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    kabeuchinaaan

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    kabeuchinaaan

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    チャレ!&主ライwebオンリーのサンプルです!

    #pkmn腐
    Pokémon Red
    #レグリ
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    おいしいひととき【ミルクティー】

    (なんか、帰りたい)
     
     しとしとと、雨の音が微かに聞こえる薄暗い部屋で、レッドはふと思った。

     ◆

     パラパラと雨が降る中、出来上がったばかりの水たまりの端を踏みながら走る。日が落ちてから肌寒くなったくらいだった気温が、雨が降ったことによりさらに下がった気がする。レインコートで雨をしのいでいるとはいえ、水がにじんだスニーカーのせいでつま先は感覚が鈍い気がするし、手先はかじかむほど冷えていた。
     この地方に足を踏み入れてから、もう数週間経つ。最初に訪れた大きな街から始めて、各地の街を一月ほどかけてあらかた散策した。そろそろ街を出て山際の方へ足を伸ばしてみようと思った矢先の、この天気だった。街で覚えたてのこの辺り一帯の地図を懸命に思い出しながら、雨に降られるなんてついていない、と内心で愚痴る。
     やっとの思いでポケモンセンターにたどり着いた時には小雨だった空は本降りになっていた。急いでセンターの軒先へ入り込み、レインコートと帽子をはぎとる。びしょぬれのそれをバサバサと振ってあらかた水気をきり、リュックのサイドポケットからビニール袋を取り出す。それにレインコートと帽子を乱暴に突っ込んで口を結び、ついでにフェイスタオルも引っ張り出してガシガシと頭を拭いた。靴の水気もどうにかしようかと悩んだが、軒先にも雨風が吹き込んできたので、これ以上ぬれねずみになる前にセンター内に入った。
     センター内は風が吹き込まないというだけでとても暖かく感じる。ジョーイさんに迎え入れられながらトレーナーカードを提示して空き部屋がないかと受付に問い合わせている間に、自動販売機で温かいミルクティーを買う。冷えた指先で掴んだそれは少し熱いくらいで、熱さで少し指先がむずむずとかゆくなる気がした。手のひらで缶をコロコロと遊んで自分の名前が呼ばれるのを待つ。
     センターの待合は閑散としていた。外は雨、加えてまもなく夜も深くなりかけている時間なのだから皆部屋に入っているのだろう。受付のジョーイさんと、同じように雨に降られた様子のトレーナーが二人程いるだけだ。なんとなく周りを見渡す。やっと一息つけた、と天井から吊られたテレビをとぼうっと眺める。
     
     __……地方側では雲が広がりやすく、所々で雨が降るでしょう……。
     
     雨雲を表すいびなつ白と水色の塊が地図の上をカクカクと動く様を、アナウンサーの女性が指さして低気圧がどうとか、前線がどうとかをよどみなく話していく。画面がぱっと切り替わって、明日の天気です、と続いたところで自分が今いる地域に雨のマークと一〇〇パーセントの文字がピコピコ動いているのを見て、思わず肩を落とした。



