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    いなーさ

    @ottonounkohunda

    すたおのSS保管置き場です

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    いなーさ

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    ディアプリ?(プリ→ディ)

     人工惑星の一角、雪が舞い落ちる静かな街で、仲間たちは白い地面に足跡を増やし続けていた。騒がしいことだ、と他人事に思いながら、ディアスは空を見上げつつ、心のどこかで昔を思い出していた。
     かくれんぼ。レナやセシルが幼い頃、よく付き合ってやったものだった。自分が鬼役になることが多く、たっぷり隠れる時間を与えておいたのに、いざ探し始めると、セシルが目の前の布を頭から被った状態で立っていたりして、対応に困ったことがあったのを覚えている。まだまだ、未来などわからなかった、平和な頃の話だ。
    「ひゃ〜〜〜っ、どうしよお~」
     素っ頓狂な声で現実に戻される。逃げ役のプリシスが勢いよく目の前を通り過ぎ、その後を小さい鉄の塊が焦るような様子でついて行った。ディアスが目だけでそれらを追っていると、街の入口の水場をひたすらぐるぐる回り続けている。と思ったら突然立ち止まり、辺りを見回すと、その水場に足をかけた。
    「んしょ……っと、この中はどーかな…」
    「おい」
     ディアスはびしょ濡れになる前にプリシスを引き戻そうとしたが、半分間に合わなかった。両足は完全に濡れてしまい、水浸しの靴からポタポタ滴が垂れ、ディアスの足元まで濡らした。
    「遊びでそこまでする愚か者がいるか……?」
    「ほぇ? ディアスじゃん」
    「余計な心配を他の奴らにかけるな、来い」
     ディアスは半ば呆れつつ、プリシスを宿屋まで引きずって歩いた。



    「あ~冷たかった〜。でも早く隠れなきゃね」
     宿屋の暖炉前を陣取り、プリシスはしゃがんで暖炉に手を当て、呑気なことを言っている。ディアスはその隣で、しかめっ面で腕組みをしていた。
    「下らんな……。戦い以外で死に急ぐ真似など理解できん」
    「何言ってんのさ、遊びだって本気でやらなきゃ、一緒に遊んでるレナにも失礼じゃん」
     はじめレナも嫌がった反応をしていただろうに、とディアスは思ったが、面倒なので黙っていた。
    「ディアスも今から入れたげてもいいよ〜」
    「………お前、俺が入りたそうに見えるなら、どうかしているぞ」
     プリシスは、両手だけ暖炉に向けたまま、ディアスの方を向いてにかっと笑った。
    「別に、かくれんぼじゃなくてもさ、いいんだ。あたしがバカなことして、レナやセリーヌや、みんながエクスペルのことで落ち込む時間を、ちょっとでもさ、少なくできたらな〜って、思ったんだ」

    “───────エクスペルは、もう……”

     セントラルシティでナール市長から、衝撃の事実を聞かされた直後の、この街の立ち寄りだったから。
    「…………。それは、お前も一緒だろう」
    「………あたしはへーきだよ、だってあんな親父だもん」
     一瞬、笑みに陰りが見えたのは、きっとディアスの気のせいではないだろう。
     きっと、ここにいたのがクロードであれば、自分よりもずっと気の利いたことが言えるのだろうに、と思うが。ディアスは口を開く。
    「強がりは身を滅ぼすぞ」
    「…………だって、暗いあたしなんてお呼びじゃないじゃん」
     プリシスは手を引っ込めて、座っている身体を更に小さく縮こまらせた。口元を両膝の中に沈める。
    「俺はわからんが、明るかろうが暗かろうが、ありのままをお前らは今まで見せ合ってきたんじゃないのか?」
     ディアスは無造作に毛布をプリシスの方に投げた。プリシスが縮こまったのは、寒気が来たのだろうと察してくれたのだとプリシスは思った。些細な優しさが、今のプリシスには沁みた。視界が涙のせいで少しだけぼやける。グラフトの煤まみれの顔が浮かぶ。
     パパ。小さく呟く。とほぼ同時に、宿屋のドアが開く音がした。ディアスが扉の方を向いたのがわかった。
    「──あっディアス、プリシスを見なかった?」
     レナがディアスに向かって歩いてくる音がする。
     まずい。動けない。プリシスが固まる。何もかも見られたくない姿だらけだ。無人くんはどこに行ったんだろう。一瞬のうちに思考を巡らす。
     硬くなった背中に、後ろに距離を詰めたディアスの脚が触れた。
     レナに見つからないよう、ディアスの長身がプリシスの小さい身体を隠してくれていた。レナがよく目を凝らさなければ、濡れた荷物を拭いている毛布の固まりにしか思われないように。
    「……さあな」
     触れている部分から、じんわりと人の温もりを感じる。固さがそこから少しずつ解れていく気がした。
     一瞬だけ、ちらりと二人が話している方を向く。長年の幼馴染だけに、二人の距離は近い。クロードが妬くのも無理はないなと思う。
     レナがディアスの服の袖を摘んでいるのが見えて。ちく、と針が刺すような痛みを、胸の辺りに感じる。
    「大学の方へ行ったように見えたが、人違いかもしれん」
    「そうなの……。無人くんがここの前でぐるぐるしてたから、この辺かしらと思ったんだけど。もうちょっと探してみるわ、ありがとう」
     踵を返し、再び宿屋のドアが開く音がした。完全に気配がなくなってから、プリシスは毛布から飛び出しぷはーっと大きく息を吐いた。
    「さんきゅ〜ディアス、助かったよぉ」
    「……乾いたのか」
    「ん、おかげでね〜」
     立ち上がって、仁王立ちでピースサインをする。やれやれ、といった様子で、ディアスは足の埃を軽く払った。宿屋のドアに手をかける。
    「あれ、どっか用事?」
    「あいつの顔が赤かった、ずっと外でお前を探し回っていたんだろう。風邪をひく前にそろそろ答え合わせをしてやれ」
     もう少し後でいい、と言い残して、ディアスは外へと出て行った。それと引き換えのように、無人くんが部屋の中に入ってくる。
    「……………」
     ディアスが仲間になる前に、レナが教えてくれた。
     マーズの村で久しぶりに再会して、事件が解決した途端に去ってしまった時、セリーヌが言っていたらしい。
    “あの人ぶっきらぼうのくせに目立つから”
     なぜか今思い出して。思わず口をついて出た言葉。
    「……レナはいいなぁ」
     呆けた顔のプリシスを、無人くんは不思議そうに見つめていた。
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