後悔先に立たず
どうして俺はこうなのか。
やつが藍忘機を庇った時も、蓮花塢が落ちた時も、金丹を失い絶望したときも
やつが温氏の残党を匿った時も、捨てろといった時も、姉を失い絶望したときも
本当は迷わず手を差し伸べられるあいつを尊敬していた。
本当は傍にいてくれることがとても心強かった。
本当はあいつも俺と同じくらい絶望しているとわかっていた。
どうして俺はこうなのか。
一緒に手を差し伸べたかった。
罵るよりも傍にいてくれと叫びたかった。
あいつの気持ちも慮るべきだった。
姐が父が、生前ずっと諭していてくれたのに。
俺はついぞ自分の口を塞ぐことが出来なかった。
あいつは俺のことを一番理解してくれているからと甘えてしまった。
理解してくれてはいても、傷つかないわけではないのに。
どうして俺はこうなのか。
あいつが死んだなんて信じられなくて、谷底をさらった。
あいつの名を貶める輩が許せなくて、邪術使いを片っ端から捕らえる。
あいつが戻ってきてるんじゃないかとその姿を捜す。
蓮花塢の宗主として雲夢を守る。
あいつに泣き顔なぞ晒さぬ。俺を見て悔やまぬように顔を上げ続ける。
あいつの名を貶していいのは俺だけだ。恨みで固まった姿なぞ見せようものならこの手で葬ってくれる。
あいつがつけた蘭の名に恥じない、強く美しい仙師として阿凌を育て上げてみせる。
あいつが造った酒を一人飲み下し、不敵に笑う。
見上げた空に浮かぶのは、もう隣並び立ってはくれない一人先をゆく姿。
「魏無羨」
全て一人で抱えたまま死んだお前を
何も残さず俺を一人残して死んだお前を
お前一人に全て抱えさせて殺した自分を
俺は決して許さない。