HAPPY RE:birthday 目を覚ますと、辺りは真っ暗闇だった。
一切の光源を絶たれ、誰の気配もない夜の空気が真田の部屋を埋め尽くしている。
ベッドから下りて部屋の照明のスイッチを押す。すると部屋の中は昼間同然に光で満たされる――はずだった。
「……?故障か?」
いくら押しても明かりは点かない。せめて今の時刻を確認しようと、ベッドの側に置いてあるデジタル時計に手を伸ばした。ところが、液晶は何の数字も示さず、一切の機能を停止している様子だった。
ならばと携帯電話を開いてみるが、こちらもやはり画面は真っ暗で何の操作も受け付けない。
「……もしかして」
冴え切らない頭のまま、慌てて窓際へ駆け寄り乱暴にカーテンを開ける。窓の向こう側に見える街は、立ち並ぶ街灯も見渡す限りの民家や商業施設も、全てが死んだように静まり返った闇に沈んでいた。
「影、時間」
そう呟く真田の脳裏に浮かんだのは、少し前に桐条美鶴と名乗る女子生徒から聞いた話だった。
ハッとして真田は部屋を飛び出し、廊下を進み両親の寝室の前に立った。扉の向こうからは何の音も聞こえない。閉ざされた扉をそっと開いてみると、その先に見えたのはやはりいつもの両親の姿ではなかった。
「父さん……母さんも」
本来ならば二人が眠っているはずのベッドの上には、棺のような形の真っ黒い物体が並んでいる。おぞましい光景に思わず後退りした。まるで元々生きている人間だとは思えない様相だった。
これは"象徴化"と呼ばれる現象らしい。桐条からは話としては聞いていたが、実際に目の当たりにすると気味が悪いし、まして身近な人間がそうなっている様はあまり直視したくはない。
知らぬ間に自分の呼吸が震えていることに気付き、真田は静かに両親の部屋を後にした。
毎晩0時になると出現する、通常とは異なる時間。その間全ての生命は活動を停止するが、稀にその時間に適応できる者がいる。桐条美鶴からはそう聞かされている。その内の一人が真田であるとも。
その話を聞くよりも前から、夜中になると奇妙な現象を体験したことはぼんやりと覚えている。だが、昔馴染の友人に話をしてもそんな夜中に停電なんか起きなかったとか、トレーニングのしすぎで疲れているだけだとか、そんな返事ばかりでまるで信じてはもらえなかった。
いつしか真田も気のせいだと思い込むようになったが、桐条との出会いによってやはりあれは現実のものだったのだと知った。
影時間の存在を知らされてから体験すると、目にするおかしなもの全てに答えが与えられた。しかし、それは不安感を払拭してくれる訳ではないらしい。本能的な忌避感、嫌悪感を煽るこの光景にもいつか慣れる日が来るのだろうか。
「そういえば、あのピストル……」
桐条から誘いを受けた日に手渡された"ピストル"の存在をはたと思い出した。彼女はあれを召喚器と呼んでいた。
影時間中に現れる化け物――シャドウというらしいそれを倒すこと。それが真田に与えられた使命であり、桐条の誘いに乗った理由であった。召喚器は、そのシャドウを倒すために用いられる能力を発現させるために使うらしい。
学習机の一番大きい引き出しに仕舞っていたそれを取り出す。暗闇の中でもその銀色はひときわ強く光っているように見えた。まるで早く戦わせてくれと真田に呼びかけているように。
グリップ部分を握り込み、ガンマンが登場する西洋の映画で見た動きを真似て引鉄に指を添えてみる。見た目は拳銃そのものだからか、指先の震えが猛烈に死を意識させた。いや、指先だけではない。召喚器を手にした真田は、無意識のうちに全身を恐怖に震わせていた。
「……ハッ、ハァッ、ハァ……ッ」
荒い呼吸を繰り返しながらも、召喚器を握った指は固まったように動かない。冷や汗が米神を伝うのを感じる。手足の末端が温度を失っていく感覚の中で、目を覚ます直前まで見ていた夢での光景が頭の中に蘇った。
