「(さてどうするか)」
私は脳内で戦略を練る。陛下からバトンを受け継いだフームはいささか緊張していた。前回登板で打ち込まれてしまったから致し方ない。しかし、それが本来の実力でもないことは皆が知っている。幸いにもクリーンナップは陛下がきっちりと抑え、下位打線に入っていた。油断は禁物、だがあまりにも慎重になり過ぎては後々フーム自身が苦しくなる。フームに対してバッターが苦手としている球を要求する。彼女は頷いた。
「くそっ!!」
「(まずは一人)」
空振り三振でアウトカウントが一つ増える。フームは大きく深呼吸した。まだ彼女は本調子でない。前回はツーアウト取ったものの、あともう一つが取れなかった。伏兵に一発を浴び、ストライクが入らなくなり四球で塁に出してしまう。悪循環から自分のリズムが崩れ、逆転を許した。普段フームは球威で押し切る陛下と違いコントロールで相手打者を翻弄している。まだ双方とも点が取れていない局面、そして前回登板で打たれた中継ぎ、フームの周りに野手が集まった。
「……フーム」
「メタナイト卿?」
「たまには陛下を真似してはどうだ?」
「え? ちょっ……メタナイト卿!?」
「ねーちゃん、ちょっとぐらいオレらがなんとかするって」
「ブンまで……」
フームは守っている者の顔を、そしてベンチにふんぞり返っているデデデの姿を確認した。魔獣のときのように大抵意見が分かれる二人だが、野球に関してはどちらも正しいものだ。
「みんな、後ろは頼んだわよ!」
「どんな球が来ても受け止める」
「デデデより酷くなるかもね」
「それは困った」
最後に軽口を交わし、各々持ち場に戻った。フームの表情は晴れやかだ。サインを交換し、彼女は振りかぶる。バッターが動揺したのが分かった。フームを研究しているであろう者ほど動揺する投球フォームは、どちらかと言えば陛下のものに近い。力強く大胆に。大きく外れてしまったがなんとか受け止めた。
「(さぁ来い)」
どんな球が来ても受け止める。それが捕手の務めだ。