俺たちの虎の子虎の子。
--大切にして身につけて守り離さないもの。
場地と千冬と暮らし始めて何度目かの冬。こたつでみかんを食べながら、向かいに座る千冬に足をもっと引っ込めろだの何だの言われつつ、のんびり過ごしていた。
お前らうるせぇと言う場地も含めて、ぎゃあぎゃあ言いながらも笑い合うこの時間が好きだ。
今年は寅年。トラにまつわる話がテレビから聞こえてきた。その中で気になった「虎の子」の意味に、いたたまれない気持ちになって立ちあがろうとした時、テレビの正面に座る場地に右手を掴まれた。
「直接聞いたわけじゃねぇからわかんねぇけど、お前が産まれた時、すげぇ大切に思ったんじゃね?」
場地は俺の両親のことを言っているのだろう。大切?あんなことをされていたのに?
「だから名前に虎って入れたんかなって、いまテレビ見て思ったワ。」
場地の真っ直ぐな瞳から視線を外してしまう。そんなわけねぇじゃんって喉まで出かかった。
「俺もそう思いますよ。」
千冬も真剣な眼差しで俺を見ている。
「…っ」
声にならない声が出ていた。
「まぁ表現方法は間違えてたかもしんねぇけど。一虎はそんなことねぇって思ってるかもしれねぇし。でも今の俺たちにとって一虎はさっきのあれだワ。」
「そうですよ。一虎くんは場地さんと俺にとって虎の子です。」
千冬は優しい眼をしていた。
「そうだ。だからここにいろ。どうしていいかわかんねぇ時、泣きたくなった時、1人になろうとせずに俺たちの側にいろ。地獄まで一緒っつったろ。」
八重歯を見せながら笑って言った場地の言葉に、俺は眉を下げて笑い返した。