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    智美。

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    智美。

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    フームと卿だったり大人組だったり。本編の数年後、かもしれない。誰だお前ら

    #アニカビ
    anikavi

    『人形』
    「…………」
     フームは水面に佇んでいた。頭上には赤く染まった月が顔を覗かせる。彼女は海に沈む訳でもなく、かといって陸地に戻るわけでもなく、ただただその場に立ち尽くす。比較的喜怒哀楽が分かりやすい彼女には珍しく感情が一切見当たらない。精巧に造られた人形のようだ。
    「フーム、身体を冷やす前に戻るんだ」
     メタナイトはフームに声をかける。その声は優しかった。彼女は月に背を向け、メタナイトと向き合った。両手を広げ、微笑みかける。
    「……わたしが消えたところで、何が変わるの?」
    「…………」
    「ここで消えたとしても、世界はきっといつものように進んでいく」
     彼女は歌うように告げる。メタナイトは思わず息を飲んだ。月明かりに照らされる彼女は幻想的で、まるで赤く染った月に飲み込まれるのではないかという錯覚を覚えた。目元の雫も赤く染め上げられる。メタナイトは思わず彼女の手を掴んだ。
    「いくな」
    「メタナイト卿も連れてっちゃうかもよ?」
    「そなたが望むのなら」
    「……ほんとに?」

