魔族と6ゴールド※医療に関する記載は、ファンのBJ愛の代物として寛大に見てくださると幸いです。
天才無免許外科医のブラック·ジャック(以下BJ)が、独り言を言いながら森で迷っている。
「クソっ。手配されたチケットで船に乗ったが、パプニカってのは一体どこだ。そんな国あったか?」
「途中のバルジ島の大渦だったか。あれ、淡路島の間違いじゃないのか」
カバンにへばりつくスライムにでくわすが、お前のお仲間がいるじゃないか、と、ヒョウタンツギを登場させてもろとも蹴っ飛ばす。
そこにフードをかぶって薬草摘みをしている少年が現れる。
「おい坊や、ここは」と、声をかけるが、逃げてしまう。追うBJ。
ついた場所は小さな小屋。
ベッドには痩せた若い婦人が横たわっていた。傍らの少年の肌は青く、耳が大きく、両頬に痣がある。
「帰れーっ!お前も母さんをいじめに来たんだろう!」
「ラーハルト、いけません。あっちに行ってらっしゃい」
少年を部屋から出し、辛そうに起き上がって話す婦人。
「旅の方ですね。驚かれたでしょう。あの子の父親は魔族ですの」
「魔族ですって?!そんなバカな?!」
「村の者は怖がって、ちょっかいをだすものですから。失礼をお許しください」
婦人の「青い肌は魔族」の言葉をBJは迷信と考え、ラーハルトを特異体質の人間と認識する。(「メトヘモグロビン血症の遺伝」「青い肌のファゲイト一族」等の解説コラムが挟まれる。)
BJは幼い頃を不発弾事故で、母を亡くし、自身もその際の顔の手術痕による差別を受けてきた身なので、親子に同情し、母親の診察を申し出る。ドアの影から覗くラーハルト。
「おじさん、僧侶なの?」
「医者だよ。坊やには、俺が坊主に見えるかい」
「回復魔法をかけて治してくれるんじゃないの」
「魔法?これは診察だよ」
見立てたところ開腹手術を行えば快方に向かえるが、このままでは回復の見込みは少ない。だが、BJは肝心の麻酔薬をスライムを退治する際に割ってしまった。
「残念だが、今は麻酔がないから手術ができない。あれがないとお母さんは痛みに堪えられないんだ」
「そんな、魔術ができないなんて。母さんを助けて!」
泣きつく少年。困り果てるBJは薬草の小籠をみつける。
「この草、俺も宿屋の引き出しにもあったのを持っているな。どうやって使うんだ。口臭でもとるのかね」
「こうやって食べるんだ。怪我をしたらそれで元気になれる」
「ふうん、電気もなくて、魔術に薬草、まるでおとぎ話の国だ」
ふと、薬草を一口かじり、思い立つBJ。
「坊や、私の手術代は高いぞ。ドル……ではないか、600000ゴールド払えるかね」
聞いたことのない金額に言葉をつまらせる少年。
「……払うよ!今はないけど絶対に払う!!そしたら魔術してくれるの」
「魔術じゃなく、手術だよ。ならば一か八か今から森中の薬草を集めるぞ!」
経口摂取する薬草には、麻酔成分があるのではと推測したBJ。ラーハルトと大量の薬草を集める。そこにひのきの棒や銅の剣をもった男らが現れる。とっさにBJはラーハルトを茂みに隠す。
「あんた、このあたりで青い子供の魔族を見なかったか」
「みてないな。この先には人間の親子が住んでいるだけだ」
「それだ」「その子供は悪魔の子だ」「お前も仲間か」「黒くて怪しいやつだ」
にじるよる男に懐からメスを取り出しクナイのようになげるBJ。驚くラーハルト。
「急所ははずしてやったぞ。悪魔ども」
小屋に戻り、薬草を焚いた香気を母親に嗅がせ、麻酔のかわりとし、そのまま手術を行う。
(BJは時には緊急時は民家でも手術をするので今回もその類。)
夕方、部屋から出るBJ。
「あの薬草のおかげで成功した。お母さんは頑張ったよ。一週間安静にして、傷がふさがったら動いて良いぞ」
眠る母親に喜んですがるラーハルト。
「あっ、お金……600000ゴールド……」
「ん?なんだそんなこといったか?それより、俺の持っていた薬草の金額、たしか6ゴールドだっけか。それをもらおう」
きょとんとするラーハルトは6ゴールドをわたす。
「おれの番か。これはお前さんがとってきた薬草代。足りるかね?」
BJはゴールド一袋をラーハルトに渡す。
驚くラーハルト。
「草だけじゃなくて、滋養のつくものを食べさせるんだぜ。違う土地にも越せるだろう」
「おじさん、ありがとう。こんなことしてもらったの、はじめてだ」
「お前さんの心意気に負けたよ。少し俺の子供の頃を重ねちまった」
そろそろいかないとな、と小屋を出る。
「坊や、強く生きるんだぞ!お母さんをだいじにな!」と、6ゴールドをかかげて、BJは小屋を背にして去る。夕焼けの空が赤い。
暖かな日の中、山の高台で母親に抱きついて甘える少年の姿で話を結ぶ。
《おわり》