あなたさえいれば 会社の人たちは水木さんのことを「いい加減な男」や「でくのぼう」だと陰で揶揄しているけれど、果たしてそうだろうか。
確かに日がな一日、目まぐるしく駆け回る営業の同僚や出世欲まみれの宴席好きな上司とは違い、出社直後に自席でゆっくり一杯の緑茶を飲む姿は男らしさに欠ける。埃が溜まる隅の席で大して会話もせず、黙々と書類をまとめる姿はまさに窓際族そのもの。
かくいう私も入社当時は「目立たなくて大人しい人」くらい薄い印象で、噂好きな事務の先輩から「水木さんってあんな年寄りみたいなのに、まだお若いし独身なのよ」と聞いた時には素直に驚いた。てっきり自分よりもうんと年上だと決めつけていたからだ。彼女の「あなたなら嫁にもらってくれるんじゃない?」という言葉には水木さんへの軽い侮りが含まれていて、いわゆる退屈しのぎ程度に弄れる格好の的なのだと知った。
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