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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    60
    鍾魈 現パロ軸。コーヒー飲める先生とあんまり飲めない魈くんの話。

    #鍾魈
    Zhongxiao
    ##800文字(前後)チャレンジ

    60 鍾魈コーヒーの入ったマグカップを片手に、鍾離はベランダに続く窓際に立ち、朝の訪れと共に白んでいく空と街を眺めていた。
    一五階建てのマンションから見下ろす視界の中には、昨晩降った雨で光を反射する屋根が映る。駐車場に並んだ大小様々な車も同様で、特に白色の胴体を持ったものは一粒の宝石にも見えた。
    近隣にある小学校からは、日中であればチャイムや吹奏楽の奏でる音が聴こえてくるが、今のところそれらは一切届かない。まだ眠っている箱にこれからたくさんの声が宿ることを、鍾離は密やかに楽しみにしていた。
    璃月にいた頃にも、早朝、街を見下ろせる高所から景色を眺める時間があった。
    理由として挙げられるのは、国の繁栄に翳りがないかの確認であることがほとんどだったが、凡人として生きることを決めた後には、ただ人の営みがあることを感じ取ることだけが目的だったように思う。
    導くことも、支えることも、すべて人間に委ねた日から、軽くなったのは肩だけではなく、足元も同じだったかもしれない。
    「鍾離様。もう起きていらしたのですか」
    かたり、扉が開いた音に続いて顔を見せたのは、かつては夜叉として戦闘に明け暮れた美しい少年、魈だった。
    現世で再開してから数年が経過しているが、璃月で過ごしていた頃と比べ、彼の鍾離に対する立ち振る舞いにはほとんど変化がなかったが、強いて言うなら、生活費に対するあれこれを鍾離に指摘するようになった点だろうか。
    手元にあるコーヒーも、魈が選んでくれたインスタントコーヒーだ。元は魈がコーヒーの味に慣れるために購入したものだったが、興味本位で一杯飲んでみると悪くない味だった。本格的なものとはどうしても香りや深みに差が出るものの、日頃、水代わりに飲むならばちょうどいい代物だった。
    特別な製法でつくられた豆ももちろんある。それは鍾離の書斎にある棚にストックされているが、出番となるのは鍾離に疲労がそこそこ蓄積されたときか、魈が勉学に集中するときのどちらかになっている。
    常に最高品質のものを好み選んできたが、特別なときとそうでないときの差をつけてみることに一種の喜びを見出した鍾離は、これも魈がもたらした恩恵のひとつだなと感じていた。
    「ああ。目が覚めてしまってな。……身体の方は大丈夫か?」
    「それは問題ありません。……その、とても丁寧にしていただいたので」
    「ははっ、そうか。俺からすると少し性急だったと思ったが」
    「いえ。むしろ、もっと性急でもいいくらいです」
    あまりじっくりと触られるのは落ち着きませんと頬を掻いた美しい少年を、鍾離は手招いて同じ窓際へと立たせる。
    深く艶やかな緑色の髪を撫でてから、微かに枕カバーの跡がついた頬に指を移らせていく。やわらかくふっくらとした頬はまろやかと形容するのがちょうどよく、鍾離の指先が触れると、ぽっと鮮やかな朱色を纏った。
    「まったくお前は……あまりそのようなことを言うんじゃない。大切にしたいと何度も言ってるだろう?」
    「それは鍾離様の仰る大切にする方法が、我にとってはじれったいからです」
    「その方が感じてくれるように見えるが?」
    「そっ、それは! いえ、そういう問題ではなく……!」
    唸ってみるも要望が通る見込みが立たないと思ったのか、魈はそれ以上の言及をやめて、鍾離が眺めていた窓の外へと視線を移した。納得していません、とわかりやすく描いた表情だ。そんな顔ひとつでも、鍾離の胸は喜びで弾んでしまう。
    一口啜ったコーヒーはどちらかというと薄めの味になっている。適量の粉をスプーンですくったはずだが、もっと多めに溶かしても良かったかもしれない。
    そのマグカップに、魈の手が伸びてくる。飲むか?、と首を傾げると、一口だけ、と唇は動いた。マグカップを渡すと両手で受け取った魈は、おずおずふちに口を寄せた。
    こくり、細い喉が上下する。
    「…………やはり我にはまだ苦いです」
    口元を歪めて眉根を寄せた愛らしい少年に、鍾離は吹き出すことを抑えられず、「愛いな」と頬を緩ませる。
    この程度の薄さでも苦味を強く感じてしまう舌は、果たして今後、この苦味に慣れることはあるのだろうか。本人はコーヒーをするする飲めるよう克服したい様子を見せるが、まだ時間がかかりそうだなと思うと、自然に笑みが浮かんでしまう。
    「そう焦ることはない。少しずつ慣れていけばいいからな」
    戻ってきたマグカップに視線を落とす。満たされているのは夜とチョコレートを溶かしたような色だ。それは窓から差し込む朝陽を浴びて、水面を白くさせていた。淹れたてほど熱くはないが、まだ温もりは宿っている。ゆらりと立ち上る湯気がその証拠だった。
    整った唇をもごもごさせている魈の頭をひと撫でする。あとで口直しに、冷蔵庫の杏仁豆腐を食べてもらうとしよう。おそらく一食分しか残っていないが、足りなくなったら作ればいい。材料のある場所も、レシピも、頭の中にしっかり収納されているのだ。そう時間はかかるまい。
    目を細める魈に微笑んで、コーヒーが受け止めた光ごと飲み込むように、彼が口づけたカップの場所へと、鍾離は唇を寄せるのだった。
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