ほろ酔い気分の恋人と二人ベッドの上、眠るには些か早い時間帯で、明日は休日。とくればすることは絞られてくる。
隣に座った恋人ーーユージオの俯きがちな顔をのぞきこむようにして、唇をぴたりと合わせた。何度か軽く啄むように繰り返せば、小さく口が開いておずおずと舌がのびてくる。生暖かいそれをひっぱり出して、然程力をいれないようにして噛めば、合わせた唇の隙間から甘ったるい声が聞こえた。
口を離せばつ、と唾液が二人の唇の間で線をひいて、ぷつんと切れた。はふはふと覚束ない呼吸をする相手に顔をよせ、可愛らしい鼻先にキスを贈る。
丁度いい具合にユージオの体から力が抜けたところで、ゆっくり体重をかけ、シーツの上に押し倒そうとした。けれど、ベッドに傾きつつあった体はぐいぐいとユージオに胸を押し返される。あの体勢から起き上がるとは流石の腹筋だ。キリトは変なところで感心した。
「まって、ちょっと待ってキリト! お願いがあるんだ!」
「え、なに?」
「……今日は、僕が上やりたい」
ユージオの発言に、ああ、ついにこの時がきたかとキリトは深く目を瞑る。
はじめて肌を重ねてから、一度もポジションが変更されることはなく、ここまできてしまった。そこにユージオが不満を覚えている様子はないように見えたけれど、いつかは、僕もキリトを抱きたいと切り出されることがあるかもしれないと考えていたのだ。
そして、そのいつかは今日だったのだろう。
「分かった」
「いいの!?」
「当たり前だろ。惚れた相手に頼られて嬉しくないやつはいない」
「ほ、惚れた相手って……」
「今更そこで照れないでくれよ。俺が情けなくなる」
これからは、もっと積極的に愛情をアピールした方がいいのだろうか。語尾に愛してるよと付けるとか。おはよう今日も愛してるよ、おやすみ明日も愛してるよ……。実際に言ってみた方が早いな。
「愛してるよ、ユージオ。だから、俺がおまえにされて嫌なことなんか一つもない」
◇
「大丈夫。準備はしてきたから」
準備ってなんだろう。心の準備?
そうからかおうとしたが、ユージオの真剣な表情を見てキリトは口をつぐんだ。安易にちょっかいを出せる雰囲気ではない。
どうせ今夜の全ては既にユージオに預けきったので、キリトは黙って体から力をぬくことにした。
ユージオが服の裾を捲し上げ、ぱさりと自らの寝衣を脱ぎ捨てていくのを、キリトは仰向けの姿勢で見上げる。
流石のキリトも、自分の初体験が掛かっていては完全にリラックスできるはずがない。正直、どういう体勢でいるべきなのか正解がわからなかった。
これは、このまま彼に脱がしてもらえるという解釈で良いのだろうか。まじまじと見つめすぎていたせいで、ユージオと視線が合う。
「あんまり見ないでよ……」
ユージオは、軽く頬を染めて恥じらった。
「そりゃ見るだろ」
対してキリトは、恥じらいのはの字も見せずに堂々と言い切った。
恋人が自分の上でストリップ始めたら見るだろ普通、というのがキリトの主張である。
噛み締めたように赤く蠱惑的な唇を尖らせて「キリト……」とこちらをじとりと睨むユージオの姿は、大変可愛らしい。
そんなに可愛くて、俺のこと抱けるのかなとキリトは思う。
ユージオは、キリトの視線が自分から外れないので、咳払いを一つしてからお願いをすることにした。
「少しの間、目を閉じてほしいんだけど」
◇
「だって僕こっちのが向いてると思うし」