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    クッソ重い話

    🔥さんに不倫を疑われ、離縁されて、息子を育てながら、🔥さんの最後を看取る話

    生存if

    #鬼滅の夢
    DreamDemonSlayer

    7、太陽と炎が合わさる所一心不乱に刀を振る息子が私に気がついたのは、日が傾き始めた頃だった。
    随分と長い事待たされた。
    それでも、不思議と杏寿郎様と一緒に居るのは苦では無かった。

    「え母さん来てたの」
    「来てたのじゃないわよ、このお馬鹿何一つ連絡をよこしやしない帰ってくると言いながら、どれだけ待たせれば気が済むの」

    「あぁ…」

    本当に、本当に私は良く辛抱したと思う。
    一ヶ月だ。一ヶ月、息子が帰ってくるのを黙って待っていたのだぞ凄い精神力だと自分でも思う。
    普通の親なら、もっと早く発狂しながら殴り込みに来ていただろう。

    「で知りたい事は分かったのやりたい事は出来た」

    私の質問に息子は眉を下げた。どうやら、まだ駄目らしい。
    思わず溜息をこぼした。

    「なら、最後までやりきりなさい…」
    「えいいの」

    ぱっと太陽が輝いた様に笑う。可愛い私の太陽。
    縁側から顔を出す息子に近寄り、汗でへばりついた髪を撫でた。髪の毛の先まで汗でびっしょりと濡れていた。

    「“父さん”が良いと言うならね…」
    「本当ねぇ父さん俺、出来るまで居ても良い……父さんどうしたの泣いてるの身体が辛いの」

    後ろからすすり泣く声がする。
    絶対に振り返らない。これは私の意地。優しさを見せてやらない。
    これぐらい、許される。

    「母さんに“父さん”と呼ばれたのが嬉しかったんだ。大丈夫、身体は問題無い。


    もちろん構わない。好きなだけ居たら良い。ここも君の家なんだから。」
    「ありがとう」


    「君も…」
    「それは結構です」

    ぴしゃりと言い放つ。
    ちらりと杏寿郎様を見れば、眉を下げて寂しそうに笑っていた。
    そんな顔をされる筋合いは無い。もう、私達は夫婦では無いのだ。

    「ただし、必ず近況の連絡を寄越しなさい。それが条件です。」
    「分かった千寿郎おじさんに文字を習うよ」

    「そうしなさい…」

    あんなにもやんちゃで、走り回る事しか知らなかった息子が、自ら文字を習うと息巻いている。
    一ヶ月
    たった一ヶ月の間に息子の成長が見えた。


    杏寿郎様に息子の事を頼み、煉獄家を後にする。
    空を見上げれば雲ひとつ無く、沈みかけた太陽が真っ赤に染まっていた。
    まるで私の心を表すような景色だった。





    それからしばらく、手紙のやり取りが続いた。
    ミミズのような文字が少しずつ 少しずつ形を成すようになり、二ヶ月もすると随分と読める字になってきた。
    文字を覚える事だって、あんな子供が二ヶ月やそこらで覚えるのは大変だっただろうに…
    ほぼ毎回送られてくる手紙が息子の成長の記録となった。

    しかし、1週間と手紙が来ない日が続いた。
    どうしたものかと不安になった時、やっと手紙が届いたのだった。
    どんな事が書かれているのか
    どんな文字で書かれているのか
    うきうきする気持ちを抑えながら手紙を開く。
    そこには綺麗な文字が書かれてあった。
    息子からでは無い。
    これは…千寿郎様から



    『兄が死にそうです。長くありません。


    ずっと貴方の名前を呼んでいます。
    後生です。どうか、兄に会いに来てください。』



    短い手紙。
    そうか、ついに来たのか…
    杏寿郎様の最後の時が迫っている。
    本当にずるい人…
    こんな時に私の名前を呼ぶだなんて…
    憎んでいると
    許さないと言ったじゃない…
    忘れてしまえば良かったのに
    こんなにも貴方を憎む女など

