穢れ 一丁前に中流階級がこぞって好む、エレベーター付きのマンションに引っ越したらしい。
あの水木が、あの、欲無しの男が。これらの情報源はすべて悪友ことネズミであり、直接本人から聞いたわけではない。黙って居住まいを変えるなど嫌がらせに他ならないと、急激に沸騰した頭のまま飛び出したものの、あの男との薄い関係値を考えれば至極当然かもしれない。
そもそも先に家出したのは自分だ。窮屈な家庭であった。ヒトの倫理を説こうと口うるさく干渉し、そのどれもに納得がいかず黙って姿を消した。都心の荒波にもまれ、全財産百円と共に、なし崩しで帰宅したのは十年後。水木の第一声は「いい年して俺を頼るんじゃない」だ。それから偉そうに顎を上げ、しげしげ眺めて「デカいな。腕伸ばしたら天井につくか?」感動も勘当もあったもんじゃない。
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