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    kurautu

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    kurautu

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    雨彦とクリスのクロール対決を見届ける想楽くんの話

    #アイドルマスターSideM
    theIdolm@sterSidem
    #Legenders
    legends
    #北村想楽
    Sora Kitamura

    ガチンコクロール対決 笛が鳴った。春の入口で鳴くウグイスのような素っ頓狂な音で。真夏の太陽の下、プールサイドで弾けた笑い声はきっと二人には届いていない。キラキラと光る水の中に二人は消えた。弾丸のような速さで二つの影が遠ざかっていく。

     先に水面から顔を覗かせたのは雨彦さんだった。長い腕が水を掻く。水を掻いては進む。それから少し遅れてクリスさんの頭が見えた。静かに泳いだ方が速いらしいと聞いた事がある。水の抵抗だとか、体力だとかの関係で。それを頭で知っているのか、体で知っているのか、二人の泳ぎは静かだった。小学校や中学校のプールの授業を思い出すと、そこにあるのはバシャバシャと鳴る水の音ばかりだけれど。さっきまでの笑い声はどこへやら、みんなはじっと二人の勝負の行方を見守っていた。蝉が鳴いている。僕の影が小石をいくつも飲み込んだコンクリートの上にくっきりと描かれている。汗が首筋を滑り落ちた。顔を上げると、燦燦と降り注ぐ白い光に目が眩む。

     プールへと視線を戻すと、向かい側から声が上がった。折り返しだ。どっちも頑張れ。その言葉の通り、影は鋭く方向を変えてこちらへと向かってくる。クリスさんの方がほんの少しだけ早いけれど、雨彦さんも負けてはいない。二人が今どんな表情をしているかは誰にもわからないけれど、僕はなんとなく知っているような気がした。

     水面は微睡むように揺れていた。ここから飛び立った嵐も、これからやってくる嵐も知らないような顔で。日焼け止めはきっと、すっかり汗に流されている。アイドルに日焼けは禁物だ。頭の中でそう声を上げる僕の事は無視をした。僕が結末を見届けなくてどうするのかな、と問いかけた所で僕は返事をしないけれど。一歩踏み出してその場でしゃがみこんだ。二つの影の間、ちょうど真ん中に。サンダルの先が宙に浮く。揃えた膝を抱えると、その先に見える水面は穏やかな眠りを奪われて、嵐の気配に震えていた。影が近づく。光が揺れる。伸ばされた指先が壁に触れた。水しぶきが上がって。

    (END)
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    kurautu

    DONE2020年4月頃の話。こちらの世界と同じ事が起きています。
    REBOOT 部屋はもうすっかりキレイになっていた。まるで雨彦さんが掃除をしてくれたみたいに。テレビもつけずに、スマホを手に取る事もせずに、僕は畳の上に転がって天井を眺めていた。少しだけ開けた窓からは爽やかな風が流れ込んでくる。今すぐ電車に飛び乗って、あてもなくふらりと、どこかへ。そんな気分になる季節だった。それが叶うだけの時間もあった。だけど、できなかった。目に見えないそれはどこを漂っているのかなんてわからないのだから。
     大学の授業は休講になった。決まっていた仕事も軒並み延期か、中止になった。予定していたライブも……やりたい、だなんて、言えるはずがない。レッスンすらできずに僕たちはそれぞれの場所にいた。こうなる前に、最後に丸一日家から出なかったのはいつだっただろう。何をしようかと楽しみにしていたあの時の気持ちは今の僕の中にはなかった。読みたい本はたくさんあるけれど、観たい映画もあるけれど、今はそれを心から楽しめる自信はない。こんな気持ちで触れるのはどうしても気が進まない。そうやってたくさんの選択肢を潰した結果、僕はこうして何もせずに転がっていた。時間が過ぎていく。焦るというよりももっとぼんやりとした、けれど大きな何かが体ごと押さえつけているようだった。
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    kurautu

    DONE王子様としての一歩目の話です。みのりさん誕生日おめでとう!
    おうじさまのはじまり 足の裏に伝わるのは硬い床の冷たさだ。大きな窓から降り注ぐ光は明るいけれど、広々としたこの場所の空気を温めるのには時間がかかる。開場して人が集まれば消えてしまう温度を存分に味わう事ができるのは、出演者である俺たちの特権だ。俺たちといっても、今ここにいるのは俺だけだけれど。
     夢の中だった。裸足で歩いている俺も、スタッフさんの声一つ聞こえないこの場所も、ありえないのだと知っている。それならばいっそ、この空間を楽しむだけだ。願えば床を一蹴りするだけで簡単に飛べそうだけれど、俺はそれを選ばなかった。それよりもここを歩いていたかった。
     穏やかな日差しの中に並ぶフラワースタンドを一つ一つ眺めながら歩いていく。夢の中のフラワースタンドたちは、俺が目を覚ました世界のどこにもない。だからこそ目に焼き付けたい。作り出しているのは俺の記憶だとしても、それを作り上げているのは今までに触れた花たちだ。もらった花、贈った花、誰かが贈るための手伝いをした花。花の中には俺たちの名前も、俺の名前も掲げられていた。それを当たり前のように思い描けるほどに、たくさんの気持ちを受け取ってきた。手を伸ばして花に触れれば、水を含んだ冷たさが伝わってくる。大事な舞台を前にした緊張と高揚をそっと鎮めてくれるような温度だ。
    1937

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