「…ねぇ、なんかポストぎゅうぎゅうに押し込まれてるんだけど」
「本当だ。今日はなんの日…あぁ、ホワイトデーだね。」
「おお~!!凄いねぇ!ラッピングもとても綺麗だ!どれから食べる?」
「……またアリア親衛隊のひと達だ。ポスト壊れそうなんだけど」
4人が口々に言う
「ごめんなさいね、皆。悪い子たちではないのよ…」
「謝らないで。…それより私たちが先に中見ていい?手紙は読まないから。」
「え、えぇ…でもどうして?」
「ちょっと気になることあるんだ。璃瑞、包丁持ってきて」
「は~い!」
「何すんの、狐雪。」
「ジェミニも見てるだけじゃなくて手伝って。こんだけ数あるんだから。」
「はぁ?なんで僕まで…てか1人何もしてない奴いるけど」
「僕?僕は璃瑞たちが怪我をしないか見守ってるよ」
「それ手伝いって言わないし」
「はいはい2人とも馬鹿言ってないでこっち来て。」
「ほら呼んでるよ。行かなきゃもっと怒られそうだ。」
「…誰のせいだと」
「手作りのと市販のと分けてくれたよね。で、手作りの方だけこっち。市販のは多分大丈夫だから。」
「大丈夫…?え、と…」
「あぁ…うん、私分かっちゃったかも」
「じゃあ断面見えるようにふたつに切るね。」
ズドン
真っ二つに切られた
「うわ…ほんとに無理」
眉を八の字にし心底嫌そうな顔のジェミニ
「はは、これは…」
口に手を当て困ったように笑うネーヴェ
「あはは…」
言葉が出ず笑うしかない璃瑞
「やっぱり。こういう事だよアリア、見て。」顔色ひとつ変えず真実を見せる雪
皆は苦虫を噛み潰したような顔をしている。切り込みを入れられたチョコレートの中には
「…これ、爪?」
「そう。けど爪だけじゃない。血と沢山の髪の毛。」
「…ッ!!ひ、ぅ…」
もしもこれらに気付かず食べていたら…?
皆が居なければ…?
…今頃どうなっていた???
喉元がヒュッと鳴る。
思わず手で口を抑えた。きもちわるい、
「吐き気止まんないんだけど」
「それに関しては同感…というか凄いね、色々と…」
「アリア…大丈夫?ちょっと横になろう」
すると突然ピンポーン、と部屋中に響き渡ったベルの音。
「…私が行く。」
「1人で行かないで、私も着いてく。」
玄関へ向かう2人
「はい、どなたです…」
「ふ、ふふ…なかみ、みて、くれた?たべ、た、たべてくれた?」
「…あの変なチョコ贈ったの君?」
「だ、った、たらなに?…アリアさ、さま、さ、は?」
「うちのアリアになんて思いさせてんの?こんなの許せない。それにこれ、全ての食べ物に対する冒涜でもあるよ。」
「そうだよ。こんな事してアリアの気引けるわけないでしょ。こんなの親衛隊でもなんでもないよ。」
「し、し親衛隊?あ、あんな奴らと、いい、いっ、一緒に、するな」
「は?じゃあ誰?てか迷惑過ぎ。」
「ジェミニ!いつから」
「お前どこの誰だか知らないし興味微塵もないけどこんな事してたら流石のあいつでも嫌うよ」
「うっう、う!うるさいぃいい!!おま、お、おまえ、らに何がわかるっ!!」
「え、ほ、包丁…?!」
「ジェミニ危ない!!!!」
「いやだから、こんなの使うからだってば。いい加減学習して欲しいんだけど。良い小学校お勧めしたげようか?」
「ええ、そこは病院でしょ?精神科とか」
「(煽るな!てか乗らないで狐雪ちゃん!)」
「う、ううぅ、う…あ、あのひとは…私に手を…ささ、差し伸べてくれたんだ。救っていただいた。だっ、だから…わた、しの1部をぷ、プレゼントして…アリアさまのい、ちい1部になれたら、って、」
「だとしてもあんな事したら元も子もないよ。アリアは気分悪くなって今にも吐きそうだったんだよ。」
「え、」
「『え』じゃないよ。当然でしょ。ほぼ面識ないひとから貰ったチョコでしかも手作り。開けたらあんなのが入ってたらそりゃあそうなるよ。」
「う、うあ、うう、!ちがうちがうちがう!!アリアさまは、、、」
「何も違わない。もういいから帰って。今後二度と関わらないでね、じゃあ」
足音がする。それと会話も。
3人が戻ってきた。
「お疲れ様。無事に追い返したみたいだね。」「本当にね、疲れたよ。日本語が伝わらない奴の相手するの。」
「いや、ジェミニはめちゃくちゃ煽ってただけでしょ」
「アリア、髪がバサーって長くておどおどしてて、眼鏡かけてる女の人知ってる?そのひと、アリアに救われたって言ってたけど」
「柳川さんかしら」
「柳川…?」
「そう、大学の帰りに大きな橋があるじゃない?彼女、そこで命を絶とうとしていたのよ。」
「そうだったんだ…」
「ええ。なんだか思い詰めいてね。それで話を聞かせてもらっていたの。」
「さっきのひとにとっては命の恩人だったって訳だ。」
「でもあそこまでしたらキモいだけ。こっちの迷惑も考えて欲しいね。」
「こらジェミニ!言い方!」
「あぁもう分かったってうるさいな。」
あら…?
