🌟の誘惑にいつも負けちゃう🎈「たらいまあ」
気の抜けたへろへろな声が聞こえてきて、思わずため息を1つ。「大学時代のサークルの同期と飲みに行ってくる」とうきうきした顔で笑った司くんが家を出て行ったのが6時間前。現在は深夜0時25分。彼が日付を越えるような時間帯に帰ってくるときは大体、仲間と楽しみすぎて枷が外れた状態になっている証拠だと同棲を始めてから理解した。実家に暮らしていたときはお酒を飲んでも呂律が回らなくなるほど酔っ払って帰宅したことはないと咲希くんから聞いていたので、彼はきっと僕にとても気を許してくれているのだろう、と嬉しくなる。
が、酔っ払った司くんはなかなかに面倒くさいというのが事実。
「おかえり。遅かったね」
「るい〜」
「はいはい」
そして可愛いのもまた、事実。
玄関まで行くと靴を脱がずに座ったまま僕の両足に抱きつく司くん。「とりあえず靴を脱ごうか」と言うと、のそのそと動いてスニーカーを脱ぎ、リビングに向かって歩き出した。僕が支えなくても立っているあたり、今日はそこまで面倒臭くはならなそうだ。緩慢な動きが少し面白かったのでそのまま見守っていたら、彼は「う〜」と言ってリビングまであと少しというところでうつ伏せになって倒れ込んだ。
「大丈夫?具合悪い?」
「わるくない……」
「それは良かった。支えてあげるからとりあえずベッドまで行こう」
悪酔いはしていないらしく、ただ頭が回っていない状態のようだ。それでも相当飲んだのだろう、朝起きたら二日酔いに悩まされるに違いない。早めにベッドに寝かせて水をあげないと。
と冷静に考えながら司くんを起き上がらせようとしたそのとき。急に身体が引き寄せられた。
「…………もっとちかくにこい」
「……え、ちょ……ッ!」
「…………るい」
酔っ払った司くんは面倒くさい。"酔っ払って思考が麻痺している司くんは抱かない"という強い意志を持つ僕を誘惑してくるから。
「……僕を押し倒す余裕があるなら、1人でベッドに行けるよね」
「るいといっしょにいく」
「だったら一旦そこをどいてね」
「いやだ。はなれないぞ」
この怪物、どうしてくれようか。普段はこんなに迫ってくることはないのに、お酒が入った途端にこうだ。正直やめてほしい。
ただでさえ大人になって色っぽくなった司くんがお酒のせいで("おかげ"ではない。断じて違う)赤く染めた頬と蕩けて潤んだ瞳を向けてくるのだ。更に警戒心も羞恥心もないためにひたすら身体を密着させてくる。今だって上半身をぴったりとくっつけてきて首元に顔を埋めているから、生温い吐息がかかって非常にくすぐったい。というか腰をいやらしく揺らさないでほしい。当たるから。ナニがとは言わないが。
考えてみてほしい。25歳の男が恋人にこんなことをされたらどうなるか。どうもならないように必死に目を瞑って理性を保っている僕は世界中の男から賞賛されるべきだ。
とにかく心を無にしよう。酔っ払った彼を抱いたところで虚しくなるだけだ。謎の罪悪感が残るだけだ。二日酔い+腰の痛みで物凄く機嫌を悪くした司くんに怒鳴られるだけだ。具体的に言えるのは経験済みだからだ。
「早く寝ないと明日に響くよ。ほら、ベッドに行こう」
僕から離れようとしないのを利用して、両腕でガッチリ抱きしめながら起き上がる。無理矢理寝室へ連れて行ってベッドに放り投げて水を持って行って終わり。僕ならそれができる。力が抜けている司くんをお姫様抱っこして真顔のまま部屋へ向かう。
今日こそは大丈夫。そう思ったときだった。
「…………ん、んぅ」
「……⁉︎……ちょ、っと!いい加減に……ッ」
ちゅ、ちゅ、と、何度も首筋にキスをされた。思わず顔を向けたら、司くんと目が合った。
「したい」
へにゃりと目尻を下げて微笑む恋人と、目の前にあるベッド。
世界中の男に問いたい。25歳の男が恋人にこんなことをされたとき、抱く以外の選択肢は果たしてあるのだろうか、と。