    【ビールと果実酒】

    「多分、すごく、めっちゃむかついてたんだと思う」

     アルコールを含んだ言葉は呂律が回っていない、たどたどしいとした口調だった。

     ◆

     グリーンが二十歳になった。

     十年ほど前に各地のジムを制覇し、トントン拍子でチャンピオンの地位まで登り詰めた少年が、今ではすっかり大人になった。丸みを帯びていた輪郭は引き締まり、身体の節々は骨張って体格もしっかりしている。声変わりと同時にニョキニョキと伸びた身長はワタルの身長に僅か及ばなかったものの、高身長のうちに入るのだろう。筋肉をもう少し付けたい、と愚痴っぽくボヤいていた長い手足は一、二年前から始めていたトレーニングのメニューのおかげか、程よく筋肉が付いている。
     態度ばかり大きかった少年はその苛烈だった性格もある程度なりを潜め、今ではリーグの若手を引っ張ってくれる頼もしい同僚だ。メディアの前でも変に見繕うことなくふんぞり返っている割にとっつきやすいキャラクターと、目を引くビジュアルもあいまってちょっとしたセキエイリーグの広告塔のようなものにもなっている。
    「まあ、仕方ないよな。オレめちゃくちゃイケメンだし……」
     なんてったってワタルより若いし……、と神妙な顔で戯言を言う彼の後頭部を何回ひっぱたいたかわからない。その度にギャンギャンと噛みついてくるグリーンは、それでも水分丸くなったものだと思う。
     最初に顔を合わせた時はそれはもうクッソ生意気で、しかもその尊大な態度に見劣りしない実力を持っていたものだから大変手を焼いた。そのあとに訪れた彼の幼馴染も含めてだが、とんでもない世代だったと思う。少ない経験を補うだけのセンスと知識と、そして少しの運。あの勝負を決した要因が果たして何だったのかは知る由はないが、ワタル自身あのバトルに焚きつけられた節がある。それほどにたくさんの人間の記憶に残るバトルであった。
     そしてそのチャンピオン戦のすぐ後、彼の幼馴染は忽然と姿を消した。チャンピオンが一年も経たぬうちに失踪するなど、前代未聞の出来事にセキエイリーグは騒然とした。その混乱のせいで一、二年の間にワタルも慌ただしくしていたが、グリーンもそれは同じであった。チャンピオンの席には戻らず不祥事のあったジムのリーダーに就任という難しい立ち位置で仕事をこなしながら、口にはしないものの所在のわからない幼馴染を探すグリーンは見るからに調子を落としていった。幼い子供が憔悴していく様子を見ていられなくなり、姿を見るたびに世話を焼く内になんだかんだと付き合いは長くなった。



    【インスタントラーメン】

    「……はら、へった」

     汗がべたついた肌をシャワーで軽く流し終えたレッドは浴室を出る。寝室に向かうと、ダラダラとシーツに転がるグリーンがボソ、と枕に顔を突っ込んだまま何かを言った。

     ◆

      久しぶりに、一日一緒に過ごせる時間が取れた。
     この時ジムは定休日だ。しかも、二日間。この連休で特別こなさなければならない用事はなく、のんびりとした時間に起きる予定だった。
     その緩やかに過ごすはずだった休日は、まだ空が白くなる前の時間にけたたましい着信の音で消え失せた。覚醒していない頭で通話のボタンを押し、しばしの沈黙のうちに聞こえた声を認識した途端にゆっくりとした休日の予定は強制終了された。
    「今から行ってもいい?」
    「……は……?なに……?」
    「あと三十分でつくから」
     そう言って一方的に切られた着信からきっかり三十分後、時刻にして六時半。休日の朝にふさわしくないチャイムの音がグリーンの部屋に響いたのは、二度寝を決め来ようと瞼をふせて、やっと意識が落ち始めた頃の出来事だった。
     休日の、しかも早朝。決して歓迎されない時間にその不届き者は愚直にチャイムを鳴らした。何回か鳴るチャイムに無理やり意識を引き起こされたグリーンはのろのろと体を起こす。開いた扉の前に立つレッドを目にしたグリーンは舌打ち一つして、黙ってレッドを家の中に入れるだけ入れて、正真正銘の二度目に突入した。
     そして数十分後、やっとのこと覚醒したグリーンは部屋の隅に投げられた帽子とバックパックとソファに丸まる幼馴染を見てとらえる。少し眉にしわを寄せながら黄色い相棒を抱えて寝入る奴を、じろりと睨みつけた。
     グリーンの休日の朝を邪魔した不届き物に恨みを思いっきり込めて、丸い頭を思い力いっぱい叩いた。突然襲われた痛みに呻き声と文句をうにゃうにゃ言うレッドを無視して、グリーンは洗面所へ向かった。

     こうして始まった両手で数えるほどしかない二人きりの休日。
     かと言って特別するようなことも思いつかない。どこか遠くへ出かけるということも無く、いつものようにジムで何戦かバトルをした。それから外で軽く昼ごはんを食べてからグリーンの一人住まいのアパートでゆっくりと過ごした。
     二人だと少し狭いソファに並んで座り、グリーンとレッドは映画を見ていた。何年か前に流行ったミステリー映画をグリーンは黙々と見ていた。それとは裏腹に、数分で映画に飽きたレッドは、グリーンにもたれかかって昼寝をしたり、ポケモンを出して戯れたりしていた。時折グリーンの手を弄って遊びながら「今どんなシーン?」と興味もないのに聞いたりしてグリーンに鬱陶しがられながら、緩やかな昼下がりを過ごした。
     映画も終わりに差し掛かる頃、戯れるだけだったレッドの指先がソワソワと落着きのない動きになったことにグリーンは気が付いてしまった。
     レッドの方を見やるとグリーンの手を熱心に握ったり指の股を指でなぞったりしている。そのうちにレッドの視線はグリーンに向けられた。何かをうかがうような視線と落ち着きなさを、グリーンは間違うことなく、何ともこっはずかしい心持ちで、正しく察した。
     そんなグリーンが、眼前に迫るレッドの顔を避けなかったことは言うまでもない。


