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    namo_kabe_sysy

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    お題「クールビズ」
    掠っただけかもしれない……けどいちおう薄着にはなっているはず
    アル空前提、ベドくんと騎兵隊長の話。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    熱源はどこに?西風騎士団の主席錬金術師が使っている工房付近が、まるで暖炉の中で燃える炎のような熱さになっている。
    とは、同じく錬金術師を名乗るスクロースからもたらされた情報だった。騎士団本部の執務室で書類整理を淡々と行っていたガイアは、なんとかできませんかと相談してくる丸いメガネの少女に、そうだなあと呑気に返答する。
    「普段は雪山に引きこもってばかりいるし、たまには反対の環境に身を置いてみたいんじゃないか?」
    「そんな適当な理由ではないはずです!」
    アルベドのことを先生と呼ぶ至極真っ当な師弟関係――と思っているのは目の前の緑髪を揺らす少女だけだろうが――を築いている彼女がわっと喚くと、インクに浸したペン先を渋々置いて、わかったよとガイアは書類を投げた。
    「俺が様子を見てくるから。ジンには……まあ、それもこっちで報告しておく。実験があるんだろう? そっちに集中しておけよ」
    ガタリと椅子を引き、肩をぐるりと回してから、腰を折って礼をするスクロースを横目に、ガイアは騎士団本部の上層階にあるアルベドの工房へと足を運んだ。

    二枚の扉にかかったプレートには「実験中」と非常にシンプルに記されている。文字のサイズは大きすぎず、かといって控えめすぎない。しかし子供が書き写す際にはどこまでも手本になりそうな、一文字ごとがしっかり整った筆跡だった。文字は人間の性格を表すとはどこかで聞いた話だが、確かにそれなりに知っている人物と手書きの筆跡を見比べると、あながち間違いでもないのかもしれない。
    そしてその扉の前に立つと、確かにスクロースが言うようにこの一帯が全て火元素で覆われているような感覚に陥る。要するに、気候が穏やかで寒いも暑いもほぼ感じることないこのモンドにおいて、かなり珍しい高温度が、この部屋近辺を支配しているのだ。
    熱砂の国にでも行ったら味わえるだろうこの暑さの元凶は、間違いなくこの扉の向こうだろうと踏んだガイアは、額を抑えて重厚なドアをノックする。「実験中」というプレートが下がっているときは邪魔をしてはならないのだと、爆弾を抱える太陽の少女から教えられていたがそうは言っていられない。「アルベド、入るぞ」と声をかけると、数秒だけ空白を空けて、「どうぞ」という許可が下りた。
    一歩だけ足を踏み入れた室内は、廊下に立っているよりもずっと高温地帯に成り果てていた。
    この工房のみではなく、騎士団本部全体で空調は問題なく稼働している。ガイアの執務室も同じく、一定の温度が保たれるようになっている。そのおかげで寒すぎる故に手がかじかむこともないし、暑すぎて手から滲む汗により書類がへたることもない。その恩恵はこの建物内にいれば等しく与えられているはずだが――
    「そんな薄着までしてこの部屋を熱してるのは、そこのテーブルにあるものが原因か?」
    ガイアが視線を移した先には、手のひらサイズほどの袋が大量に並べられている。元素視覚を使うまでもない、その内側からは火元素の熱がしっかり視えるほど充填されている。
    「御明察だ。今度、騎士団の一部隊がドラゴンスパインに定期探索へ向かうと聞いてね。放熱瓶も用意はしたけれど、一時的ではなく、なるべく体温を下げないようなアイテムがあればいいかと思って」
    それがこれか、とじわりと流れてくる汗を拭ったガイアが手近な袋をまじまじ観察した。
