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    🎈🌟(タイトル未定)。後日完成版を支部に投稿予定。
    精神的にやられた🌟を🎈が救う話。
    ※前回の🍬バナーイベストまでのネタバレ含
    ※🌟の内面捏造有り
    ※ルツの皮をかぶった「⭐️の王子様」布教作品。参考・引用文献は最後に書いています。

    精神的にやられた🌟を🎈が救う話――「王子さまは、バラの花をながめました。花がみな、遠くに残してきた花に似ているのです。」

    ――「遠くに残してきた花は、じぶんのような花は、世界のどこにもない、といったものでした。それだのに、どうでしょう。見ると、たった一つの庭に、そっくりそのままの花が、五千ほどもあるのです。」

    ――「『ぼくは、この世に、たった一つという、めずらしい花を持ってるつもりだった。ところが、じつは、あたりまえのバラの花を、一つ持ってるきりだった。…………』」

    ――「王子さまは、草の上につっぷして泣きました。」

    ***

     司が右足首を捻挫したとき、周囲には誰もいなかった。

     ワンダーステージで1人倒れたままうずくまり、患部を両手で抑えながら痛みに顔を歪める。なんとか起き上がり座った司は歯を食いしばって「くそッ……!」と自分に対する情けなさを吐き出した。普段の頼もしさは息を潜めており、数分前から広がり始めた暗闇が司の背中に覆いかぶさっている。

     捻挫をしたら出来る限り早く氷や冷水で患部を冷やす必要があると分かってはいたが、今、司の手元にそんなものはなく、痣のような紫色になったそこは徐々に腫れ始めていた。とにかく応急処置だけはしなければならないと、片足の力だけで立ち上がって歩こうとしたが捻挫をした右足首はズキズキと痛みを主張してきて、もはや満足に地面を踏むことはできなくなっていた。

     司は履いているズボンのポケットからスマホを取り出した。誰かに電話をかけて迎えに来てもらおうと思い、スマホに登録されている連絡先を確認する。

     鳳えむ、天馬咲希、青柳冬弥に草薙寧々。それから、神代類。さらには母親や父親、仲の良い同級生の名前がズラズラと並ぶ。

    「…………」

     ――司は画面を閉じて、再び立ち上がった。

     本来ならば無理に動かず安静にしていなければならない状況で、片足跳びをしながらステージを降りる。跳ねるたびに振動で疼く痛みに耐えて壁に寄りかかりつつ更衣室へと辿り着くことができた司は、万が一に備えて保管されていた救急箱を手に取って、中にあるベンチに跨るように座る。そして、右足をベンチの上に置いて救急箱を開けた。

     冷却スプレーをかけて少しでも熱を下げようと試みるが、既に捻挫をしてから幾分か時間が経っていたため腫れは全く引かなかった。ハサミを取り出して、適切な長さに切ったテーピングテープを足首に巻き始める。いつでもどこでも、そばにいる誰かが足首を捻挫した際にすぐ応急処置ができるよう、司はテーピングの方法をしっかり身につけていた。それが功を奏し、司は無事足首を固めることができた。

     ショーに支障が出ないよう常に万全の準備をして練習に臨んでいたのに、と、司は情けなさと不甲斐無さに満ちた今の自分に舌打ちをした。同時に、数日前から胸の内に燻っていた感情が顔を出す。

    「……あいつらに置いていかれるわけには……ッ」

     立てた右膝に額をあてて眉間にシワを寄せた司が発した声は、狭い更衣室に虚しく響き渡った。

    ***

     司が抱いているのは"焦燥感"だった。ファンフェスタで聞いた寧々の歌声。過去のしがらみを打ち破った類の素晴らしい演出。海外遠征以降、発想や表現力に磨きがかかり向上心が高まっているえむ。それから、直接目にした海外のショー。

     「自分には一体なにができるのか」という問いが司の脳内を支配した。「自分だけの武器はなにか」「スターになるためにはどうすればいいのか」「3人に置いていかれないようにするにはなにをすればよいか」。全てが焦りにつながった。

     だから、答えを見つけるために今日から居残り練習を始めた。夕方までいつも通り4人で練習をしたあと、一緒に帰ろうとする3人に「先に帰ってくれ」とお願いをした。努力し続けて、他のメンバーよりも沢山練習をする。そうするしか答えは見つからないと思い、司は振り付けの確認や1つ1つの身振り手振りの見直し、より観客を魅了する立ち振る舞いや台詞の言い方を細かく研究しようとステージに1人で立った。

     捻挫をしたのは居残り練習を始めて30分ほど経ったときだった。土曜日である明後日の公演に向けた通し稽古を何回もやって、あのえむでさえ「ヘトヘトだ〜」と練習後に座り込んだくらい全力で長時間動いた直後のダンス練習。司に疲労が溜まっていないわけがなかった。

     しかし彼は動き続けた。「ここで頑張らなければ座長としてあいつらの上に立つことはできない」と。その焦りとオーバーワークが司の足元をおぼつかせた。振り付けにあるターンの途中でバランスを崩し、重力に従い落ち始めた身体を支えきれなかった右足首が意図せず曲がってしまい、暗いステージ上で倒れたのだ。

     テーピングテープを巻き終わり試しに歩いてみれば、先程より痛みは感じなくなり(とはいえ痛みが完全に引いたわけではない)時間をかければ1人でも帰宅できるような状態になっていた。司はひょこひょこと歩きながら着替えを済ませ、荷物を持ってフェニックスワンダーランドをあとにした。

     平然とした顔で、歩き方で、ゆっくり進む。周りの人間に「怪我をしている」と思われないように。いつ何時知り合いに会うか分からないなか、いつも通りの自分を崩してはならないと司は強く思っていたのだ。

    (こんなことで心配をかけるわけにはいかない。すぐ治る。明後日のショーにも問題なく出られるだろうし、類達に迷惑をかけることもない。なぜならオレは……)

     ふと見上げた夜空には、都会にしては珍しく多数の星が視認できた。真っ白に輝く星は勿論、目を凝らせばようやく見えるような小さく薄暗い星も司の瞳を微かに照らす。

    (……オレは、未来のスターだ。それも一等星。夜空で最も輝く星。皆を惹きつけて、全ての人を虜にする男。それが天馬司だ)

     自らを鼓舞するその言葉は普段から司が多くの人の前で声高らかに主張していたものとほとんど似ている。「よし」と小さく呟いて前を向き始めた表情も、先程より明るく自信に満ちていた。

     しかし、足取りは怪我の影響で重いまま。歩くたびに襲いかかる痛みに耐えて表情を偽る姿は、まるで心の底に秘めた本音を必死に隠しているようだった。

    【参考・引用文献】
    ・サン=テグジュペリ作・内藤濯訳(2017)『星の王子さま』岩波文庫 p124.7-8, p125.8-12, p126.6-8
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