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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    漣タケ。モブおじさんが漣を泊めてた過去があります

    #漣タケ

    手のひら 夜中の三時に目が覚めた。
     どうして三時かわかったかというと枕もとのスマホで見たからで、どうして夜中に目覚めたかというと話し声が聞こえたからだ。
     隣に寝ていたはずのアイツの姿はなく、かわりに風呂場の方から声がする。誰と話してるんだ、電話か? こんな時間に台詞暗記をするようなヤツではない。
     俺は軋む身体を無理やり動かしてベッドから降りた。シングルベッドじゃ睦みあうのにも無理がある。しかし事はいつも急に始まるから、わざわざホテルに行っている暇もない。どうしたもんかと腰を摩りながら、俺はこっそり風呂場へ近づいた。
    「だから、無理だっつってんだろ」
     苛立った声が浴室に響く。俺を起こさないようにわざわざここまで移動してきたんだろう。真っ暗な室内に、煌々とスマホの光が反射する。
    「オレ様にだって都合はあんだよ」
     盗み聞きするのは忍びなかったが、どうやら事態は深刻そうだ。アイツがぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるのがわかった。
    「つーか、もう会わねえっつったろーが」
     なんだ、恋人か? そんな台詞吐くなんて、それくらいしか考えられない。じゃあ俺はなんなんだ。好きだとか付き合おうとかは、確かに言ったことないけれど。
    「泊まるところもある。メシもある。もうテメェの世話にはなんねーよ」
     聞いてはいけないことを聞いている、そんな気がして、俺はそっとその場を後にしようとした。アイツにだってプライベートの付き合いはある。俺とこんな関係になる前はどこに泊まってるのかわからない夜が多かったけれど、そういうことだったのか、と合点がいく。世話してくれる人がいたのだ。プロデューサーはこのこと知っているのだろうか。
     アイツに背を向け、そろりと足を延ばした時。アイツは低い低い声で、電話の相手にこう告げた。
    「じゃーな、オッサン。もうかけてくんなよ」
     俺はその言葉に、動けなくなった。オッサン? 恋人ではなく。何者だ? というか、誰のところに泊まりに行ってたんだ、そいつは誰なんだ?
    「……聞いてたのか、チビ」
    「……べ、便所」
     気付かれた。いつのまにか背後に立っていたアイツはものすごい形相で俺を睨んでおり、盗み聞きしていたという後ろめたさを隠そうと、咄嗟に嘘をついた。動悸がうるさい。アイツにまで聞こえそうなほど、痛い。
    「……聞いてたんだろ」
    「……少し」
     はぁ、とでかい溜息を吐いて、アイツはリビングもとい寝室に戻っていった。俺はあわてて彼の背を追い、ベッドに腰かけたアイツのそばに寄る。
    「……だれ、だったんだ。相手」
    「別に。オッサン」
    「……泊ってたのか」
    「公園で寝てたら、声かけられたんだよ」
    「危ないだろ、そんな人に付いていったら」
    「うるせー」
     ギロリとこちらを睨むアイツの、黄金色の視線が俺を刺した。言われなくてもわかってると言いたいのだろう。だけど、生きるためにそうする他なかったのだろう。そのくらい俺にもわかるけど、でも、心配くらいさせてくれたっていいじゃないか。
    「……なんか、されなかったか」
    「………………」
     アイツは微動だにせず、ただ床を睨みつけていた。その感情は俺は読み取れない。暗がりの中、二人の呼吸音だけがあった。
    「……身体を」
     掠れた声。俺は動けない。アイツと重ねていた手の熱さが、遠い昔のようだ。
    「身体を……じっと、見られた。泊るたびに」
    「見られ……?」
    「裸になって、立ってるだけでいいって。触るわけでも、写真にとるわけでもなかった。ただずっと、見られてた」
     固くなっていく声色に、俺は言葉を被せられなかった。彫刻のようなコイツの裸体を思い描く。ただ立って、今みたいに床を睨んでいるコイツの様子を。
    「しばらく見たら満足して、金渡してくんだよ」
    「そんな……」
    「冬はそうやって過ごしてた。……もう会わねえっつった」
     俺は何故だか泣きそうになった。ぐっと堪え、息を細く吐く。アイツは泣いてないのに、なんで俺が泣きそうになるんだ。
    「……チビと寝てる時の方が、あったけえ」
    「…………」
    「もうこの話はしねえ。寝ろ」
     そう言ってベッドに潜り込んだアイツの背に、そっと額を寄せた。アイツの匂い。アイツの温もり。
    「……いつでも、泊りに来ていいから」
    「…………」
    「これからも。ずっと」
     アイツの腹に手を回した。アイツがどんな表情をしているかはわからなかった。俺は相変わらず泣きそうで、でも絶対に泣いてやるもんかと固く唾を飲み込んで、ぐりぐりとアイツに額を擦り続ける。
    「俺、オマエのこと、好きだ」
    「…………」
    「抱かれるのも」
    「…………」
    「もう、他のとこ、行くなよ」
    「……行かねーよ。チビが泣くからな」
     そっと手に手を重ねられる。ひどく湿っていて、熱い手のひらだった。
     世界で俺だけの、大切な手のひらだった。
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