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    kurautu

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    kurautu

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    天と地の戦い終了後のピークとアニ。アル←アニ前提です。ピークちゃんがあの結末を受け入れるのには時間がかかったのではないかな、と。

    #進撃の巨人
    Attack on Titan
    #ピーク・フィンガー
    peakFinger
    #アニ・レオンハート
    annieLeonhardt.

    わたしたちのハッピーエンド 眩暈はあの日に乗り込んだ船の揺れに似ていた。目を開けて、仰向けの体を転がした。そこにある景色を確かめる。とりあえず宛がわれた私の部屋。慣れないなりに安らぎが見出せるようになってきた私の部屋だ。窓の外から聞こえる音へと耳を澄ました。その中から子供たちの笑い声を拾い上げて、そこでようやく息を吐く事ができた。肩の力が抜けて、毛布が擦れる音が微かに鳴る。……多分まだ、熱がある。眠ろうと目を閉じた所でノックの音が聞こえた。

    「はーい」

     寝起きのその声が扉の向こうまで届いていたのかはわからなかったけれど、少しの間の後に扉は開いた。淡い金色の髪が傾き始めた陽射しを跳ね返して光る。音もなく扉を閉めて、アニちゃんはベッドに横たわる私の隣へと歩いてくる。

    「顔色、悪いね」
    「そうだね……まだ万全ではないかな」
    「熱は?」

     その言葉にふと芽生えたいたずら心が私の手を動かした。毛布から出た私の手がアニちゃんの手首を緩く掴む。手を引こうとした気配は感じたけれど、振り払われる事はなかった。何度か目を瞬かせる姿を見て、自覚しているよりも熱が高いのかもしれない、と思う。それを証明するかのようにひんやりとしていた手首が私の体温に馴染んでいく。

    「眠れないの。話し相手になってよ、アニちゃん」

     ベッドの奥へと体をずらして、掴んだままの腕を引いた。アニちゃんは眉間に皺を寄せたけれど、結局何も言わなかった。ベッドの端へと腰を下ろす。手を離してみたけれど、逃げられる事はなかった。

    「……こんな風に寝込むのなんて、いつ以来かな」

     少なくとも継承してからは一度もなかったはずだ。戦いの中に身を置いていたあの日々のほうがずっと過酷な日々だったはずなのに。巨人の力を手放した体は頼りない。あの頃のように指先を嚙み切ったら、治るまでにはどのぐらいの時間がかかるのだろう。

    「アニちゃんは大丈夫?」
    「私は別に」
    「そう。それならよかった」

     その言葉に嘘はないのだろう。戦いの直後と比べると疲労の色は薄れているようだった。それが休息の時間が増えたからなのか、それ以外の理由があるのかは……わからないというわけでは、ないけれど。

    「アルミンはちゃんと休めてるかな」
    「……なんで私に聞くの」

     背を向けて座るアニちゃんの顔は見えないけれど、その耳の縁が少しずつ赤くなっていくのはわかるのだった。思わず零した笑い声に、アニちゃんはこちらに顔を見せないように浅く振り返る。睨みつけられてまた笑ってしまう。

    「元気なら働いて」
    「それもそうだね」

     身を起こそうとしたけれど、肩のあたりに素早く置かれたアニちゃんの手がそれを阻む。優しい子だったのだろう。ずっと。戦士候補生として過ごしていた頃よりもはっきりとそれが感じ取れる。その度に、世界は変わったのだと思い出す。世界中が踏み潰された事で、マーレを取り巻いていた戦争は終わった。私たちは巨人の力を失った。……それから、未来を手に入れた。

    「アニちゃん」

     呼ぶ声に返事はなかった。ただ、返事の代わりに肩に置かれた手の重さが緩んだ。首のあたりに寒さを感じて背中を丸める。毛布に口元をうずめる。

    「……あとは死ぬだけ、だったの」

     父さんにまともな医療を受けさせたい。巨人の力を継承した時点でその願いはもう叶っていた。それと引き換えに人生の終わりをずいぶんと早く迎える事になった。戦場で死ぬか、巨人の力を引き継いで死ぬか。その二つに一つだった。けれど、そんな事は承知の上だった。私の願いは叶ったのだから悔いはなかった。それなのに、幸運は何の前触れもなく、突然手のひらの中に転がり込んできた。
     私よりもずっと長く生きられるはずだったみんなの命の上に立っていた。他の命を犠牲にしてでも守られてきた。未来を引き換えにして、罪に対する報いにして、戦って、戦って、死ぬはずだった。そのはずだったのに。渦を巻く感情がまた頭の中を揺らす。言葉は思い浮かんだそばから崩れていく。アニちゃんは何も言わない私を急かす事はなかった。ただ、肩に置いた手を、私を起こさないために添えられた、もうとっくに役割を終えた手をそのままにしておいてくれる。
     どうしようか、と、戸惑いを呼びかけの形に変えた。あなたも同じでしょう、と、引きずり下ろすかのようだった。毛布を引き上げる。込み上げてくるのは自己嫌悪だ。一人立ち止まっているうえに、そこにこの子を留めようとするだなんて、本当に、どうしようもない。叱ってほしい、と思い浮かべた人たちは、もう記憶の中にしかいない。何度も受け入れたはずのその事実は、何度でも蘇って心臓を締め上げる。苦しいと思うのは私が生きている証拠だ。この苦しさを手放す日も遠くはないはずだったのに。
     アニちゃんは私を叱ってはくれないだろう。多分、呆れて、それで終わり。目を閉じて、肩の上にある重さが音もなく消えていく瞬間を待っていた。予想通りにふっと重さが消えて私は一人取り残される。それでいい、と思うよりも先にそのささやかな重さはまた肩に戻ってきた。