    【親子丼と魚のフライ】

    (でっけーくち)

     暖かい食事を取ったことで少し赤らんだレッドの頬がもごもごと動くのを、グリーンはボーッと眺めていた。

     ◆

     件の、とある霊峰でのレッドと後輩のバトルの後。レッドはしばしばシロガネ山を降りては、他地方へ足を延ばすことが多かった。
     けれども時折、外の世界へ行くことなく、突然グリーンを呼び出すことがある。

     長い失踪の後、突然レッドがグリーンの目の前に姿を現した時はちょっとした騒ぎだった
     ここ一年程でグリーンとよく顔を合わせるようになった後輩のヒビキが、シロガネ山に上ると宣言したまま数日帰らず、心配になったグリーンがそろそろ連絡を取るなり探しに行くかと思案した頃だった。薄汚れた恰好をしたヒビキにぐいぐいと腕を引っ張られながら、無理やり山から降ろされたのは困り果てた顔のレッドだった。
     何がきっかけかはもう覚えていないが、グリーンはレッドの話をヒビキにした事がある。元チャンピオンという立場のレッドに興味を持ち、嬉々としてグリーンの話を聞いていた。それからはことあるごとに話を聞きに来たと思えば、マサラにまで足を運んでいた。いつのまにか姉のナナミやレッドの母親とも交流があると言うのだから驚いたものだ。そうやってレッドの話をしているうちに、色んな人に心配をかけているのだから、もし顔を見たらとっちめてやる!なんて二人で馬鹿話をした事もあった。
     そんな後輩が幼馴染を引きずってやってきたのだ。数年ぶりに現れたレッドを目の前にして、グリーンの中には戸惑いや怒りやらの感情と少しの安堵感がごちゃまぜになって思考がフリーズした。
     しかしヒビキがさながら〝とってこい〟をやり遂げたガーディのようにしっぽぶんぶんとを振りながら「さあ、やっちゃってください!」と言わんばかりにレッドをグリーンの前に突き出すものだから。そのいじらしい後輩の姿に困惑よりも先に笑いがこみあげてしまった。そして突然笑いだした幼馴染に困惑するレッドを尻目に、グリーンはいつか申告した通りレッドの横っ面を思いっきりひっぱたいたのだった。
     その騒動を境に、レッドはグリーンの前に姿を表すようになった。規則性は全くなく、今日のように電話で呼び出されることもあれば、何の連絡もなくトキワジムで出待ちをされることもあった。何度も訪れるためだんだんとジムトレーナー達もレッドの顔を覚えていき、最近ではジムの中でジムトレーナーとだべりながら待ってるなんて事も増えた。緊急の要件があるのならばともかく、仕事中に乗り込まれるのはさすがに鬱陶しい。他の人の所にも突然押しかけているのかと思い、周りに迷惑をかけていないかと心配になったが、今のところグリーンの所にだけ押しかけているらしい。
     最初のころは何の用があるのかと訝っていたが、何度理由を聞いても、
    「用事……?」
     キョトンとしながらそう言って、再度考え込んだのちの結果。
     「……いや……特にないな……」と本当に何も考えていない顔でのたまうので真面目に考えるのも馬鹿らしくなり、結局好きにさせることにした。
    [#改段]


     ◆

     そして今日も突然連絡をよこしたと思えば、下山をするから麓のポケモンセンターへ迎えに来いと言い出した。一方的に切られた電話に腹を立てながらレッドの元へ向かうと、顔を合わせて開口一番「おなかすいた」とのたまった。それと同時に畳みかけるようにレッドの腹からぐう、と情けない音がグリーンの耳に届いた。自分勝手な呼び出しに文句の一つや二つ言ってやろうと思ったが、その間抜けな音に、憤っていた気持ちがしおしおと萎んでいってしまった。すっかり気が削がれてしまい、出損ねた文句と引き換えに大きなため息がこぼれた。
     そうしてひもじい顔をしたレッドを伴ってトキワシティの外れにある小さな定食屋へ入ったのだった。


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