そういえば事は終わったのに彼らはずっとここに居る。
いつもなら嵐のように居なくなるはずなのに。
「ジェミニの言い方は今に始まったことじゃないさ。それよりこれ、良かったら受け取ってくれる?」
「わ…!なにこれなにこれ!すっごく高そうだね!ありがとう!!」
「まぁ素敵ね。金色のリボンで包んであるわ。とても美味しそう。ありがとう、ネーヴェ。」
「チョコだ。しかもこれ超有名なショコラティエのブランド…私たちに?嬉しいな、ありがと。」
「そう。いつも皆にはお世話になりっぱなしだからね。僕からは以上だけど…ジェミニ?」
みんなで一斉にジェミニに視線をやる
「な、なに」
「まさかジェミニも用意してくれてたり?」
「なになになァに~??もしかしてジェミニくんもお返しとかァ~!?」
「ちょっと2人とも…見返りを求めている訳じゃないのよ」
「あるわけないでしょ。それにネーヴェのお高いチョコあるんだからそれで…」
ネーヴェが口元に人差し指を当てて笑う
何がおかしいのかと反論しようとしたジェミニを黙らせるように言葉の弾丸を放つ
「いいやそんな筈はないよね。昨日一生懸命キッチンでなにかしてたから…当然あるんだよね?」
「は、…は?!あれは明日の弁当の用意を」
「弁当なんて持って行ったことないよね、ジェミニ。そもそも料理したこと殆どないでしょ。いつも璃瑞に作らせるくせに。」
「………弁当じゃなかった。間違えた。あれは…」
「往生際が悪いね。ほら、これでしょ」
「は?うわ、ちょ、、!」
後ろに隠してあった袋をひょいと持ち上げたネーヴェはにまにまとそれは楽しそうに続ける。
「これ中身はなに?」
「貰い物だけど。てか返せよ。」
「へぇ、貰い物…ね。個々の名前付きなんだ。貰い物なのに3人の名前全員書いてあるとか怖いね。通報でもしとこうか?」
「…………あぁああ!!もう!!」
机に手を強く打ち付けた。
「そうだよ!!あいつが僕より先に良いもの渡したりするから余計渡しにくいだろ…お前たちのために作ったんだから全部食わなきゃ殺すから。」
「わざわざ手作りで?慣れない手作りで??」
「ネーヴェ、そんなに早死にしたいわけ?」
「なんかジェミニが料理してるってだけで面白いね。」
「?」
「冗談だって、ありがと。」
「ホワイト生チョコだ!しかも綺麗!!こんなに丁寧に出来るなら普段から手伝って欲しいもんだけどねぇ。まぁ何がともあれありがとう!」
「あら…そうだったのね、だから手に絆創膏がたくさん貼ってあったの。本当に嬉しい…ありがとう、ジェミニ。」
「良かったね、ジェミニ」
「べつに。」
「ねぇねぇ早速食べようよ!私紅茶淹れてくるからさ」
「ええ、いいじゃない。私にも手伝わせて頂戴。」
「そういえばジェミニ、誤魔化し方もっとなかったの?流石に面白すぎたよ」
「そうだね。本当に面白いな、ジェミニは」
「お前らマジで黙れ」
我が家のホワイトデーは
いつも通り賑やかで
ほんのり甘い香りがした