それは影時間とは別の暗闇だった。何も見えないが、何かの音は聞こえてくる。
「は……間後……められ……」
次第に鮮明になるその音は、人の声のようだった。真田の耳には、やがてはっきりと意味を伴った言葉が入ってきた。
「……は一人の遺体が……ており……」
「……んの行方が分からなくなっているとの……」
淡々と、出来事の事実のみを伝える低い声。ニュース番組の、とりわけ明るくない話題の時に発されるキャスターのもの。
次の言葉は一切のノイズもなく、真田の脳に刻み込むようにして発せられた。
「警察は、遺体は美紀ちゃんと見て捜査を続けています」
確か、この辺りで目が覚めた。
召喚器を手放せない。早く出してくれと身体の内側から呼びかけられている。根拠は無いが、その確信があった。自分の意思かどうかも定かでないままに、ふらふらとした足取りで部屋から出て、そのまま階段を降り、玄関へ向かう。外履きに履き替え、扉を開けたら、もう完全に引き返せなくなる予感がした。
「……上等だ」
グ、と力を込めて扉を押し開ける。金属製の扉は普段の日常と何ら代わりなく、真田を家の中から外へと送り出した。
目の前に広がるのは、歪んだ闇と血溜まりのような模様を纏ったアスファルトの地面。それだけで目眩がしそうだった。
これまでにも何度か体験した影時間だが、その最中に外へ出るのはこれが初めてだ。足を進めると、普通に歩いているつもりなのにどこか不安定なような気がしてくる。周辺を見渡してみるが、皆家の中で寝静まっているのだろうか、外に象徴化した人間の姿は見当たらない。
もう少し先まで歩くと、ちらほらと黒い棺が立っているのが見えた。ただ歩いているだけなのに身体が重い。桐条曰く、影時間の空気は慣れるまで苦労するらしい。
やがて近くの公園まで辿り着いた。普段のランニングのコースにも組み込んでいる馴染みの場所だが、ここも例外でなく悪寒がするような居心地だった。
「よし、ここなら……」
周辺に何もないことを確認し、一つ大きく息を吐く。それから、家を出た時からずっと手にしていた召喚器を握り直した。それを自分の頭部へ持っていこうとした、その時。
「あ、ああ、ああアァァア!!」
人の悲鳴か、獣の咆哮のようなものが真田の鼓膜を貫いた。その方向を見ると、実体を持った影とでも言うべきものがこちらへ向かって来ている。
――あれがシャドウか!
その姿形についてはまだ聞いていないが、直感的に理解した。そいつが明確に真田を狙って来ていることも。
半ば液体のような黒い身体から生えた大きな手で、這うように移動してくる。その中心には青い仮面のようなものがある。あそこが顔か。
「つまり、そこを狙えば良いんだな」
身を屈めて臨戦体制を取る。急所が分かっているならこっちのものだろう。ボクシングで鍛えた拳を握り、相手が真田の間合いに入るのを待つ。
「今だッ!」
シャドウが真田に接近した瞬間、その懐に飛び込んだ。仮面のど真ん中に左を叩き込む。大会でも対戦相手を一撃でノックアウトした一発だ。素手ではあるが、この距離ならそれなりのダメージは入るだろう。
ところが、化け物はまだ元気が有り余っているらしい。ギャアと悲鳴のような音を一度立てただけで、倒れる気配はまるでなかった。
仮面の上部に空いた、目玉のような二つの空洞が真田を捉える。
化け物は体を捻り、大きな手を真田めがけて振りかざした。ビュ、と空を切る音が鳴る。
「クッ……」
咄嗟に後ろへ跳んで致命傷は回避できたものの、ガードの姿勢を取った前腕部に切り傷を付けられた。幸い傷は浅く、出血はすぐに止まるだろう。この間合いで正面から反撃されるのは久々だ。
「面白いじゃないか」