    「考えすぎだよ、急に。……長生きするんだから、私たち」

     長生きってなんだったかな。そこから思い出さないといけないぐらいに遠い言葉が、当たり前のように私たちの間を転がった。放り投げるように口にした言葉に滲む感情はきっとあまりにも複雑で、少なくとも私にはその一つ一つを確かめる事はできない。ただ、見上げるアニちゃんの横顔はどこかすっきりとして見えた。体を仰向けに転がす。部屋に射し込む光は夕方の色に染まり始めていた。

    「私は言われてないからなあ」
    「私も一方的に言われただけ。保証してくれるわけでもないんだから同じだよ」

     肩から離れた手が、寝返りを打ってできた隙間を埋めるように毛布の端を引いてくれる。思ったよりもずっと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。そう思うと口元も緩むけれど、気づかれたらまた怒られてしまいそうだから内緒にしておこう。

    「とりあえず、今は寝たら?」
    「そうだね。……そうだね、まずはそうしないとね」

     今はその言葉に甘えていよう、と思った。熱はあるし、眩暈もするし、こんな頭で考えてもきっと答えは出ないままだ。ゆっくり考える時間がある。その事実がまた胸を締め付けるけれど。
     アニちゃんが立ち上がって扉へと向かう。仰向けのまま、頭だけを向けてその背中を見送った。扉を開けて部屋を出る直前にアニちゃんは振り返った。毛布から出した手のひらを振って応えると、ふ、と小さく笑う息の音が聞こえる。橙色の空と小さな背中が扉の向こうに消えた。目を閉じる。瞼の裏に夜がやってくる。この夜を抜けた先で、私はきっとまた迷子のような気持ちで立ち尽くすのだろう。それでも、私は朝を迎えに行く。

    (END)
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    kurautu

    DONE2020年4月頃の話。こちらの世界と同じ事が起きています。
    REBOOT 部屋はもうすっかりキレイになっていた。まるで雨彦さんが掃除をしてくれたみたいに。テレビもつけずに、スマホを手に取る事もせずに、僕は畳の上に転がって天井を眺めていた。少しだけ開けた窓からは爽やかな風が流れ込んでくる。今すぐ電車に飛び乗って、あてもなくふらりと、どこかへ。そんな気分になる季節だった。それが叶うだけの時間もあった。だけど、できなかった。目に見えないそれはどこを漂っているのかなんてわからないのだから。
     大学の授業は休講になった。決まっていた仕事も軒並み延期か、中止になった。予定していたライブも……やりたい、だなんて、言えるはずがない。レッスンすらできずに僕たちはそれぞれの場所にいた。こうなる前に、最後に丸一日家から出なかったのはいつだっただろう。何をしようかと楽しみにしていたあの時の気持ちは今の僕の中にはなかった。読みたい本はたくさんあるけれど、観たい映画もあるけれど、今はそれを心から楽しめる自信はない。こんな気持ちで触れるのはどうしても気が進まない。そうやってたくさんの選択肢を潰した結果、僕はこうして何もせずに転がっていた。時間が過ぎていく。焦るというよりももっとぼんやりとした、けれど大きな何かが体ごと押さえつけているようだった。
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    kurautu

    DONE王子様としての一歩目の話です。みのりさん誕生日おめでとう!
    おうじさまのはじまり 足の裏に伝わるのは硬い床の冷たさだ。大きな窓から降り注ぐ光は明るいけれど、広々としたこの場所の空気を温めるのには時間がかかる。開場して人が集まれば消えてしまう温度を存分に味わう事ができるのは、出演者である俺たちの特権だ。俺たちといっても、今ここにいるのは俺だけだけれど。
     夢の中だった。裸足で歩いている俺も、スタッフさんの声一つ聞こえないこの場所も、ありえないのだと知っている。それならばいっそ、この空間を楽しむだけだ。願えば床を一蹴りするだけで簡単に飛べそうだけれど、俺はそれを選ばなかった。それよりもここを歩いていたかった。
     穏やかな日差しの中に並ぶフラワースタンドを一つ一つ眺めながら歩いていく。夢の中のフラワースタンドたちは、俺が目を覚ました世界のどこにもない。だからこそ目に焼き付けたい。作り出しているのは俺の記憶だとしても、それを作り上げているのは今までに触れた花たちだ。もらった花、贈った花、誰かが贈るための手伝いをした花。花の中には俺たちの名前も、俺の名前も掲げられていた。それを当たり前のように思い描けるほどに、たくさんの気持ちを受け取ってきた。手を伸ばして花に触れれば、水を含んだ冷たさが伝わってくる。大事な舞台を前にした緊張と高揚をそっと鎮めてくれるような温度だ。
    1937

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