    ・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

     子供たちは寝静まり、大人たちの時間になる。城に泊まっているカービィもブンやフームと一緒に夢の中にいた。
    「陛下も大臣も本気なのですか」
    「フームは目を離した隙に飛び込むぞい」
    「どんなに隠していても、いつかは気がついてしまうからね。もう薄々気がついているかもしれない」
     メタナイトはパームから大事な話があると言われ、いざ指定された場所に来てみたらデデデとエスカルゴンもいた。デデデは対カービィに魔獣をデリバリーするときと違い、大王の——大人の顔を覗かせている。曲がりなりにも国を治めているのだ。パームがデデデに目配せすると、デデデは「少しずつフームを政治に参加させる」と告げた。既に話は通っていたのかパームもエスカルゴンも異論を唱えない。メタナイトは目を丸くする。
     フームは子供から大人の女性へと変わろうとしていた。将来有望な星の戦士の名が宇宙に名を馳せることによって、大臣の娘でありカービィをそばで見守っているフームの存在も国外に知られるようになる。メタナイトは星の戦士として各地を回っている間、さまざまな国を見てきた。それは悪い人を倒すという単純なものだけではなく、内部の腐敗から起きた悲劇も少なくはない。デデデは良くも悪くも単純だった。少なくとも子供たちやカービィが関わるとなると。だからメタナイトはまるでお伽話のような勧善懲悪の世界でカービィを、そしてフームたちをなるべく己の意思で動くことが出来るように心がけた。
     メタナイトもいずれカービィには見聞を広めることが必要だと考えていた。しかしフームやブンは盲点だった。彼女たちは庇護下で伸び伸びと過ごしてほしい、仮面の騎士はそう願っている。そこには本来巻き込むつもりはなかった罪悪感のようなものも含んでいた。ともかく、彼は上司であるデデデの宣告に不満だったのだ。
    「しかし彼女はまだ……」
    「部下は上司の言うことを聞くぞい」
    「――パーム大臣、なぜ?」
     メタナイトはデデデの言葉を意図的に聞き流した。フームが聡明な少女であることはメタナイトも認めている。おまけにさまざまな分野に興味を示し、そんな彼女の知的好奇心を満たす本が城の書庫に多数収められていた。カービィが来たことをきっかけに彼女の才能は一気に開花する。彼女は大人顔負けの知識を身に付けるようになった。避けていたメタナイトとも積極的に関わるようになり、一人でかつて避けていたことを後悔する日もあった。メタナイトは長い時を生きている。本で得る知識よりもより深く学べた。
     そのうえ正義感も持ち合わせている彼女が政治に興味を持たないわけがない。メタナイトも内心では理解していたが、自分自身が納得出来ずにいた。脳裏には道半ばで散って逝った者たちの最期。そこにフームが加わるかもしれないことがメタナイトには受け入れ難かった。
    「フームが政治の本を読み始めたことは知っているだろう?」
    「……はい」
    「私だって娘が政治の駆け引きに関わるのは好ましくない。でも、無理に隠すことはしたくないんだよ」
    「……申し訳ない、少しだけ時間を」
    「いくらお前が悩んでももう決まったことぞい」
     メタナイトは無言で去った。いつもよりマントがなびいている。エスカルゴンは話に加わらなかった。加わる気もさらさらなかった。これは決定事項、トップの命令は絶対だ。メタナイトは珍しく見逃していたが、デデデの拳がわずかに震えていた。フームを、子供たちを大切に思っているのはメタナイトだけではない。親であるパームはもちろん、同じ城に住んでいるよしみとしてデデデやエスカルゴンにも思い入れはある。
     今では姉として振舞っているフームも、弟が出来てしばらくは弟に嫉妬することもあった。城のなかで悪戯をして主にワドルディやワドルドゥ隊長に迷惑をかけたことも一度や二度だけではない。見兼ねたデデデやエスカルゴンが手を差し伸べたり、ワドルドゥ隊長も悪戯を注意することはあっても彼女を避けることはしなかった。逆にフームはメタナイトを避けていた。数回悪戯に顔を出して、いつの間にかメタナイトに近付かないようになっていた。幼い彼女にとって仮面が、まとっている雰囲気がとても近づけるようなものではなかった。
     カービィがププビレッジに舞い降りた当初は、真っ向から対立することも多かったデデデとフームも時が経ち軽口の応酬だけで済むことが多くなる。ナイトメアを倒したことによりデリバリーで魔獣を取り寄せる機会がぐっと減ったこともあり、カービィの身に危険が及ぶことも少なくなった。デデデが思考の海に潜っている間、そばに配置されていたテーブルにはお酒が並んでいた。
    「陛下、せっかくですから一杯いかがです?」
    「……エスカルゴンも座るぞい」
    「はいでゲス」
     三人は乾杯をする。最初に口を開いたのはエスカルゴンだった。先程の会話を思い出し、目尻を下げる。分かる者には分かるわずかな違い。現役を退いたとはいえ戦士だったメタナイトだったら察知出来たはずの違い。デデデは無言で促した。
    「メタナイトが反論しているときの陛下は見物だったでゲス」
    「……フン。あやつが口答えするにはまだ早いぞい」
    「父親の私が言うのもなんですけど、あの頃はずいぶんと懐いてましたからねぇ」
    「何度城の物を壊されたことか……。デリバリーサービスで悪戯しようとしたときは肝が冷えたでゲス」
    「……それは申し訳ない」
     昔話に花開く。寂しがり屋の女の子だったフームの数々のお転婆エピソードを本人の知らぬ間に掘り起こされた。本人がいたら顔を真っ赤にさせて話を中断させていただろう。それはメタナイトがあまり知らないフームの一面だった。ブンもフームの悪戯に加勢する時期があったりもしたが、いつからかブンは村の外に行くようになりフームは本を読むことが多くなる。それからはデデデが魔獣をデリバリーすることによって彼女たちと触れ合っていた時間を持て余していた。
    「――目の見えるところに置いとくほうが分かりやすいぞい」
     ふと、デデデが言葉を紡ぐ。メタナイトもデデデたちもフームのことを考えての意見だった。本質的には同じでもメタナイトとデデデたちでは方向性が違う。政治の世界に入っていくということは、自然と大王であるデデデや大臣であるパームの見えるところにいる確率が多くなる。さらに、大臣令嬢という肩書だけだったら政略結婚の危機が迫ったときに要求をのまざる得ない場面が出てくるかもしれない。そうなったとき、彼女はきっと身を捧げる覚悟を決める。性別の差は本人たち――フームとブンが望んでいないところで出てきてしまう。
     かつてデデデから売り言葉に買い言葉の勢いとはいえ《ヒロイン失格》と言われたフームも、今では文句のつけようのない美人になった。おまけに頭脳明晰で徐々に落ち着いた一面も見せ始めている。体力も人並み以上にはあり(これに関してはカービィがププビレッジに来た影響が大きい)、どこから漏れたのか大王宛にお見合い写真が送られてきたこともあった。ちなみに今のところデデデが破り捨てているのでフーム本人には知らされていない(――《ひかくさんげんそく》ぞいと叫びつつ焚火の材料にしているのだとか……真偽は定かではない)。今はまだすっとぼけることが出来る。カインはまだフームにお熱のようだが幸いにもフームにその気はなく、カインの好きの形も少しずつ変わっていった。
    「それにしても、メタナイト卿も思ったより不器用で……」
    「じじいでゲスからね」
    「はは、エスカルゴン閣下は容赦がない」
    エスカルゴンは吐き捨てるように呟き、パームは苦笑する。そしてグラスに視線を落とした。
    「……私はね、不安なんですよ。星の戦士の生きざまを見たあの子も後を追ってしまうのではないかって。きっとそれが出来てしまう。そんな子なんです」
     パームがグラスを傾けると、中に入っていた氷が音を立てる。そして残っていたお酒を飲み干した。用意したおつまみも底を尽き、いよいよお開きとなる。どこから出てきたのか、数匹のワドルディがグラスや食器を厨房に運んでいく。こうして彼らの夜も終わりを告げた。
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    智美。

    MAIKING続フォロワー様のフムブン姉弟ちっこい頃ツイから膨らんだアニカビ妄想。大人組考えようとして轟沈するの図。オチとか色々はカビちゃが吸い込みました
    「……こんなものっ」
    デデデのハンマーを拝借してあの転送装置の前に立つ。怪しげな商売にすぐ乗っかるデデデもデデデだけれど、そもそもこんなものさえなければ大事にはならなかったのだ。元凶を絶ってしまえば良い。簡単な話だ。賑やかな足音が聞こえる。デデデは乱暴に扉を開けるとわたしを指す。デデデと少し遅れてやってきたエスカルゴンは目を丸くしていた。
    「何をするゾイ!?」
    「何って……見て分からない?」
    「わわわ、フームが暴走してるでゲス!」
    「だってこれがあるから村のみんなも困ってたじゃない」
    「……やめるんだ」
    藍色のマントがなびく。ハンマーはあっさりとわたしの手から離れた。メタナイト卿はこんな行動を取ったわたしに困惑している。気配を察することは難しいけれど、何を思っているかは少しだけ理解出来るようになった。小さい頃はその仮面が珍しくて、そして怖くなって距離を取っていたっけ。関わってみないと分からないこともある。メタナイト卿は一応デデデの部下だ。時々忘れそうになるけれど。
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