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    いなーさ

    @ottonounkohunda

    すたおのSS保管置き場です

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    いなーさ

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    アシュプリ前提のレオプリ

     どうして銀河連邦は、資金は潤沢にあるはずなのに部屋のつくりはケチくさいのだろう。安っぽい壁のおかげで、隣にいる奴の通信音が丸聞こえなのだ。レオンは苛々しながら深い息を吐いた。
    「えぇ〜?そんなことあったんだぁ。そうそう、最近レオンがさ〜」
     自分の名前が突然会話から飛び出し、レオンはビクッと肩を震わせた。一体何を話すつもりなのだろう。続きが気になってレポートが手につかない。
    「………ちょっと待っててね、アシュトン。一回ちょっと通信切るね」
     相手の声のトーンが低く変わり、椅子を動かす音が聞こえた。歩く足音の後のすぐ、自室のドアが雑に開く。
    「レーオーン!またあんた、あたしの会話盗み聞きしてたでしょ!?」
    「人聞きの悪いこと言わないでよ」
     あくまでレオンは平静を装っているが、フェルプール独特の猫耳がひょこひょこ動いて動揺がバレていたので、付き合いの長い彼女には全く誤魔化せなかった。
     レオン達が英雄と称えられて数年後。共に旅をしたクロードが故郷の地球に帰る時、地球の技術に興味があったレオンとプリシスは、彼に頼んで一緒に連れて行ってもらうことにした。
     地球は見るもの全てが新鮮だった。勉強に夢中になった。学べるものはとことん吸収して、気づくと色んな肩書きがついていた。隣で切磋琢磨していたプリシスもそれは同じだった。若くして研究室を与えられた。しかも隣同士で。
     思春期の成長は著しい。地球に来た頃はプリシスに見下ろされていた身長も、今となっては大きく超え、彼女の恋人の方が近いくらいになった。
    「……結婚しないの?」
    「え〜。そりゃ将来的にはしたいけど、色々考えなきゃいけないじゃん?どっちがどっちに来るとかさ〜」
     自分で話を振っておいて、彼女の発言に傷ついているのだから世話がない。我ながら大分拗らせている。
     もう片想いを続けて何年になるのだろう。地球に来る前から、いや旅の仲間になったあの時から、レオンはプリシスの隣を陣取っては彼女の横顔を見つめて時を過ごした。アシュトンは大人の余裕というやつなのか、微笑ましくレオンとプリシスのやり取りを見守ることの方が多かった。プリシスの心が自分にあるという揺るぎない自信があるのだろうとレオンは思った。

    『アシュトンはそれでもいいの?あたしと会えなくなるんだよ?』
    『良くないよ…そんなの淋しいに決まってるじゃないか』
    『じゃあ、どうしてあたしに行かないでって言ってくんないの…』
    『プリシス。わかってほしいのは、僕は君のことが何より大好きだし大切だよ。でも、僕のわがままで君の将来を縛り付けたくないんだ。君とずっと一緒にいたいから…』
    『うぅ…わあああ、わああああん………いやだよ、アシュトン…』
    『……………っプリシス……会いに、行くから…必ず…』

     留学の直前、別れ際もレオンはプリシスのそばにいた。二人が抱き合っているところは辛くてまともに見られなかったけれど、反面、心を奪うチャンスもあると思えた。卑怯と罵られてもその時は良かった。彼女の隣にいられるのなら。
     なのに。

    「やっぱ、あたしって天才だよねぇ〜。愛の力ってヤツ?」
     クロードがエクスペルにいた頃、エルリアでカルナスに強制転送されたことがあったが、プリシスはその装置の仕組みを理解して、一から自分で作り上げてみせてしまった。両機をポータブルタイプに改良し、その片方をクロードに渡し、任務航行中にエクスペルに寄ってアシュトンの手元に置いてきてもらうようにした。これでどんなに遠距離でも、二人の都合が良い時に会うことができる。
    「僕も手伝ったこと忘れてるの?」
     …………不毛だ。全くうまくいかない。

    *****

     遅い帰宅の割に、静かな音でプリシスは部屋の扉を開けたらしい。隣人にとっては静かな音の方が当然マナーが良いわけだが、仕事で疲れ切っている時のプリシスは大体荒っぽく開け閉めをするのだ。
     何かあったな……。ピンときて、レオンはドアをノックした。
    「………プリシス?入るよ?」
     返事はない。鍵は開いていた。正面に、机に突っ伏しているプリシスの後ろ姿が見えた。
    「………せめて着替えなよ」
     プリシスは白衣を着た仕事着のまま、机の上にある木製のオルゴールの模様を指先でなぞっていた。
     エクスペルを出る時に持ってきた、アシュトンとの唯一の思い出だった。最新のテクノロジーに囲まれた部屋に見合わない、一つだけのレトロ品。
    「…………今日、上司にさ、昇級しないかって言われた」
    「何だよ、いい話じゃない」
    「そりゃありがたいけど、あたしもっと仕事忙しくなっちゃうじゃん。結婚だってしたいし、子供もほしいもん。だから、ちょっと人生せっけーと相談させてって言ったんだよね」
     また胸がちくりと痛んだのを我慢する。
    「そしたら、カレシも地球に連れてきなよ、家事が好きなら主夫になってもらえばいいって簡単に言うんだよ。あたしはあたしの都合で、アシュトンを振り回したくないよ」
    「ふーん。じゃあプリシスがエクスペルに戻ったら?」
    「…………わかんないよぉ、今の仕事も好きだもん。ねぇレオン、どっちもほしいのはワガママなの?」
    「…………どっちも叶えられる方法あるのになぁ」
     心の中の声が少しだけ漏れた。レオンは慌てて両手で口を塞いだが、プリシスが聞き逃すはずはなかった。ガバっと机から身体を離し、レオンにぐいぐい詰め寄る。
    「なになになに?どんなの!?」
    「………………なんでもない」
    「ちょっとレオン!何年の付き合いだと思ってんの?あたしをごまかそうったってそうはいかないんだかんね!」
     プリシスは背伸びをして無理やりレオンの襟首を掴み、シャツごと肩を揺らそうとするが、力はレオンの方があるのでうまくいかなかった。顔が近い。
     この体勢じゃ、プリシスがまるで、キスを強請っているみたいだと思ってしまった。