    使い捨てにはなるが、この袋を血管の太い箇所にあてたりすることで血流が良くなり、寒冷地域であっても体温を維持できるようになるという。火元素は自分では扱えないため、アンバーとクレーに手伝ってもらい、袋に入っている固形の物質に元素を付着してもらったとも補足された。
    事務的に感情を乗せることもなく語るアルベドは、普段の真白いコートは羽織らず、藍色と紫色の中間にあるようなシャツ一枚で活動している。足元を覆っているブーツも姿はなく、膝上のパンツから覗くのはどこぞの赤髪をした男にも似た真白な素足だ。そしてブーツの代わりに、今はサンダルがアルベドの足を保護していた。
    「やってることはわかったが、窓を開けて換気するとか、どうにかできなかったのか? そんな格好するくらいにはアルベドも暑いと思ってるんだろ?」
    「そうだね。ただ、あまり風を入れてしまうと効果が薄まってしまうんだ。だからなるべく高温のままで製作しておきたくて。ボクは霧氷花を閉じ込めたガラス瓶で涼もうと思っていたけれど、ティマイオスに在庫を譲ったことを忘れていて」
    一つくらい残っていると思ったがそれもなく、仕方なく衣服の量を調整することにしたのだと、アルベドは襟元をぱたぱたはためかせて息をついている。珍しく抜けてるな、と揶揄ってみれば、確かにそうかもと繊細そうな唇は弧を描いていた。
    「昨晩、空と会っていたから。まだ少し、夢心地だったのかもしれない」
    「……へえ、それはまた」
    お熱いことで、とまでは言わず、ガイアはこの部屋の温度がまた一段階上がったことを肌で感じていた。
    天才と謳われる錬金術師の横顔は、火元素の宿った道具について語った時より随分と甘さが滲み出ている。本人はその表情の変化を知っているのか知らないのか。仮に知ったところで大した動揺を見せることもないだろうが、見た目相応の反応一つくらい、いつか披露してくれたら面白いのにとは思う。そうすればどこかむず痒さの残るガイアの胸の内が、さっぱりと綺麗になるかもしれない。そんな期待をしてしまう程、あまりに自然で突発的な惚気に当てられていた。
    「定着まであと二時間程だ。その頃には袋の発熱も無くなって、元の温度に戻るから」
    「それまでずっとここにいるのか?」
    「勿論。特に危険な薬品は使っていないけれど、目を離していい理由にはならないからね」
    「……体を冷やすものは?」
    「特にはないかな。一応水分はとるようにしているけど」
    言いながらビーカーの中に揺れる水を見せてくるアルベドに、「それもう絶対にお湯になってるだろ」とガイアは眉間に皺を寄せて、それから羽織っていた外套を脱ぎソファに置くと、ビーカーの前で手をかざし、一瞬だけ氷元素を煌めかせた。
    ガイアの突然の行動で目をすがめたアルベドだったが、光が落ち着いた頃にそろりとビーカーの中を覗くと、ただぬるいだけだった水の中に数個の氷が浮かんでいることに気がついたようで、「これは」と翡翠を見開いた。
    「あと二時間だな。それなら俺もちょっと長めの休憩ってことにしておけるか」
    「ガイア」
    「ま、お咎めがあったらお前がフォローしてくれよ。こんな馬鹿みたいに暑い部屋で倒れずに済んだのは俺のおかげだってな」
    アルベドはしばらく何ごとかを紡ごうとして、やめたようだった。短く頷いてから、もう一つ水の入ったビーカーを差し出してくる。
    「これはキミの分で使ってくれ。あと、もう少し身軽な格好になった方が涼しいと思うよ」
    サラリと届けられるアドバイスと共にビーカーを受け取ったガイアは、再び元素の力を使って氷を生み出し、からからと笑った。
    「そうだな、それじゃ、二時間だけは俺も軽装で過ごさせてもらうか」
    アルベドのものとは違い、球体の氷が一つ入ったビーカーを傾けて喉を潤したあと。ガイアはふくらはぎを覆うブーツに手を伸ばし、するりと足先から引き抜くのだった。
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