フレバソスif① 出会い女ってのはなんて面倒くさいんだろう。わざと相手に聞こえるようにため息を吐いた。
「俺に不満があるなら別れればいい。」
違うそう言う意味じゃないと騒いでいるが、興奮した高い声が頭に響いて耳障りだ。
「付き合う時に言ってあるだろ?お互い面倒になったら別れるって、あんたもそれに了承した、だから付き合っていた。」
物分かりのいい女だと思っていたが勘違いだったみたいだ。特に不満も無かったんだがこんなに面倒な女だったとは誤算だった。
「今までありがとう。お別れだ。」
話しは終わったと伝票を掴んで席を立つ。私はこんなに貴方を愛してるのにと叫んでいるがよくこんな公共の場で恥ずかしげもなく騒げるものだ、お店の人にも迷惑だろう。迷惑料も兼ねてレジに多めにチップを置いて、振り返ることなく店を出る。結構気に入っていた店だったが当分来れないなと何度目か分からないため息を溢した。挽きたての珈琲が飲めないのは惜しい、もう少し味わっておくんだった。そもそもデート場所に使うべきではなかった。
貴方のお気に入りのお店を教えてとか言うから連れていったのに身にも成らないどうでもいい話と要求ばかり、あげくに新しい海兵さんがカッコよくて素敵だった、とても親切だったとか、淹れたての珈琲に手をつけることなくずっと喋っているからそんなにそいつがいいならそいつと付き合えばいいと言えば怒りだすのだから意味が分からない。
父様に女性には優しくするんだぞと言われたので特に断る理由がなければ付き合うし、自分なりに大切にしてきたつもりだ。
10年以上前にフレバンスの国民のほぼ全員が発病した珀鉛病の原因を突き止め治療法を見つけた、フレバンスでは知らない者はいないトラファルガー医院に勤務して、見た目も特別悪いわけでもない。そもそも優しい男がいいのなら自分と付き合わなければいいのだ。
犬に噛まれたと思って早く忘れよう。
(…優しい海兵さん、ね…)
おまけに笑顔も可愛いらしい、優しくてカッコいい海兵さんとやらがどんな男なのか少し興味が沸いた。医院兼自宅にある自室に戻りデスクの引き出しを漁る。
確か数日前に海軍からの健康診断の要請書がきていた筈だ。リストに上がった海兵の名前をみていくがそう言えば名前を聞いてなかったことに気がついた。
(まァ、俺も行くからいいか…)
正直海軍の健康診断はあまり好きではない。
体格のいい海兵達に言わせると華奢で美人な自分は是非とも一夜をお願いしたい相手になるらしく、毎回と言っていいほど誰かしらに声を掛けられるし、舐め回すような不快な視線を感じる。「男同士もいいもんだぜ、センセ…」耳元に囁かれた言葉を思い出すだけでも鳥肌が立つ。セクハラ紛いな台詞を吐いた、図体だけがでかい海軍大佐と名乗っていた男はその場でブーツのヒールで踏みつけてやった。それだけで顔を真っ赤にしていたんだからアレは最高に面白かった。
背が高くて、ブロンドで癖っ毛の笑顔が可愛い海兵さんを診たらすぐ帰ろう。
その時の俺はあんなことになるなんて思ってもいなかった。