やかな時間である。昔は楽屋に寄る暇さえなかった。バンの中で移動しながら衣装を変え、目の前がグラグラするほどの過労による限界を、エナジードリンクで無理矢理たたき起こすように現場へ向かった。今じゃマネージャーも最低限の関わりである。茶を淹れてくれるような世話を、焼かれるほどの子供じゃない。それが黒柳、三毛縞の総意だった。特にこだわりはない三毛縞は用意されたものが紅茶だろうが緑茶だろうが興味はないが、黒柳は撮影――特に歌唱を披露するときと、長い間トークする必要のある番組では特に、直線に飲むものにこだわりを持っている。どうせ黒柳も飲むのだから、自分の分も一緒に淹れてしまおう、という三毛縞が黒柳に湯気を立てるマグカップを渡した。喉に良いとされるハーブを調合したそのハーブ茶は、三毛縞が気軽に飲むような安い茶葉ではなかったが、黒柳は台本を眺めていた目で一度三毛縞を睨みつけるだけで、黙ってマグを受け取った。
「そうだ。――貴様、相変わらず台本を読まん男だな」
「ンなもん読まなくったって、どうせ俺らは司会進行じゃねえんだ」
黒柳の前で雑にページを捲る三毛縞が、こうも不真面目な男でありながらそれでもこういったバラエティーでは黒柳以上に器用に話をした。場を盛り上げることも、後輩をかわいがることも、同業だろうが違業だろうが盛り上げることも器用にやってみせた。それが黒柳には羨ましかったし、同時に悔しさで腹立たしいことでもあった。昔ならこのまま胸倉をつかみ合い、口論から突きあうくらいには発展していただろう。まあ俺は器用だからな、と肩をすくめる三毛縞に、黒柳は相変わらずだなと呆れたように目を回すだけだ。
「ハハ、ま、楽しもうや」
背を押された黒柳が、相変わらず呆れたように肩をすくめて笑った。