ボクシングでは満たされない、命懸けの戦いへの渇望。それが今この瞬間に果たされようとしている。召喚器を握る手が、今度は恐怖でなく興奮で震えた。
「俺が求めていたのは、こういう戦いだ」
心の奥底が打ち震える感覚。全身の血が滾り、自ずと口角が引き上がる。さて、次はどう来る?どんな攻撃を叩き込んでやろうか?真田の頭の中はそんなことでいっぱいだった。
ところが、燃え上がる闘志とは裏腹にシャドウは真田の脇をすり抜けてどこかへと走り去ってしまった。敵前逃亡とは情け無い、と心が急激に冷めてゆくのを感じる。
だがその後ろ姿は、敗走する者特有の弱さを感じさせなかった。この違和感の意味するところは何か、逡巡の後、真田は一つの可能性に行き着いた。
「まさか、他の奴をターゲットにしたのか!?」
奴を見失う前に追わなければ。シャドウが向かって行く方向目掛けて駆け出してゆく。
必死になってシャドウを追いつつも、視界の端を流れて行く街並みと自分が辿る道のりに、覚えがあることに気が付いた。
小学生の頃から何度も行った場所だから間違えようもない。
(まずい、そっちは……!)
その先には真田の昔馴染一家の住居がある。
真田の頭に最悪の可能性が過った。
もし、あのシャドウが荒垣の家を襲ったら。
人智を越える力とやらで、あの家を無惨にも破壊し尽くしてしまったら。
影時間が明ければ象徴化した人間も元に戻る。そうしたら、場所が悪ければ倒壊した家屋の瓦礫に押し潰されてしまうかもしれない。身動きも取れず、何が起きたかもわからぬまま。影時間が明けて、元の人間の体を取り戻すと同時に、二度と目を覚まさなくなる。もし、そうなってしまったら。
「シンジッ!!」
衝動的に親友の名を呼ぶ。
間に合うか。間に合え。間に合え!
必死になってシャドウを追いかけるも、まるで距離は縮まらない。このままでは、シンジが。シンジの養父母が。何度も遊びに行ったあの家が。
「死なせるものか……ッ」
喉の奥から血の味がする。もう己の無力で大切な人を失いたくない。あんな思いは二度としたくない。だから――
真田の手の中に握られたままの召喚器が、視界の端でキラリと光った。
足を止めないまま、それを己の頭部に近付ける。引鉄に人差し指を添えて、銃口を額に押し付けた。
「頼む……」
祈りを込め、指を引く。永遠にも等しい一瞬だった。
できるんだろう、お前なら。
「――ペルソナッッ!!」
刹那、大きな振動と、グンと後頭部が引っ張られるような衝撃が走る。その拍子に真田は後方へと吹っ飛ばされてしまった。自分の身体が硬いアスファルトの地面を転がっていく。
辺りを強い光が囲んでいた。巨大なエネルギーが暴走しているかのように、衝撃波とでも言うべき風が辺りの木々までもを揺らしている。その中心には全身に肥大した筋肉をもち、金色の長髪を靡かせる巨大な人間のような姿が見えた。
「……俺だ」
あれは、間違いなく己だ。あんなものは見たこともないし、鏡に映る真田の姿とはまるで似ても似つかないが、それでもあれは真田そのものなのだ。
"ペルソナ"と無意識に呼んだそれは、真田の方を振り返ると、そのまま敵の方へと突っ込んでいった。自力で走るのでは到底出せないようなスピードで、ぐんぐんと距離を縮めていく。
そうしてシャドウに追いついたかと思えば、その眩しく逞しい肉体の全エネルギーを込めた強烈な拳を仮面目掛けて叩き込んだ。
ギィィと苦痛を訴えるかのような耳障りな音がシャドウから発される。動きは止まり、半分液体のようなその身はだらしなく地面に伸ばされている。
「トドメだ」
シャドウの目の前に立ち、再び召喚器を構えた。ひとつ息を吐いて、銃口を当てた額に意識を向ける。想起される己の臆病を打ち砕くように、引鉄を引いた。
「ペルソナ!」
今度は自分の背後に大きな気配を感じる。
さあ、もっと見せてみろ。お前の力を!
