『人形』
「…………」
フームは水面に佇んでいた。頭上には赤く染まった月が顔を覗かせる。彼女は海に沈む訳でもなく、かといって陸地に戻るわけでもなく、ただただその場に立ち尽くす。比較的喜怒哀楽が分かりやすい彼女には珍しく感情が一切見当たらない。精巧に造られた人形のようだ。
「フーム、身体を冷やす前に戻るんだ」
メタナイトはフームに声をかける。その声は優しかった。彼女は月に背を向け、メタナイトと向き合った。両手を広げ、微笑みかける。
「……わたしが消えたところで、何が変わるの?」
「…………」
「ここで消えたとしても、世界はきっといつものように進んでいく」
彼女は歌うように告げる。メタナイトは思わず息を飲んだ。月明かりに照らされる彼女は幻想的で、まるで赤く染った月に飲み込まれるのではないかという錯覚を覚えた。目元の雫も赤く染め上げられる。メタナイトは思わず彼女の手を掴んだ。
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