白と黒の布 尾行けられている、とカリムが感じたのは、おそらく刺客自身が気付くよりも随分前だ。
むせ返るようなスパイスの香り。日よけの隙間から届く光線のような陽光。賑わう人通り。今まで何度も視察に訪れた街のバザールで、まさか命を狙われる羽目になるとは。
「……あぁ~、せっかく楽しんでたのになぁ」
カリムは後ろ頭を掻いた。生地屋の店主と仲良くなって、自分に合う布地を買ったところだ。ホテルに届けてもらう約束をして、さて次の店へ、と思っていたが、どうやら引き上げ時らしい。
「おっちゃん、それ、やっぱり自分で持って帰るよ」
「でも、結構重たいぜ、坊ちゃん」
自分に合う布地だが、兄弟にも合うだろう。そう思って買い込んだ布地は、心棒に巻き付けられた状態のままであり、長さも重さもそれなりにある。
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