そう念じた瞬間、目の前に閃光が走った。それと同時にシャドウの身体を轟音と共に激しい衝撃が貫く。
「ギァァアア……!」
甲高い音がして、それが徐々に遠ざかっていったかと思うと、シャドウは跡形もなく霧散した。
「……勝った……のか……?」
ハッとして辺りを見渡す。あれほど凄まじい衝撃があったにも関わらず、辺りは元の住宅街のままだった。特にこれといった損壊も見当たらない。
「よかった……」
安心したせいか、全身の力が抜けていく。急な疲労感が襲いかかってきた。立っていられなくなり、その場にガクンと膝をつく。
その場でしばらく息を整えていると、こちらへと駆けてくる人影が見えた。
「おい、無事か!?」
「……お前、は」
聞き覚えのある、女の声だった。その人は真田の傍らにしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込む。影時間だからかあるいは疲労のせいか、顔はよく見えないが桐条美鶴だということはすぐに分かった。
「シャドウの反応を捕捉したはずだが……。まさか、君が倒したのか」
「ああ、勝ったさ」
信じ難いという声色で尋ねられ、召喚器を目の前に掲げて答えてみせる。そうか、という桐条の返事は感情がいまいち掴みきれなかった。
「ペルソナの召喚は消耗が激しい。まして初めての召喚なら尚更だ。意識を保っていられるだけでも大したものだ」
桐条の肩を借りて立ち上がり、彼女に半分体重を預ける形でその先導に従う。自力では通常通りの歩行すら難しいとは、改めて人智を超えた力なのだと思い知る。
「すぐそこに車を停めてある。今日は君の家まで送っていこう。それと……」
桐条の目線が示す先には黒光りする高級車があるようだった。ほんの少しの距離なのに、この状態では辿り着くまでも苦労する。
「今後はこういった無茶は控えてほしい」
今度はもっと徹底的に鍛える必要がありそうだ。
その後は桐条の家の使用人から手当を受けつつ、車内で先程の能力について簡単な説明を受けた。また後日改めて詳しいことを教えてくれるのだという。
「しかし、君は……本当にこれで良かったのか」
「何がだ?」
「これで君はもう戦いの運命からは逃れられなくなる。引き返すなら今の内だ」
桐条は俯いたまま、こちらに目を合わせようともしない。
「何を言ってるんだ。元々お前から誘ってきたんだろう」
「だが、怖くないのか。その傷だって、戦いの相手が人間ならばもっと軽傷で済んだはずだろう」
そんなことは合意の上だ。むしろ、強敵と戦えるなどという誘い文句で引き入れておいて何を今更、としか思わない。
「むしろこの程度で済んだんだ。俺がもっと強くなれば良いだけの話だろ?」
驚いた顔で桐条がこちらを見る。
「言ったはずだ。俺は強くなりたいだけだとな」
「フフ……大した奴だ」
それから夜が明けて、いつも通りの朝が来た。
疲労のせいか真田は随分と深く眠ってしまっていたようで、目が覚めてからデジタル時計の画面を確認した瞬間は何かの冗談かと思ったほどだ。
大慌てでベッドから飛び起きて、クローゼットから制服を引っ掴み寝間着から着替える。シャツのボタンを留める手間すらもどかしく、愛用の赤いTシャツの上から羽織っただけの状態で階段を駆け降りた。
洗面所に直行して猛スピードで顔を洗い歯を磨く。いつもならその後リビングで朝食を摂るところだが、そんな悠長なことをしている暇はない。
「おはよう母さん、朝はいらない!行ってきます!!」
「えっ!?ちょっと明彦!?」
全部の要件を詰め込んで一息で言い切ると、母の驚いた声を背に文字通り家を飛び出した。全力疾走する傍らで、影時間でシャドウを追ったあの時とどちらが速いのだろうか、などと考える。早朝のトレーニングの時間は潰れたが、これはこれで瞬発力や心肺機能を鍛えられているのではないか。