     …………手を伸ばせば届く位置にいる。頑なに守り続けていたタガが、外れる。

    「…………何年の付き合いだったかなぁ、僕も往生際が悪いよね」
    「…………………レオン?」
     レオンは右手の親指で、プリシスの下唇を横にゆっくりなぞる。
    「なに……?どうしたのレオン……」
     不安に思ったプリシスがレオンから身体を離そうとしたら、壁際に押さえつけられた。離れない。
    「僕を選んでよ、プリシス。そうしたら、全部失わずに済む」
    「ねぇ……レオン…いつもと違───」
     一瞬だった。頭を寄せられ唇が触れ合う。何をされたかその時はわからなかった。気づいたプリシスが目を見開き、唇を必死にはがす。
    「レオン……!やめて!いつものレオンじゃないよ…!」
    「いつもの僕って何?」
     レオンが鼻で笑う。プリシスは目の前が暗くなった。ここにいるレオンは誰。
    「憎まれ口を叩いてる僕?文句言いながらいつもプリシスの課題を手伝ってた僕?それともアシュトンお兄ちゃんとのことをずっと応援してた僕?」
     レオンはプリシスの腰に手を当てる。プリシスは身震いした。
    「ずっと、ずっと我慢してた。プリシスの隣にいるためだけに。いつか機会があったら、その時にかっ攫えばいいだけだって自分に言い聞かせてた。でもだめだったね、もう待てなくなっちゃったよ」
    「レ、オ」
     押し返そうとするプリシスの両手首を掴み、頭の上に上げて固定する。レオンは再びプリシスの口を塞いだ。
    「んぅ………っ!はぁっ、レオン…!」
     なにこれ。逃げても、逃げても、レオンの舌がプリシスの口内を追いかけて欲しがり続ける。こんなの知らない。こんな荒々しいキスはアシュトンにされたことがない。唇から全身で愛を注がれている。意識が朦朧としてきて、ふわふわと宙に浮かんでいるようだった。レオンがプリシスの唇周りについた唾液を優しく舐め取る。プリシスの腰が砕けて足から崩れ落ちそうになる。ガクガクする腰をレオンが再びプリシスの口に侵入しながら支える。レオンの荒い息がプリシスの鼻にかかる。レオンの腰を支える手が太腿の方へ伸びる。
     あたしは。あたしの気持ちは……

     ………♪♫♫♪♬♪…………

     静かな部屋に単音のメロディが響き渡る。二人は同時に我に返り唇を離した。
     机の上から一瞬だけ聞こえた。さっきまで、指で弄っていた木製の、二人の思い出の印。
     
     ぁしゅとん
     あしゅとん
     アシュトン

    「……………ごめん、ごめんねぇ、レオン」
     気持ちに気づけなくて。今まで甘えてばかりで。たくさん傷つけて。
     罪悪感でプリシスの目から涙があふれる。
    「あたし、レオンが大好き。でもね、やっぱ、やっぱりだめ………」
     胸元のポケットから端末を取り出し、少し操作すると、プリシスの姿は消えた。


     アシュトンは宿屋で一人読書をしていた。一段落読み終わったところで、そろそろ休もうと寝る体勢に入った時、服の中に入っている端末が突然反応した。ホログラフィーの後にプリシスの実体がゆっくり現れた。
    「プリシス…?こんな時間にどうしたの?今日は会う予定は───」
     アシュトンはプリシスの姿を見て目を見開いた。薄汚れた格好のまま、目が真っ赤になっていて涙を拭った跡がある。
    「…………どうしたのプリシス」
     プリシスは問に答えず、無言でアシュトンを押し倒した。馬乗りになり、髪の毛をまとめていたゴムを外し頭を軽く振り、トレードマークのポニーテールから無造作なロングヘアに変わる。
    「アシュトン……あたしのこと好き?」
    「?うん、もちろん大好きだよ。当たり前じゃない」
     アシュトンは柔らかい笑顔でプリシスの頬を撫でた。
    「……………お願いアシュトン。今すぐして……お願い……」
     プリシスがキスをする。軽く触れる程度から、段々と舌を入れていく。最初は驚くばかりのアシュトンだったが、受け入れてからは身体を起こし、プリシスを仰向けに寝かせた。自然とプリシスがアシュトンの首に両手を回す。アシュトンは彼女の身体にゆっくり沈んでいった。
     薄れていく意識の中、プリシスは自己嫌悪の波に飲まれながら、置いていったレオンのことを思った。

     どんなに周りが讃えても 君の一番じゃなきゃ意味がない
     レオンはまだ立ち尽くしたまま動けずにいた。
     
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