    手紙をくしゃりと握る。
    そして私は家を出た。



    列車に乗り、駅から走って煉獄家に向かう。
    辺りは薄暗い。
    でも、不安は無かった。
    鬼はもういない。杏寿郎様が倒してくださったんだもの。
    だから、夜道など怖くない。
    でも、無償に怖かった。杏寿郎様が亡くなってしまう事が怖かった。大きな不安が私に襲いかかっていた。
    その不安から逃げるように走る。

    そしてやっとの思いでついた煉獄家には、挨拶も無しに無断で上がった。
    途中、廊下ですれ違ったお義父様は居るはずのない私の姿を見て驚いていた。
    でも、そんな事はどうでも良い。
    ただ、杏寿郎様の元に走った。

    髪を乱し、息を切らし、やっとの思いでついた杏寿郎様の部屋。戸を開けば、以前会った時よりも顔色を悪くし、不規則でか細い息の杏寿郎様が布団に横たわっていた。
    その隣には、不安で今にも泣きそうな息子と険しい顔つきの千寿郎様がいた。

    「母さん」
    「……義姉上…」

    息子は私にすがりついてきた。糸が切れたようにむせび泣く。

    「父さんがっ父さんが…っ」
    「うん。分かった。大丈夫。母さんが一緒に居るわ…」

    真っ黒の中に赤が交じる髪を撫でる。
    たった二ヶ月だが、背が伸びた気がする。手には豆が出来、擦り傷だらけだ。
    沢山、杏寿郎様と頑張ったのだろう。

    「義姉上…来たくださったのですね…」

    久しぶりに見た千寿郎様。随分と大きくなられた。杏寿郎様にそっくりだ。
    ただ、昔と変わらず眉を下げ、不安そうな面持ちは変わらない。

    「杏寿郎様は」

    私の問いに、千寿郎様は瞼を落とし、その頬にまつ毛の影を作った。

    「もう…今夜が最後かと…」


    「そう…」

    ふるふるとまつ毛の影が揺れる。

    「兄に声をかけてやってはくれませんか」

    千寿郎様に促され、杏寿郎様の元に行く。
    微かにだが、唇が動いている。耳をすましてみれば、私の名前を呼んでいた。
    何度も
    何度も…

    「私はここにおりますよ。」

    杏寿郎様の髪を撫でる。
    すると薄っすらと目が開いた。
    もう、眼も濁っている。

    「私はここにいます。貴方の側にいます。」

    ピクリと指先が動いた。
    その手を取って握る。
    あの大きくて暖かかった手は、今や骨張った手になりひんやりと冷たい。

    「息子を見てくださりありがとうございます。わずかな期間でこんなにも成長いたしました。貴方のおかげです。」

    それでも杏寿郎様は私の名前を呼んでいる。
    ずっとずっと
    呼んで欲しかった私の名前を
    愛した人が
    呼んでくれている

    「まだ沢山言いたい事があったのに…

    今頃、全て今頃なのよ…
    本当に、ずるい人…」


    ついには目から涙が溢れて止まらなくなった。
    死ぬ程憎かった相手が
    あんなにも恨めしかった相手が

    あれ程愛した人が
    もう死んでしまう

    分かっていた。
    最終決戦で痣を出した杏寿郎様が、もう長くないと知らされた時、こうなる日が来るのは分かっていた。
    だから、最後、私達に会いに来てくださったんだと…

    でも、最後、まさか私の名前を呼ぶだなんて…
    ずるい、ずるい、ずるい…
    私はまだ何も出来ていない
    私はまだ許せていない
    きちんと杏寿郎様と向き合えていない

    それなのに、勝手に人を呼びつけて、こんなにも人の名前を何度も呼んで…
    いつも私の気持ちを搔き乱す

    ずるい人
    本当にずるい人だ

    でも、寂しい…



    「お願い…もう、許すから…


      死なないで…」

    肩を震わせ、涙を流す。
    握った手が、またピクリと動いた。

    杏寿郎様の口の動きが止まった。
    開いた目元がへにゃりと笑った。

    私の愛した笑顔だった。





    それから程なくして、杏寿郎様は旅立った。
    お義父様、千寿郎様、息子と私、皆に見守られて、遠くに旅立っていってしまった。

    日が昇り、太陽が輝き出した頃だった。




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