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    mitsuhitomugi

    @mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    フェス後日談編のED後のお話です(ネタバレ要注意)。言うほど妹がメインの話でもないかもしれない……

    #ペルソナ3
    persona3

    妹よ 時折不規則に揺れる車内で、窓越しに浴びる春の柔らかな陽光は信じられないくらい暖かくて優しい。このまま微睡みに身を委ねて眠ってしまいたいような心地だった。
     終わりの見えない戦いと共に3月31日を繰り返し続けた果てに漸く辿り着いた4月1日という日を、特別課外活動部の面々はじっくりと噛み締めるように過ごしていた。否、実際にはもう特別課外活動部という組織は役目を終え、今や月光館学園の生徒達と卒業生、それから元野良犬の集団に過ぎないのだが。
     美鶴の計らいで全員を乗せて走ることになった車内は、それでも空間に余裕がある。あともう2、3人は入れるだろう余白を何とは無しに眺めていると、不思議とそこに収まるべき人が平然と居座っているような気さえしてくる。その者達との別れを受け入れ、たとえ未練を抱えてでも前へ進む決意をしたばかりだというのに、どうあっても彼等は自分達の意識の内側に幅を利かせるつもりらしい。仕方のない奴等だ、と真田は軽く微笑んだ。
     交差点に差し掛かり、赤信号に合わせて静かに減速する車の中で、不意に順平が口を開いた。
    「そういや真田サン、"ミキ"って誰なんすか?」
    「美紀……?何故お前が美紀を知ってる?」
     ミキ、と言えば真田の妹の美紀のことだろうが、果たして順平に話したことがあっただろうか。眉根を寄せて順平を見やると、どうやら相当邪悪な人相になっていたらしく順平は慌てた様子で付け加えた。
    「や、ホラさっき言ってたじゃないスか。『シンジやミキの死が帳消しになるなら……』って。イヤ、話したくないとかなら別に良いんすけど、ちっと気になったっつーか……」
    「ああ……」
     そういえばそんなことも口走ったような気がする。「時の鍵」の使い道を巡って岳羽と口論になった時だ。頭に血が昇っていたせいか、つい咄嗟に美紀の名を出してしまったのだろう。様子を窺うようにこちらを見やる順平に、真田は淡々とした調子で答えた。
    「美紀は、俺の妹だ」
    「妹……」
     真田の言葉に反応したのはアイギスだった。彼女もつい先程自分自身の「妹」と向き合ったばかりで、思うところがあるのだろう。
    「真田さんにも、妹がいたんですね」
    「でも、死……ってことは、もしかして……」
     おずおずと口を挟んだのは山岸だ。
    「ああ。昔、俺達が暮らしてた孤児院が火事になってな」
    「そんな……」
     俺には、アイツを救えなかった。そう言うよりも先に、山岸は哀しみに堪えきれず声を漏らした。自分事のように辛そうな顔をする山岸は、まるで何かの肩代わりでもしているみたいだ。それから暫しの間、車内はエンジンの駆動音以外の一切の音がすっかり消えてしまった。重たい沈黙に包まれるのもこれで最後だろうか、などとぼんやり思う。
    「おいおい、せっかくの門出の日だぞ。あまり暗い話をするんじゃない」
     陰気臭い空気の中、わざと茶化すような調子で沈黙を破ったのは美鶴だった。岳羽も何でもないような振る舞いで美鶴に続く。
    「美鶴先輩の言う通りですよ。もう、アンタのせいだからね、順平」
    「え、オレ!?いや、オレか……スンマセン……」
    「お前もだ、明彦」
    「俺もか!?」
     それは流石に理不尽ではないかと思うが、今回だけは見逃してやることにする。ここで食い下がっては後が怖い。くどくどしたこっぴどい説教が待っていることだろう。
     漸く緩んだ空気の中で、誰かの寝息が聞こえてきた。車内を見渡してみると、天田が睡魔に負けてしまったらしい。あれだけの戦いと緊張の後だ、子供の身体では休息が足りなかったのだろう。決意を共にし、背中を預けて戦った仲だが、こうして見るとやはりまだまだ幼い。天田くん寝ちゃったみたい、という岳羽の声に、だな、と相槌を打った。
     「あの、真田さん」
     天田に気を遣ってか、アイギスが遠慮がちな声で真田に話しかけた。どうした、と問えば、アイギスは言葉を選ぶように少し逡巡した後に口を開いた。
    「やっぱり、妹は可愛いものですか」
    「まあな。いつも俺の後をついてきてた」
    「そうですか……」
     満足そうにふわりと微笑むアイギスは、もはや鋼鉄で出来ているのが不思議なくらい人間らしい。
    「向こうにはシンジもいるからな。寂しい思いはしてないだろう」
    「それは良かったです」
     そう言ったきり、アイギスはまた口を閉ざしてしまった。今度は、実に穏やかな沈黙だった。
     やがて順平がいつもと何ら変わりない調子で話しかけてきた。
    「でも真田サンの妹とか絶対カワイイに決まってるよなー。写真とかないんすか?」
    「あったとしても絶対にお前には見せん」
    「ちょ、酷くないっスか!?」
    「お前にだけは絶対やらん」
    「コワイコワイ!先輩目がマジですって!!そのカオやめて!!」
    「なんですか一体……?」
    「あ、ごめんね天田くん。起こしちゃった?順平がうるさいせいよ、全く」
    「平気ですよ別に」
    「まだ寝てていいのよ。寝る子は育つって言うでしょう?しっかり寝ないと大きくなれないよ」
    「子供扱いしないでください!そりゃ、身長は伸ばしたいですけど……」
     段々と車内が騒がしくなり、アイギスのふふ、という笑い声が聞こえる。それに合わせて美鶴も笑った。呼応するように、コロマルもキャリーケースの中からワン、と元気にひと鳴きする。
     時折不規則に揺れながら、6人と1匹を乗せた車は寮区へ向かって真っ直ぐに進んで行った。
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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