合理的解決法《アンチを信者へ》ロナルドを妬む、同じ退治人業の男が事務所へ乗り込んでくる。
ロナルドは退治で不在だったが、男はドラルクに怒りをぶつけた。
ドラルクの存在は偶然だ、と男は言う。
ドラルクのお陰で退治人ロナルドの名と本は更に売れた
奴の人気はただの偶然によって得ただけのマヤカシにすぎないと。
違う、とドラルクは否定する。
「偶然なんかであるものか。あの子が努力し、実力で名声を勝ち得たからこそ、真祖で無敵たる私の元へ送り込まれたのだ。彼ならば成し遂げるはずだと期待されてね」
あの顔、体格……持たざるヤツの気持ちなんかアイツには解らない。
努力だけでは得られないものがあることなんて。
男の怒りは収まらない。
「ああ、解らないだろうね。持ってしまった者の心情を貴君が理解出来ないように」
「兄妹と似た容姿を、あの子は小さな誇りにしている。優れた容姿のお陰で容易に得たものも多いだろう。しかしその容姿で随分苦労してもいるんだ。今のように見知らぬ相手から妬まれたり、な」
「その上、竜の一族からの寵愛を得るというのは──…… 貴君の想像を遥かに超える重圧だ。古き血を引く私のような吸血鬼の執着は、生半可なものではない。可哀想に、あの子はもはや人としての死を選べないのだよ。選ばせる気がないのだから。他の誰でもない、この私が」
そこに居たのは紛れもない“捕食者”だった。
男は気圧され、言葉を失う。
「これ以上彼を貶すのならば此方にも考えがある──どうだい、まだ続けるかね」
男は怯え、首を横に振る。
「結構。懸命な判断だ。引き際を見極めることも重要さ。きっと良い退治人になれただろうに……実に残念でならない」
男の目の前で蝋燭の火が揺らめく。
意識はそこで途切れた。
◆
「あの……大丈夫、ですか?」
声を掛けられ、男は目を覚ました。
目の前には、心配そうな顔をした銀髪の青年がいる。
辺りを見渡す。薄暗い、雑居ビルの中らしき通路。
気を失い、転がっていたようだ。
自分は一体ここで何をしていたのだろう。
「ここ、俺の事務所なんです。少し休んでいってください」
優しそうな青年が体を支え、事務所の中へと案内してくれた。
「おかえり。ロナルドくん ……おや、其方は?」
事務所の中には古めかしい格好の吸血鬼がいた。
肩にアルマジロを乗せたまま“ロナルド”という青年を迎えた。
「この人、事務所の前で倒れてて」
「へえ。事務所の前で。ゲームに夢中で気付かなかったな。まさか人が倒れていたなんてね」
吸血鬼の顔を見ると、不思議と頭が痛む。
青年からいくつか質問を受けたが、記憶は曖昧で、自分の名前すら思い出せない始末だった。
「いやはや、記憶喪失とは。これは大変だ。ロナルドくん、吸対に連絡を」
「吸対? それより警察だろ」
「ああ……まあ、でも。この街じゃ大抵のことは吸血鬼絡みだろう」
ロナルドを眺め、優しい、良い人だなと男はぼんやりと思う。
一方で自分に対し嫌な笑みを向ける吸血鬼には嫌悪感を覚えずにいられなかった。