人目も意に介さず街を疾走して向かう先は学校ではない。今日のような朝練の無い日は決まって、荒垣と合流してから登校するのだ。どちらから言い出したわけでもないが、小学四年の頃から今までずっとそうしている。その前は出発地から同じだった。
荒垣の家が見えてきた辺りで少しずつ速度を落とす。合流とは言いつつ、いつも朝はギリギリまで寝ている荒垣は家を出るのが遅く、大抵は真田が迎えに行く形になる。だから通学路の途中で待ち合わせるより直接家へ向かった方が早いのだ。
ふと、ある一点で真田の足が止まった。
数時間前にシャドウと戦闘になった場所だ。
そこにはなんの形跡も無く、自分のペルソナが放った雷のような一撃も夢か何かだったのではないかと思わされる。
だが、それこそが被害が出なかった証拠だ。
荒垣の家へ向けて、再び歩き出す。今度は落ち着いたペースで。起床こそ普段より遅かったが、決して遅刻するような寝坊ではない。いつも通りに荒垣を迎えに行ってやろう。そう考えていると、ちょうど向かいからこちらへと猫背の姿勢でやって来るシルエットが見えた。
「よう。お前にしては早いんじゃないか」
「うるせえ。開口一番言うことがそれかよ」
憎まれ口の応酬をしながら合流する。寝ぼけ眼に大欠伸をかました、気の緩み切った顔も見慣れたものだ。平和とも退屈とも呼べるひと時に、言いようのない安心感を覚える。
しかし突然、荒垣が血相を変えて真田の手首を掴んだ。長閑な空気が一変する。
「おい、こいつは何だ」
その先の前腕部にはシャドウから受けた傷を手当てした時の包帯が巻かれたままになっている。普段のトレーニングなどではとても負傷するような箇所ではない。
「こんなモン昨日は無かったろ」
「別に、大した傷じゃない。ほっとけばすぐ治る」
「……そうかよ」
納得したとは言い難い様子だが、荒垣にこれ以上追求する気は無さそうだ。真田としてもまさか正直に化け物と戦ったとは言えず、内心ホッとする。
緊迫した空気感を薄らと残したまま、学校へ向けて歩みを進める。真田は普段よりも少しだけ重い口を開いた。
「なあ、シンジ」
「何だよ」
「もし……新しい自分とでもいうのか、もう一人の自分自身みたいなものが現れたら、お前ならどうする?」
荒垣をシャドウとの戦いに引き込むつもりはない。あれは適性がある者にしか成し得ないことなのだ。そうは理解しつつも、聞かずにはいられなかった。荒垣ならあの力をどう使うのか。
「……お前なぁ」
ところが荒垣の答えは、真田の思う事の重大さをまるで知らない声色と共に呆れた調子で返された。
「そんな回りくどい言い方しなくても誕生日くらい祝ってやるっつの」
「は?」
こいつは何を言っているんだ?まずそれだけが頭に浮かび、なんとも間抜けな声が出た。
それから暫しの思考の後、真田は今日が9月22日であることを思い出した。
……どうやら自分達の間にものすごいすれ違いが発生している。
「いや、違、違う!そんなつもりで言ったわけじゃない」
「大袈裟だろ、たかだか15歳になったくらいで新しい自分とか」
「違うと言ってるだろ!!」
「プレゼントならちゃんと渡してやっから安心しろ」
「うるさいぞ、この馬鹿!」
「今馬鹿っつったか馬鹿!」
ぎゃあぎゃあと喧しく言い争いながら、駅までの慣れた道を行く。何の変哲もない、平穏そのもののような街の中で、真田の頭にふと小さな疑問が生じた。
ペルソナが初めて現れたあの影時間は、21日と22日のどちらなのか。
今日会えたら桐条に聞いてみようと思った。